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第四話 出立
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結局、私たちが旅に出発したのは、私がこの世界に来てから10日が経った日になった。下着も完成し、私の魔術も少しだけ成長した。ちなみに、一昨日や昨日もレリエに知識を口移ししてもらった。最初はすごくぎこちなかったレリエのキスも、今では舌の使い方を把握したようで、私の歯と歯茎の境を執拗に舐めてくる時がある。
「まず向かうのは、ここから西側にあるコーゼスという村です。思いの外家に長居してしまったので、新鮮な食料や薬草の調達が主な予定です。ワープ、しますか?」
「しなかったら、どれくらい歩く?」
「4日……でしょうか。一応、歩いていけるだけの備蓄はありますけど、どうします?」
小首を傾げて問いかけるレリエが可愛い。……能力が発揮されないだけであって、キスはいくらでもしていいんだよね。うん、しちゃえ。
「レリエ、可愛いよ」
柔らかな唇に触れ、血が滾るような感覚に襲われる。でも、今は我慢。
「歩いていこうよ。まだまだレリエに教えてほしいこと、沢山あるし」
私がにこりと笑みを浮かべながら言うと、レリエは少しだけ頬を染めた。赤面性は治っていない様子。そうそう、この数日間で、レリエが魔王を倒そうと決心した理由を教えてもらった。流石に、これは口頭でだ。幼い時から空間魔術の訓練ばかりをしてきたレリエにとって、人間社会で生きていくのは困難ともいえる。だからこそ、自身の持つ力で社会に対して貢献したい。ということで、術を使った物流事業に参加していたらしいが、それで満足することをよしとしなかったレリエは、空術最奥義である異世界からの勇者召喚を敢行。成功したからこそ、今のレリエの決心がある、というところか。何というか、年頃の少女にありがちな、特有の正義感とか冒険したい気持ちがありそうだけど、レリエの純粋な目に、そんな考えは捨てた。
「じゃあ、行きましょうか」
必要なものを全て支配領域に仕舞いこんだレリエが、私の旅装束の裾を引っ張る。
「うん、行こうか」
見慣れた森の光景を心にとどめて、木製の大きな屋敷の外に踏み出す。革製のブーツが、地面に足跡を残す。
「お姉ちゃん、ここで出来る最後の練習です。家を……燃やしてください」
レリエにとって住み慣れた家を二人で眺めながら、彼女は私にそう言った。最初、何を言っているのか理解が追いつかなかった。
「大丈夫です。本や一部の家財道具は売ってお金にしましたし――」
「そうじゃなくて、ここはレリエが師匠と過ごした大切な――」
レリエの言葉を遮って発した私の言葉は、今までに聞いたことのない程に強い口調で封じられた。
「思い出に……縛られるのは嫌なんです!」
「分かった……。全力でやるよ」
両掌に意識を集中させ、火を発生させる。それを、家へと投げつける。未熟な私の火力では、大きな木造屋敷を焼くことは叶わず、風属性の術を織り交ぜて最終的には爆破した。魔力が空になりかけた私に代わってレリエが消火した。悲しそうな表情をしていたけれど、決して涙を浮かべることはなかった。黒焦げになった家に背を向けて、私とレリエは旅立つ。魔王を倒すための旅へと。
「まず向かうのは、ここから西側にあるコーゼスという村です。思いの外家に長居してしまったので、新鮮な食料や薬草の調達が主な予定です。ワープ、しますか?」
「しなかったら、どれくらい歩く?」
「4日……でしょうか。一応、歩いていけるだけの備蓄はありますけど、どうします?」
小首を傾げて問いかけるレリエが可愛い。……能力が発揮されないだけであって、キスはいくらでもしていいんだよね。うん、しちゃえ。
「レリエ、可愛いよ」
柔らかな唇に触れ、血が滾るような感覚に襲われる。でも、今は我慢。
「歩いていこうよ。まだまだレリエに教えてほしいこと、沢山あるし」
私がにこりと笑みを浮かべながら言うと、レリエは少しだけ頬を染めた。赤面性は治っていない様子。そうそう、この数日間で、レリエが魔王を倒そうと決心した理由を教えてもらった。流石に、これは口頭でだ。幼い時から空間魔術の訓練ばかりをしてきたレリエにとって、人間社会で生きていくのは困難ともいえる。だからこそ、自身の持つ力で社会に対して貢献したい。ということで、術を使った物流事業に参加していたらしいが、それで満足することをよしとしなかったレリエは、空術最奥義である異世界からの勇者召喚を敢行。成功したからこそ、今のレリエの決心がある、というところか。何というか、年頃の少女にありがちな、特有の正義感とか冒険したい気持ちがありそうだけど、レリエの純粋な目に、そんな考えは捨てた。
「じゃあ、行きましょうか」
必要なものを全て支配領域に仕舞いこんだレリエが、私の旅装束の裾を引っ張る。
「うん、行こうか」
見慣れた森の光景を心にとどめて、木製の大きな屋敷の外に踏み出す。革製のブーツが、地面に足跡を残す。
「お姉ちゃん、ここで出来る最後の練習です。家を……燃やしてください」
レリエにとって住み慣れた家を二人で眺めながら、彼女は私にそう言った。最初、何を言っているのか理解が追いつかなかった。
「大丈夫です。本や一部の家財道具は売ってお金にしましたし――」
「そうじゃなくて、ここはレリエが師匠と過ごした大切な――」
レリエの言葉を遮って発した私の言葉は、今までに聞いたことのない程に強い口調で封じられた。
「思い出に……縛られるのは嫌なんです!」
「分かった……。全力でやるよ」
両掌に意識を集中させ、火を発生させる。それを、家へと投げつける。未熟な私の火力では、大きな木造屋敷を焼くことは叶わず、風属性の術を織り交ぜて最終的には爆破した。魔力が空になりかけた私に代わってレリエが消火した。悲しそうな表情をしていたけれど、決して涙を浮かべることはなかった。黒焦げになった家に背を向けて、私とレリエは旅立つ。魔王を倒すための旅へと。
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