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二年生になりました♪
#68 風雲よ急を告げないで
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翌週の部活は一年生が新入生研修へ行っていることもあり、四月最後の部活は至極平和な一日だった。先輩達も忙しいようで、今日は二年生の四人しか家庭科室にいない。話題はついつい新入生研修のことになる。
「初日はそっか、黒瀬杯だったね」
学年主任の名前を冠した学年レクリエーションは、年に数回あり明後日には二年生になって初めての黒瀬杯、百人一首大会を控えている。
「四組強かったよねぇ」
ボクがいたBチームはそれほどでもなかったけど、麻琴や初美さんのいたAチームは大活躍だった。
「そうそう、ユウちゃんのカレシがえっぐい強くてさ」
「カレシじゃないし」
麻琴は今年こそまだ来ていないけど、調理部にとって顔見知りのお客さん。ボクとの仲だって大体分かっている。でも別にカレシ扱いは麻琴が女の子である以上ちょっといただけないかな。男の子(だったの)はボクだし。
「あとハンド部だかの子もめっちゃ強かったっけな。五組と六組はほんと弱かった」
去年五組の美夏ちゃんが力強く言うと、六組だった千恵ちゃんがうんうんと頷く。
「オリエンテーションは楽しかったなぁ。班の子とすっごく仲良くなれたの」
二日目のオリエンテーションはしりとりで“り”攻めされる麻琴しか思い出せない。最低限のコースを回るだけでも、けっこう疲れちゃったからなぁ。でも会話が一番多かったのは確かにあの時間かも。うちの班は班になる前から仲良かったけど、他の班はあの時間がけっこう大事だったのかな。
「あたしらは道間違えちゃってさ、なんだか一番めんどうなルート歩いちまったよ」
「途中で私らの班ともぶつかったよね。あんまり広くない場所に一学年全部を入れちゃったら、それはもう混雑必至だよね」
「美夏ちゃんと千恵ちゃん、ほんと仲いいよね」
同じ中学だとは聞いていたけれど、視線で通じ合っているように見える程に、仲良しオーラが出ている。
「まぁ、付き合ってるもんな。あたしら」
……え。隣をちらりと見ると、希名子ちゃんが同じような反応をしていた。
「ん? 気付いてなかったの?」
千恵ちゃんの追撃でますます言葉をなくすボクと希名子ちゃん。そっか……いや、実村先輩に告白された時にも驚いたけれど、女の子同士の恋愛ってやっぱりあるよね。ここ、女子校だものね。マリア様が見ていなくても百合カップルは誕生するよね。
「女の子同士なのに、お付き合い……するの?」
「なんだ、希名子はそっち側か。ユウちゃんはこっち側だろ?」
理解のあるなしという尺度で話しているんだろう。少し、言葉の端にトゲを感じさせる言い方だった。……希名子ちゃんも、美夏ちゃんも。
「ユウちゃんは、雛田さんだよね。彼女とお付き合いしているんでしょう?」
「ユウちゃんと麻琴さんは普通の仲良しだよね?」
千恵ちゃんと希名子ちゃんにほぼ同時に問われる。希名子ちゃんみたいな心根の優しい女の子が偏見を持っているとは思いたくない。でも、希名子ちゃんは間近で男女の恋愛……結婚そして幸せを目の当たりにしているんだよね。それに、和菓子屋を継ぐことを意識している。自分より先の代のことだって、頭の片隅にあるんだよね……多分だけど。
「麻琴とはね、普通な仲良しでもあり、特別な仲良しでもある……なんて言って、希名子ちゃんは納得してくれる?」
希名子ちゃんが目を伏せて少し考える。それからぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
「ごめんなさい、偏見があるわけじゃないの。多分。女性の幸せが子供を産み育てることだけ、だなんてことは私だって思わないわ。でも、兄や姉が幸せな家庭を築いているのを見て、私もいつかは結婚したいって思うの。星鍵は家庭科室の設備が良くて、調理部の活動が活発だって姉から聞いて入学したの。公立高校に行ったら、男子とも会話して、恋をしたかもしれない。友達の好きと、恋人の好きの違いは……分からないけど、その……まとまらないわ」
麻琴との仲で悩んだボクと同じような考え方になっちゃったのかな。麻琴の幸せを考えたら、きっと男性と結婚して家庭を設けるという選択肢だってあるはず。ボクとこの先一緒にいて、どうなるかなんて分からない。ランナーとサポーターという関係を築いて、プライベートなところは立ち入らなくなるかもしれない。それでも、ボクは麻琴と一緒にいたい。麻琴もボクを選んでくれた、そう思っている。そう説明しようと思ったけど、それを千恵ちゃんに制された。
「去年のミスコンをキッカケに、希名子ちゃんのファンだよって人けっこういるよ」
「……確かに、お店に星鍵の生徒さんよく来るようになったけど、私が目当てだったってこと?」
「うん。女の子は結局、可愛い人や綺麗な人に憧れるの。憧れとか友愛の情が、どうして恋になっちゃうか私には分からないけど、そういう人もいるって理解してくれたらそれで充分なんじゃないかな? ユウちゃんもそう思わない?」
「え、まぁ確かに。ボクも麻琴から告白された時は驚いた。女の子同士でいいのかなって。でもさ、ボクはボクだし麻琴は麻琴だよ。希名子ちゃんだって、希名子ちゃんだから」
ボクの言葉は半ば本心で半ば借り物。卒業式の日に実村先輩に行って貰った言葉だ。平和な一日だと思っていたのに、思わぬ爆弾から少し疲れる会話になってしまった……。確かに、美夏ちゃんと千恵ちゃんが付き合っていることには驚かされたけれど、確かに驚いたけれど、付き合っていようといまいとボクらから見た二人は変わらない。
「余所は余所、ウチはウチってこと……かな。そうだよね、別に何かが変わるわけじゃないものね……。うん、何だかごめんなさい」
そこからは先は誰の言葉からもトゲは感じなかった。でも少しだけ、ボクと麻琴が付き合っていることが周囲からどう見られているのか……少しだけ気になってしまったボクだった。
「初日はそっか、黒瀬杯だったね」
学年主任の名前を冠した学年レクリエーションは、年に数回あり明後日には二年生になって初めての黒瀬杯、百人一首大会を控えている。
「四組強かったよねぇ」
ボクがいたBチームはそれほどでもなかったけど、麻琴や初美さんのいたAチームは大活躍だった。
「そうそう、ユウちゃんのカレシがえっぐい強くてさ」
「カレシじゃないし」
麻琴は今年こそまだ来ていないけど、調理部にとって顔見知りのお客さん。ボクとの仲だって大体分かっている。でも別にカレシ扱いは麻琴が女の子である以上ちょっといただけないかな。男の子(だったの)はボクだし。
「あとハンド部だかの子もめっちゃ強かったっけな。五組と六組はほんと弱かった」
去年五組の美夏ちゃんが力強く言うと、六組だった千恵ちゃんがうんうんと頷く。
「オリエンテーションは楽しかったなぁ。班の子とすっごく仲良くなれたの」
二日目のオリエンテーションはしりとりで“り”攻めされる麻琴しか思い出せない。最低限のコースを回るだけでも、けっこう疲れちゃったからなぁ。でも会話が一番多かったのは確かにあの時間かも。うちの班は班になる前から仲良かったけど、他の班はあの時間がけっこう大事だったのかな。
「あたしらは道間違えちゃってさ、なんだか一番めんどうなルート歩いちまったよ」
「途中で私らの班ともぶつかったよね。あんまり広くない場所に一学年全部を入れちゃったら、それはもう混雑必至だよね」
「美夏ちゃんと千恵ちゃん、ほんと仲いいよね」
同じ中学だとは聞いていたけれど、視線で通じ合っているように見える程に、仲良しオーラが出ている。
「まぁ、付き合ってるもんな。あたしら」
……え。隣をちらりと見ると、希名子ちゃんが同じような反応をしていた。
「ん? 気付いてなかったの?」
千恵ちゃんの追撃でますます言葉をなくすボクと希名子ちゃん。そっか……いや、実村先輩に告白された時にも驚いたけれど、女の子同士の恋愛ってやっぱりあるよね。ここ、女子校だものね。マリア様が見ていなくても百合カップルは誕生するよね。
「女の子同士なのに、お付き合い……するの?」
「なんだ、希名子はそっち側か。ユウちゃんはこっち側だろ?」
理解のあるなしという尺度で話しているんだろう。少し、言葉の端にトゲを感じさせる言い方だった。……希名子ちゃんも、美夏ちゃんも。
「ユウちゃんは、雛田さんだよね。彼女とお付き合いしているんでしょう?」
「ユウちゃんと麻琴さんは普通の仲良しだよね?」
千恵ちゃんと希名子ちゃんにほぼ同時に問われる。希名子ちゃんみたいな心根の優しい女の子が偏見を持っているとは思いたくない。でも、希名子ちゃんは間近で男女の恋愛……結婚そして幸せを目の当たりにしているんだよね。それに、和菓子屋を継ぐことを意識している。自分より先の代のことだって、頭の片隅にあるんだよね……多分だけど。
「麻琴とはね、普通な仲良しでもあり、特別な仲良しでもある……なんて言って、希名子ちゃんは納得してくれる?」
希名子ちゃんが目を伏せて少し考える。それからぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
「ごめんなさい、偏見があるわけじゃないの。多分。女性の幸せが子供を産み育てることだけ、だなんてことは私だって思わないわ。でも、兄や姉が幸せな家庭を築いているのを見て、私もいつかは結婚したいって思うの。星鍵は家庭科室の設備が良くて、調理部の活動が活発だって姉から聞いて入学したの。公立高校に行ったら、男子とも会話して、恋をしたかもしれない。友達の好きと、恋人の好きの違いは……分からないけど、その……まとまらないわ」
麻琴との仲で悩んだボクと同じような考え方になっちゃったのかな。麻琴の幸せを考えたら、きっと男性と結婚して家庭を設けるという選択肢だってあるはず。ボクとこの先一緒にいて、どうなるかなんて分からない。ランナーとサポーターという関係を築いて、プライベートなところは立ち入らなくなるかもしれない。それでも、ボクは麻琴と一緒にいたい。麻琴もボクを選んでくれた、そう思っている。そう説明しようと思ったけど、それを千恵ちゃんに制された。
「去年のミスコンをキッカケに、希名子ちゃんのファンだよって人けっこういるよ」
「……確かに、お店に星鍵の生徒さんよく来るようになったけど、私が目当てだったってこと?」
「うん。女の子は結局、可愛い人や綺麗な人に憧れるの。憧れとか友愛の情が、どうして恋になっちゃうか私には分からないけど、そういう人もいるって理解してくれたらそれで充分なんじゃないかな? ユウちゃんもそう思わない?」
「え、まぁ確かに。ボクも麻琴から告白された時は驚いた。女の子同士でいいのかなって。でもさ、ボクはボクだし麻琴は麻琴だよ。希名子ちゃんだって、希名子ちゃんだから」
ボクの言葉は半ば本心で半ば借り物。卒業式の日に実村先輩に行って貰った言葉だ。平和な一日だと思っていたのに、思わぬ爆弾から少し疲れる会話になってしまった……。確かに、美夏ちゃんと千恵ちゃんが付き合っていることには驚かされたけれど、確かに驚いたけれど、付き合っていようといまいとボクらから見た二人は変わらない。
「余所は余所、ウチはウチってこと……かな。そうだよね、別に何かが変わるわけじゃないものね……。うん、何だかごめんなさい」
そこからは先は誰の言葉からもトゲは感じなかった。でも少しだけ、ボクと麻琴が付き合っていることが周囲からどう見られているのか……少しだけ気になってしまったボクだった。
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