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短い三学期はさよならの季節

#58 ぬくもり

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「本当にごめんなさい!!」

 私が三学期で初めて発した言葉は友人との再会を祝う言葉ではなく謝罪だった。私の目の前―頭を下げているから厳密には違う―には初美さん、明音さんに千歳ちゃんやもなかちゃんがいる。二学期の終盤、私と麻琴が距離感をつかめずにいた時に心配をかけたことを謝っている。

「えっと、何が?」

 初美さんの声に私が頭をあげると、みんな不思議そうな顔で私と隣にいる麻琴を見ている。

「そのぉ……いろいろ心配かけたから、私……」
「あたしたちがほら、ちょっとぎくしゃくしてた時に気を遣わせちゃったからさ」

 私と麻琴が説明すると、明音さんがいつものようにまったりと口を開いた。

「二人とも仲直りしたんだしぃ、気にしなくてもいいんじゃないかなぁ? それよりも」
「ユウちゃんが髪を切ったことの方が重大だと私は思うのよ」

 明音さんに続いてもなかちゃんが私に詰め寄る。

「それに、一人称がボクじゃなくなってる。どういうことかな?」

 ずいずいと近づいてくるもなかちゃんの瞳。まぁまぁと千歳ちゃんの手が割って入る。

「順を追って説明してもらいましょう。ね?」
「それはまた今度説明するよ。な?」

 麻琴がちらりと私を見る。頷いて返すと、今度は時計を指差した。

「委員長、時間だよ」

 三学期の初日、始業式が体育館で行われる。……寒いんだろうなぁ。

「ほら、行こうか」

 

 始業式を終えて教室に戻ると、あちこちでおしゃべりの花が咲いていた。このクラスで過ごすのもあと数ヶ月。……二年生になったら文系に進む麻琴とは同じクラスになれない。もちろん初美さんや千歳ちゃんとも別のクラスだ。

「とまぁ、簡単に話せばこんなもんかな。悠希?」

 私が物思いに耽っている間に麻琴が冬休みにあったことを説明していた。

「まぁ、元鞘ってやつかな?」
「綾ちゃん……何か古いよぉ」
「元の鞘に収まる。ふふ、なんか夫婦みたいだね」
「だってよ。悠希」

 もなかちゃんが大人っぽく笑うと、麻琴が嬉しそうにこっちを見る。夫婦って、

「別に……そういうんじゃなくてさ。ただ……親友だから」

 自分と麻琴の間柄を何て表現するのが最も正しいのか、今の私には分からない。麻琴は私に対して明確な好意を持っていて……ボクも麻琴のことは好きだけど……どういう意味で好きなんだろう。

「おっと、そろそろホームルーム始まるから席に戻ろっか」

  もなかちゃんが手を叩いて解散を促した。結局、私自身がどう麻琴を想っているのかという問いには答えを出せずにいる。今の関係は気楽でずっと続けばいいとも思っている。だからといって……。
 

 もやもやとした気持ちを抱えたまま、放課になった。希名子ちゃんを加えておしゃべりの時間を延長。食堂の外にあるテラス席を陣取っている。今日は始業式だけだったから時間はまだ正午過ぎ。天気も良くてぽかぽかしている。

「二人が仲直りできてよかったぁ。今度一緒にお店においで。サービスしちゃうわ」

 和やかな笑顔を浮かべる希名子ちゃん。冬休みはお店の手伝いでてんてこ舞いだったそうだ。

「一年って結構あっさりと終わるものね。ふぅ」

 憂いを帯びた千歳ちゃんの表情。年始はすさまじく忙しかったらしい。

「わたしたちも先輩になるんだねぇ」

 のんびりとした声で明音さんが呟く。

「部活の新入部員!!」
「ど、どうしたの希名子ちゃん?」

 手をぽんと叩いて希名子ちゃんが唐突に大きな声をだした。大錠祭の後に、副部長に就任した希名子ちゃんも、来年のことを考えていたのかな?

「四月になったら、部活でもいろいろ変わるでしょ? 部員集めって大変そうよね……」
「ま、人気の部活は気が楽だけどね」

 麻琴が所属している陸上部や、明音さんが所属している吹奏楽部は人気部活の代名詞のような部活だ。初美さんが所属するハンドボール部も、部員は結構多い。千歳ちゃんのいる弓道部は実村先輩の影響もあってか人数は多いらしい。

「文化部って年によって波があるからねぇ」

 去年と今年を比べてか、ふむふむといった様子で言うもなかちゃん。確かに、家庭科部に二年生の先輩はあんまりいない。暖かな日差しにのんびりとおしゃべりを続けているうちに、誰かのお腹がぐーっと鳴った。

「じゃあ、今日はこの辺でお開きにしますか!」
「おなか空いたから?」

 一時近くなったタイミングで麻琴が立ち上がった。私も、ちょっとおなかが空いてきた。

「悠希、お昼食べに行っていい?」
「もちろん! じゃあ、帰ろうか」

 みんなとお別れして家へと歩き始める。麻琴との関係は宙ぶらりんでよく分からないけど、ゆっくり考えればいい。歩くみたいに、ゆっくりと。今は、それでいいと思っている。だから、いつか、きちんと答えを出したいと思っている。

「麻琴。手、繋ごう? 手袋、忘れちゃった」

  手袋よりも、君の手の方が暖かい。きっと、心まで包まれるからかな、なんて。恥ずかしくて言えないけれど。差し出された君の手は、暖かくて大好きだ。

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