上 下
75 / 83
二年生になりました♪

#74 アイマイレンアイカンケイ

しおりを挟む
 由花菜ちゃんと別れグラウンドへ向かった。麻琴は部活を終えて既に制服に着替えていた。あまり陸上部の人たちのことを知らないから、麻琴以外で見知った顔は川藤さんくらいだ。

「麻琴!」
「悠希が迎えに着てくれるなんて珍しい。嬉しいよ」

 はにかむ麻琴に胸が高鳴る。恥ずかしくて背を向けてしまう。

「一緒に帰りたかったから」
「先輩、この人は?」

 明るそうな陸上部の一年生が麻琴に尋ねる。麻琴がどう答えるのか、ちょっと身構えてしまった。

「幼馴染の姫宮悠希。あたしの彼女」

 さも当たり前のように言った麻琴に、一年生たちが黄色い声を浴びせる。ますます恥ずかしくなって、ボクは麻琴の手を引いて正門へと向かった。麻琴が部員たちに声をかける。

「さよなら~」
「「お疲れっしたー!」」

 正門を抜けてからは横に並んで帰り始める。手は、繋いだまま。

「あ、あのさ……ボク、麻琴と付き合いたい。ちゃんと恋人になりたい」
「え?」

 ……え? 何だか予想外の反応をされてしまった。何をそんなぽかんとした顔をしているの?

「あたしらって、付き合ってなかったの?」
「え?」

 ボクら……付き合ってたの? いつから?

「いつからって? それは……大晦日、元日とか? 元日にほら、お互いに気持ちを伝え合ったわけで……じゃなきゃさっきだって彼女だなんて言わないよ?」

 思い出せばそうだ。なんだ……あれで良かったんだ。迷って、諭されて、また迷って。そして諭されて。実村先輩や由花菜ちゃんの言葉がリフレインする。ボクの独り相撲だったみたい。なにやってるんだろうボクは。でも……。

「付き合ってるとしたら麻琴はいつも通りすぎない? ていうか、付き合う前だってボクのこと嫁とか言ってたじゃん」
「それはそれ、これはこれ。というかさ、あたしと悠希の間に特別なものが必要?」

 あぁ……すぐ本心でそういうこと言う。そういうところが好きなんだけどさ。
「ちょっとくらい態度に示してくれてもいいんじゃない? 記念日とか祝いたいし、なんていうか……その、全然キスとかしてくれないし」

 本当にこれでいいのかな? でも形式張ってもボクららしくないっていうか……でも、去年家族と話したこともあるわけで。そっか、あの時は麻琴へ想いがすごく沸き上がったんだっけ。そう考えたらもうとっくに半年以上経ってる訳か。

「今はまだ秘密にしないとね」

 ボクがぽつり呟くと、麻琴は不思議そうに首を傾げた。ひょっとして……忘れているのかな? いや、それは流石にありえないよね。でも麻琴のことだからなぁ。

「十年後はどうしよっか?」
「一緒に住む話? ……あ、そっか」

 どうやら思い出してくれたようだ。思い出したっていうことは忘れていたわけか……。

「じゃあ、いつも通りのままでいいのか」

 麻琴の言葉に驚いてしまう。どういうことかと尋ねたら、付き合っていると言えば付き合っているし、付き合っていないと言えば付き合っていないこの距離感が、ボクらに似合っているということらしい。なんだかお母さんたちを騙しているようで気後れするけど……付き合っているという自覚のなかったボクには何も言えないや。

「悠希は考えすぎなんだよ」
「そうかも。でもね、麻琴だってボクのことよく考えてくれているでしょう? 分かるよ」

 ボクと暮らすことを考えてくれていること、受験のため懸命に勉強していること、文理別々に進む不安のこと、麻琴は心からボクのことを考えて行動に移してくれる。

「そう言われると照れちゃうなぁ」

 目下の二大悩み事の一つが解消され、ボクの心は弾むように軽くなった。だからかな。甘えたくなってしまったのだ。

「ねぇ麻琴。キスしていい?」

 ボクらの夕影が重なった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る

電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。 女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。 「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」 純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。 「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

AV研は今日もハレンチ

楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo? AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて―― 薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

処理中です...