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ふゆやすみ
#56 新春
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年末の忙しさは私から迷い悩む時間をすっかり奪ってしまった。大掃除やおせちの準備に年賀状の宛名書き、地域のお餅つきは麻琴とバッティングしそうだったから行くのをやめてしまったけれど、いつも通りの年末だったと思う。……まあ、セールで買う服が大きく様変わりしてしまったくらいだろうか。
「おやすみ」
「俺も寝る」
「あ、うん。おやすみなさーい」
大晦日。年越し蕎麦も食べ終えた姫宮家、両親は先に眠りリビングには私とお姉ちゃんと夏希が残っている。
「あ、お姉ちゃん。ケータイ鳴ってる」
蕎麦を食べたどんぶりを洗っている私に、夏希が教えてくれた。夏希にしてみればお姉ちゃんもお姉ちゃんなんだけど、お姉ちゃんと姉さんで呼び分けている。それはさておき、水道の水を止めてタオルで手を拭く。そうしてやっと気付いた。私のスマホが流す音楽が……威風堂々であることに。指の震えを抑えながら通話できる状態にする。
「もしもし……麻琴」
「悠希……今、いいかな?」
久しぶりに聞く麻琴の声はどこか不安げで、いつものような快活さに欠いていた。
「いい、よ」
それにつられるように、私の声にもどこか不安な感情がこもる。
「今、悠希の家の前にいるんだけど、会えないかな?」
すぐさま玄関まで走って小窓から外を確認する。そこには、こころなしか疲れた様子の麻琴が立っていて、私はすぐに扉を開けて……
「ま、こと……麻琴ぉ」
大切な人の名を呼びながら強く抱きしめた。麻琴の身体は冷え切っていて、玄関の前で電話をかけるか悩んでいたことが分かる。
「上がって。何か温かいものでも……」
あ、この前買ったアップルティーがあるじゃないか。それにしよう。というか、麻琴の前でこの格好はやめよう。夏場はTシャツ1枚で過ごしていたけど、冬場はもこもこのパジャマと半纏で着膨れてしまっている。
「お姉ちゃん! アップルティー淹れてあげて。私は着替えてくるから!」
「あいよ~」
そろそろ年が変わることだろうか。お姉ちゃんはケータイでせっせとメールと打っている。そんなお姉ちゃんにお願いだけして、私は階段を駆け上がって自室へ急ぐ。パジャマシーズンは寝るときも下着はつけている。取り敢えずパジャマだけ脱いで下着姿になる。……そういえば、髪を切ったことに何も触れてくれなかったなぁ。まぁ、そこまで気が回るようじゃ、麻琴らしくないけど。そんなことを考えていたからだろうか、姿見に映る自分が僅かに微笑んだ気がした。
「さてと……何を着ようかなぁ」
冬休み、お母さんと買い漁った新品の服が何着もある。組み合わせ自体が考えてあるけど、まだ実際に着ていないコーデもいくつかある。姿見の前で何着か重ねながら、決めたのが……
「お洒落は寒さに打ち勝って手に入れる。お母さん……ハードだよ」
珍しく試してみたモノトーンコーデ。白のドレスシャツには雪の結晶を模した装飾がされていて、このシーズン限定って感じの一着。下は黒のフレアーで、丈は膝上。寒い。でも、脚は一応オーバーニーのソックスに守られている。スカートの裾とソックスの上端の間――いわゆる絶対領域――の重要性はとっくに理解したため、このコーデに特段の不安要素はない。セーラー風な襟が特徴のコートを羽織って一階へ降りる。その直前にふと自室の時計をちらりと見ると、『1月1日 水 午前00:31』と表示されていた。服を選ぶのに結構な時間を使ってしまったようだ。
「お待たせ!」
私がリビングに戻ると、麻琴は久しぶりに見る朗らかな笑顔で、
「明けましておめでとう。今年もよろしくね、悠希。さぁ、初詣に行こう」
と手を差し出しながら私に言った。
「おやすみ」
「俺も寝る」
「あ、うん。おやすみなさーい」
大晦日。年越し蕎麦も食べ終えた姫宮家、両親は先に眠りリビングには私とお姉ちゃんと夏希が残っている。
「あ、お姉ちゃん。ケータイ鳴ってる」
蕎麦を食べたどんぶりを洗っている私に、夏希が教えてくれた。夏希にしてみればお姉ちゃんもお姉ちゃんなんだけど、お姉ちゃんと姉さんで呼び分けている。それはさておき、水道の水を止めてタオルで手を拭く。そうしてやっと気付いた。私のスマホが流す音楽が……威風堂々であることに。指の震えを抑えながら通話できる状態にする。
「もしもし……麻琴」
「悠希……今、いいかな?」
久しぶりに聞く麻琴の声はどこか不安げで、いつものような快活さに欠いていた。
「いい、よ」
それにつられるように、私の声にもどこか不安な感情がこもる。
「今、悠希の家の前にいるんだけど、会えないかな?」
すぐさま玄関まで走って小窓から外を確認する。そこには、こころなしか疲れた様子の麻琴が立っていて、私はすぐに扉を開けて……
「ま、こと……麻琴ぉ」
大切な人の名を呼びながら強く抱きしめた。麻琴の身体は冷え切っていて、玄関の前で電話をかけるか悩んでいたことが分かる。
「上がって。何か温かいものでも……」
あ、この前買ったアップルティーがあるじゃないか。それにしよう。というか、麻琴の前でこの格好はやめよう。夏場はTシャツ1枚で過ごしていたけど、冬場はもこもこのパジャマと半纏で着膨れてしまっている。
「お姉ちゃん! アップルティー淹れてあげて。私は着替えてくるから!」
「あいよ~」
そろそろ年が変わることだろうか。お姉ちゃんはケータイでせっせとメールと打っている。そんなお姉ちゃんにお願いだけして、私は階段を駆け上がって自室へ急ぐ。パジャマシーズンは寝るときも下着はつけている。取り敢えずパジャマだけ脱いで下着姿になる。……そういえば、髪を切ったことに何も触れてくれなかったなぁ。まぁ、そこまで気が回るようじゃ、麻琴らしくないけど。そんなことを考えていたからだろうか、姿見に映る自分が僅かに微笑んだ気がした。
「さてと……何を着ようかなぁ」
冬休み、お母さんと買い漁った新品の服が何着もある。組み合わせ自体が考えてあるけど、まだ実際に着ていないコーデもいくつかある。姿見の前で何着か重ねながら、決めたのが……
「お洒落は寒さに打ち勝って手に入れる。お母さん……ハードだよ」
珍しく試してみたモノトーンコーデ。白のドレスシャツには雪の結晶を模した装飾がされていて、このシーズン限定って感じの一着。下は黒のフレアーで、丈は膝上。寒い。でも、脚は一応オーバーニーのソックスに守られている。スカートの裾とソックスの上端の間――いわゆる絶対領域――の重要性はとっくに理解したため、このコーデに特段の不安要素はない。セーラー風な襟が特徴のコートを羽織って一階へ降りる。その直前にふと自室の時計をちらりと見ると、『1月1日 水 午前00:31』と表示されていた。服を選ぶのに結構な時間を使ってしまったようだ。
「お待たせ!」
私がリビングに戻ると、麻琴は久しぶりに見る朗らかな笑顔で、
「明けましておめでとう。今年もよろしくね、悠希。さぁ、初詣に行こう」
と手を差し出しながら私に言った。
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