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第二幕

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「フリッツ、帰ったか」

 家へと戻ってきた俺を見て、親父は目の色を変えた。

「な、どうしてお前が雷鳴の剣を持っているんだ!?」

 まだ十四歳の俺は、あの祭壇へ行くことすら許されていない。あそこは十六を過ぎた成人のみ立ち入れる場だ。挙げ句、そこで祀られている聖剣を持って帰れば驚かれるのも当然か。

「魔物に追いかけられて、逃げた先が祭壇で……あっさり抜けたぞ。本当にこれ聖剣なのか? まぁ、魔物は倒せたけど」

 起きた事実をそのまま伝えると、親父は血相を変えて俺を祖父さん、村長のところへ連れて行った。祖父さんは村長として祭壇に近い村の最北に住んでいる。剣を持った俺を近所の連中が見てる中、俺と親父は祖父さんの家に上がった。

「村長、実は……」

 親父が祖父さんに事の顛末を話す。俺はただじっと座っているだけで、時間がどれほど経ったかよく分からない。

「うむ、話は分かった。フリッツ」
「は、はい!」

 祖父さんが俺に視線をやる。年齢を感じさせない鋭い目に、背筋が伸びる。

「お前は選ばれたのじゃ。鞘を渡す。雷鳴の剣に恥じない男になれ、よいな?」
「フリッツ、俺も父親として誇りに思う」

 選ばれた……俺は、選ばれたのか? 本当に、雷鳴の剣は人を選ぶのか、俺自身には分からないが……剣よりも祖父さんや親父に認められたのが何よりも嬉しい。これまで何かしでかす度に怒られまくったからな。今度も怒られると思ったが……認められるなんて。

「俺、この村を守るために頑張るから!」

 拳をぎゅっと握って決意を新たにする。今まで遊びの延長でスライム型の魔物を倒してきたけど、剣を握る以上は村のために頑張りたい。

「フリッツ……ここからは歴代の村長に語り継がれた話なのだが、心して聞いて欲しい」

 祖父さんの言葉に俺は再び居住まいを正す。

「雷鳴の剣は、かつて世界を束ね、その後にあまりの強さ故に追放された勇者が……死ぬ間際に立ち寄ったこの村に、遺した剣じゃ」
「ちょ、ちょっと待って欲しい。あの剣の持ち主はこの村を拓いた太古の勇者じゃないのか……?」
「表向きにはそういうことになっておる。じゃが、真実は残酷なものだ。世界に平和がもたらされた後、最たる脅威は勇者なのじゃよ。それを努々忘れるな。だが、今の世には魔王の脅威がある。これを取り除くのが、雷鳴の剣を引き抜いたお前の役目なのじゃ」

 ……世界を、魔王の脅威から解放した後、今度は俺自身が世界の脅威になるというのか……。そんなの……いや、それでも。

「俺は世界を救いたい。魔物のせいで母さんも死んだ。他にもこの村から何人も……隣の村も滅んじまったし……大きな街でも人が減ってる。俺は、俺自身が世界の脅威になろうとも世界に何かを遺したいんだ。俺、魔王を討つよ」

 俺の言葉に祖父さんは目頭を押さえた。

「良い孫を持ったものじゃ……。村の蓄えを託す。スァバレの街で防具と旅に必要な物を揃えるといい。魔王の所在は謎が多い。……前途ある若者にこれほどの重い使命を背負わせてしまって……」
「父さん……。フリッツ、今夜は宴だ。お前の無事を祈って、盛大なものにしよう」

 そう言って親父は俺を連れて村長の家を出た。その表情はどこか寂しそうに見えた。母さんを喪って俺まで離れて、それでいいのかと少し悩む。だが、俺は帰ってくるから……安心してほしい。そう告げると、親父は力なく笑ってくれた。
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