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サイドストーリー みんあや編
第4話 桜スイーツ
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「ここかぁ」
「ていうか、羽生さん本当に走りきっちゃったよ!」
「あ、ウチのことは舞梨って呼んで平気だから」
「あ、はい……」
一応年上な舞梨ちゃんに恐縮気味だった花梨ちゃんもとうとう舞梨ちゃん呼びになった。それはさておき、学校からこのクレープ屋さんまで結構な距離だった気はするんだけど……。
「まぁ、普段のランニングは一時間くらい走るし、この程度でへこたれるようならステージで歌ったり踊ったりできないし」
……舞梨ちゃん、アイドルなのかも。そうか、可愛いからそういう選択肢もあったね。
「いつでも笑顔、それって大事! でしょ?」
「なるほど……」
「そうだねぇ。舞梨ちゃん輝いてるよ!」
謙遜するようなポーズをとってから、そろそろ入ろうよと言ってクレープ屋さん『アニュア』のドアを開ける舞梨ちゃん。
「おや、中学生の嬢ちゃんか。そっちは新しい友達かい?」
「もう中学は卒業しましたよ。私も明音も高校生です!」
ここの店主は無精ヒゲのおじさん。とてもクレープ専門店のパティシエには見えないけど、この人の作るクレープの美味しさは確かなもの。
「初めまして、羽生舞梨です。二人とは同じ高校の部活に所属しています」
花が咲きそうな笑みを浮かべる舞梨さん。これが芸能人……。いつもぶっきらぼうな感じの店長さんも少したじろいでいる。
「今日は嬢ちゃんたちの新しい友達を記念して、半額で作ってやるよ。羽生ちゃんだっけ? 今後ともご贔屓にな。で、注文は?」
珍しく営業スマイルを見せるおじさんに笑いを堪えながら、今月限定の桜アイスクレープを三つ頼んで、セルフのお冷を汲んで席に座る。
「ここね、おじさんの自宅一階を改装して商業エリアにしてるんだぁ。すごいアットホームな感じでしょ?」
店内にかかる、ゆったりとした音楽を聴きながらクレープが完成するのを待つ。その間にお店の情報を舞梨ちゃんへ話していく。
「そうなんだぁ。宣伝するの、勿体無いから秘密にしておくね!」
SNSを開こうとしていたのか、取り出したスマホをポケットに戻す舞梨ちゃん。ここが混雑する様子が想像できなくて思わず笑いそうになってしまった。そこに、
「ほい、お待ち」
ここのクレープは店内で食べることを前提としているため、お皿に乗った、包みきられていないクレープなのだ。ナイフとフォークを使って薄く焼かれたクレープ生地に桜色したアイスを塗って食べる。今日食べ終えてしまうと、今後一年間食すことの出来ない味に、わたしも二人も笑顔を浮かべると同時に、寂しいような感覚にとらわれていた。ゆっくりと味わってもやはりクレープ。アイスが溶けない内に食べ終えなければ勿体無い。
「ご馳走様」
「うん、美味しかったぁ」
「そうだね。また来なきゃ」
クレープを食べ終え、食器を返却口に戻す。それから財布を取り出そうとしていると、
「明音ちゃん、花梨ちゃん。今日はここを紹介してくれてありがとう。お礼と言っちゃなんだけど、今日の支払いはウチが持つよ」
「え、そんな……」
「そうだよぉ。そんなつもりじゃなかったんだしさぁ」
「ううん。ちょっとくらい、お姉さんぶらせてよ、ね?」
お財布からお札を取り出しながらウィンクをする舞梨ちゃんに、結局ご馳走になった。おじさんの好意で半額にしてもらったし、罪悪感も半分になった。
「じゃあ、またのご来店をお待ちしてますよ、と」
お店を出ると空は茜色で、少し藍色が混じっていた。
「帰りはおとなしく向かえ呼ぶね。また明日!」
手を振る舞梨ちゃん見送られて、わたしと花梨ちゃんは帰宅するのでした。
「ていうか、羽生さん本当に走りきっちゃったよ!」
「あ、ウチのことは舞梨って呼んで平気だから」
「あ、はい……」
一応年上な舞梨ちゃんに恐縮気味だった花梨ちゃんもとうとう舞梨ちゃん呼びになった。それはさておき、学校からこのクレープ屋さんまで結構な距離だった気はするんだけど……。
「まぁ、普段のランニングは一時間くらい走るし、この程度でへこたれるようならステージで歌ったり踊ったりできないし」
……舞梨ちゃん、アイドルなのかも。そうか、可愛いからそういう選択肢もあったね。
「いつでも笑顔、それって大事! でしょ?」
「なるほど……」
「そうだねぇ。舞梨ちゃん輝いてるよ!」
謙遜するようなポーズをとってから、そろそろ入ろうよと言ってクレープ屋さん『アニュア』のドアを開ける舞梨ちゃん。
「おや、中学生の嬢ちゃんか。そっちは新しい友達かい?」
「もう中学は卒業しましたよ。私も明音も高校生です!」
ここの店主は無精ヒゲのおじさん。とてもクレープ専門店のパティシエには見えないけど、この人の作るクレープの美味しさは確かなもの。
「初めまして、羽生舞梨です。二人とは同じ高校の部活に所属しています」
花が咲きそうな笑みを浮かべる舞梨さん。これが芸能人……。いつもぶっきらぼうな感じの店長さんも少したじろいでいる。
「今日は嬢ちゃんたちの新しい友達を記念して、半額で作ってやるよ。羽生ちゃんだっけ? 今後ともご贔屓にな。で、注文は?」
珍しく営業スマイルを見せるおじさんに笑いを堪えながら、今月限定の桜アイスクレープを三つ頼んで、セルフのお冷を汲んで席に座る。
「ここね、おじさんの自宅一階を改装して商業エリアにしてるんだぁ。すごいアットホームな感じでしょ?」
店内にかかる、ゆったりとした音楽を聴きながらクレープが完成するのを待つ。その間にお店の情報を舞梨ちゃんへ話していく。
「そうなんだぁ。宣伝するの、勿体無いから秘密にしておくね!」
SNSを開こうとしていたのか、取り出したスマホをポケットに戻す舞梨ちゃん。ここが混雑する様子が想像できなくて思わず笑いそうになってしまった。そこに、
「ほい、お待ち」
ここのクレープは店内で食べることを前提としているため、お皿に乗った、包みきられていないクレープなのだ。ナイフとフォークを使って薄く焼かれたクレープ生地に桜色したアイスを塗って食べる。今日食べ終えてしまうと、今後一年間食すことの出来ない味に、わたしも二人も笑顔を浮かべると同時に、寂しいような感覚にとらわれていた。ゆっくりと味わってもやはりクレープ。アイスが溶けない内に食べ終えなければ勿体無い。
「ご馳走様」
「うん、美味しかったぁ」
「そうだね。また来なきゃ」
クレープを食べ終え、食器を返却口に戻す。それから財布を取り出そうとしていると、
「明音ちゃん、花梨ちゃん。今日はここを紹介してくれてありがとう。お礼と言っちゃなんだけど、今日の支払いはウチが持つよ」
「え、そんな……」
「そうだよぉ。そんなつもりじゃなかったんだしさぁ」
「ううん。ちょっとくらい、お姉さんぶらせてよ、ね?」
お財布からお札を取り出しながらウィンクをする舞梨ちゃんに、結局ご馳走になった。おじさんの好意で半額にしてもらったし、罪悪感も半分になった。
「じゃあ、またのご来店をお待ちしてますよ、と」
お店を出ると空は茜色で、少し藍色が混じっていた。
「帰りはおとなしく向かえ呼ぶね。また明日!」
手を振る舞梨ちゃん見送られて、わたしと花梨ちゃんは帰宅するのでした。
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