上 下
9 / 18

これがオレの夏への一歩

しおりを挟む
 やれやれ、中間テストも終わり一安心と言ったとこか……。

「鈴規にしてはイイ点じゃない?」

 オレにしてはって……。その一言余計なんだよ……。それでも、あの勉強の甲斐があったと思うとやっぱり嬉しい。


 さて、月は変わって六月になった。紫陽花と雨の湿った感じの匂いがする。

「今度は心の誕生日が近いな」

 心の誕生日は六月の十六日なのでだいたい再来週だ。

「お!? 祝ってくれる?」

 満面の笑みを浮かべながら詰め寄ってくる心……。
 腕にしがみつかれると柔らかな……。んっん、いやなんでもない……。なんでもなんだ。でも、正直言って、これはあまりに無防備すぎやしないだろうか。今度、川岸さんに相談でもしてみようか。

「腕にしがみつくな!」

 は~い、と軽い返事を返しつつ。

「そう言えば、そろそろプール開きだねぇ……」

 途端に表情が暗くなる心……。泳げないからな……。

「ま、今年の梅雨は長いらしいから結構潰れるんじゃないか?」
「ホントに?」

 ちょっぴり覗きこむような上目遣いが……。そんな目で見られたらウソだなんて言えないだろ……。

「天気次第だな……」

 我ながら適当すぎる上に、そりゃそうだとしか言いようのない返しだな。


 翌日の登校中。

「梅雨入りと同時に雨だね。しかも、今日から水泳だったから確実に一回潰れた! いぇい!! さすが、鈴規の言う通りじゃん」

 テンション高いな……。つーか嘘からでた誠な状態だし……。

「んなはしゃぐと濡れるぞ」


――バッシャーン――


 心は大きな水溜まりを思いきり踏み、水を被ってしまった。夏場なのでブラウスが透けてしまうと下は……もう、

「あ、―――色だ」

 うっかり口にしたのが良くなかった。心の顔が真っ赤になった……。

「ちょっ、ちょっと待ってぇ」

 腕をブンブンしているのだが、あっちを向けということなのだろう……。
 まさか、あの色のチョイス……。ってオレは何を思いだしてんだ!!そうこうしている間に……。

「もう平気だよ……」

どうやらうまく着替えたらしい……。いや、むしろどうやって着替えた?

 ちょっと気まずい中の登校はやけに長い気がした……。だって心が無言なんだもの……。まぁ流石にオレのデリカシー不足なのは承知だけれども。


 さて、所変わって放課後の奉仕委員会の委員室、本来は今日行われるはずの活動が雨天中止だったのでこの部屋で作戦会議をするらしいのだが……。

「委員長が来ないって…」

 この部屋にいるのは、オレと海空と二年の先輩が三人……。唯一の三年で委員長の高遠先輩がいない……。

「ん、委員長が来たよ」

 扉を勢い良く開け梅雨空に関係なく爽やかさを振り撒くのが委員長の高遠貴先輩だ…

「どこさ行っとったんですか?」

 ちょっと訛る二年の先輩が訊くと……。

「今、生徒会長に雨天時にできる活動はないかと訊きに行ってきたんだが……ないから帰れと言われてしまってな……。仕方ないから解散だ」

 どうやら高遠先輩と生徒会長の仲は良くないらしい…

「鈴規くん、どうする? 帰る?」

 んー帰ろうかな。

「海空はどうする?」

 聞き返すと、

「ウチは~あ!! バスケの助っ人に行かなきゃだ!」

おいおい、忘れてたのか……。海空らしいっちゃ海空らしいか……。
体育館へ駆け込む海空の後ろ姿を見ながらオレは帰路についた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

こずえと梢

気奇一星
キャラ文芸
時は1900年代後期。まだ、全国をレディースたちが駆けていた頃。 いつもと同じ時間に起き、同じ時間に学校に行き、同じ時間に帰宅して、同じ時間に寝る。そんな日々を退屈に感じていた、高校生のこずえ。 『大阪 龍斬院』に所属して、喧嘩に明け暮れている、レディースで17歳の梢。 ある日、オートバイに乗っていた梢がこずえに衝突して、事故を起こしてしまう。 幸いにも軽傷で済んだ二人は、病院で目を覚ます。だが、妙なことに、お互いの中身が入れ替わっていた。 ※レディース・・・女性の暴走族 ※この物語はフィクションです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

笛智荘の仲間たち

ジャン・幸田
キャラ文芸
 田舎から都会に出てきた美優が不動産屋に紹介されてやってきたのは、通称「日本の九竜城」と呼ばれる怪しい雰囲気が漂うアパート笛智荘(ふえちそう)だった。そんな変なアパートに住む住民もまた不思議な人たちばかりだった。おかしな住民による非日常的な日常が今始まる!

9(ノナ)! TACTIC部!!

k_i
キャラ文芸
マナシキ学園。世界と世界ならざるところとの狭間に立つこの学園には、特殊な技能を持つ少女達が集められてくる。 その中でも《TACTIC部(タクティック部)》と呼ばれる戦闘に特化した少女たちの集う部。世界ならざるところから現世に具現化しようと溢れてくる、名付け得ぬもの達を撃退する彼女らに与えられる使命である。多感なリビドーを秘めたこの年代の少女の中でも選ばれた者だけがこの使命に立ち向かうことができる。 ……彼女達を、その独自の戦術方式から《9芒星(ノナグラム)の少女達》と呼ぶ―― * 過去、ゲームの企画として考えていた作品です。小説形式とは違いゲームシナリオの形式になります。実際にはバトルパート用に考えていた会話(第1話等)もあるため、その辺は実際のゲーム画面やシステム抜きだと少々わかりにくいかもしれません(ある程度・最小限の補足を加えています)。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

処理中です...