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TurningNight 後編 美海×恵玲奈

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 秘所を筆頭に全身が痛む中、起床する。気絶したまま床で伏せていたらしい。起きたら電話するようにと美海からメッセージが来ていた。……怖い。普通に怖い。でもかける。ワンコールあったか否かという早さで繋がった。

「もしm」
「今すぐホテルエンプレスまで来なさい! いいわね!」
「ちょ、着替えt」
「着替えなら私が全部用意した。その染みついた泥棒猫に臭いをぜーんぶ洗い流してやるんだから!!」

 美海、こういうキャラだったかな……。いいわね!! と念押しされた後、通話は終了した。ベタ付く身体のまま身支度を調え、駅までダッシュ。急げば乗れそうな電車がある。
 運動靴を履いていたのが功を奏し駅までは思った以上に早く着いた。売店で朝食を買う。スマホ決済で手っ取り早く。電車がやけに空いていると思ったら今日は土曜日だった。いけしゃあしゃあとパンをもそもそ食べ、豆乳コーヒーで流し込む。軋む身体を慮って、一眠り……到着時間にアラームをセットしてイヤホンをする。


「うわ!!」

 目を閉じてすぐに眠ってしまったらしい。奇跡的に一駅前で目を覚まし思わず声が出る。周囲の人の視線が刺さる。というか私、露骨に雌の臭いがするけど大丈夫かな……。最寄り駅に着くと脱兎のごとく駅から去り、ホテル街をうろついてホテルエンプレスを目指す。

「……遅い。そもそも起きるのが遅かったんじゃない?」
「美海はいつからいたのさ……」
「どうだっていいでしょ。ほら、入るわよ」

 ずんずんと入っていく美海について私もホテルへ入る。前回同様無人で機械化されたフロントを通って部屋へ向かう。

「今回もクイーンルームだけど、Cタイプの部屋にしたわ」

 サディスティッククイーンルーム……SMの危険なブツが大量に置かれた部屋。どうしよう、昨日からずっと美海が欲しかったから……溢れちゃいそう。

「まずはシャワーよ。脱ぎなさい。どうせだから私が普段から使ってるボディソープとシャンプーを用意したわ」
「ねぇ……キス、したいよ……」
「他の女とキスしたんでしょう? 歯を磨いた後よ。塩の歯磨き粉を持ってきたんだから」

 風呂椅子に私を座らせると、頭からシャワーを浴びせられる。お風呂場で私は大層念入りに洗われた。なんというか、注文の多い料理店での下ごしらえのような感覚だった。入念にすり込まれていくような気がして、確かに私はこのあと食べられるわけであながち間違っていないのでは? と思考が堂々巡りをしていた。

「ふぅ……綺麗になったわね。服は着ずにチョーカーだけしなさい」

 お風呂から上がったのは入ってから一時間半が経った頃だった。美海と同じ匂いをまとうというのは、なんだか心地がいい。そして定番の全裸チョーカー。いや、定番っておかしいんだけどね。

「はい、じゃあ次は歯磨き。仕上げだけするから先に始めてて」
「いや、子供じゃないから一人で出来るよ」
「そう? ならこっちはこっちで仕度してるから。あ、五分……ううん、十分は磨いてなさい」

 そう言うと美海はバスローブを着て浴室を出て行った。とは言えガラス張りの浴室だから荷物と共にプレイルームへ入っていったのは分かるけれど。ともかく歯磨き。あれこれ飲み食いした後に歯を磨かず気絶していたので恥ずかしながら丸一日ぶりに歯を磨く。なるほど、塩の歯磨き粉もアリかもしれない。起きてからバタバタしていたのと昨晩の睡眠の質が悪かったこともあり、少々うつらうつらしながら歯を磨いていると、プレイルームからひょっこりと美海が顔を覗かせた。手招きしているということはもういいのだろう。ぶくぶくうがいをしてプレイルームに入ると……。

「うわ」

 思わず声を出してしまうほどに異質な空間だった。天井から鎖がぶら下がっており、そこへ立つように言われると、万歳の体勢で手首が鎖に繋がれる。美海が袋を持って背後へ行ったかと思うと、あそこに異物感が。それから頭に何かが乗せられる。

「思った以上に似合うわね。乗っけたのは猫耳カチューシャ。つっこんだのは、尻尾型のアナルバイブ……動かすわね」

 もぞりもぞりと直腸内にゆるい刺激がもたらされる。

「さて、洗いざらい話して貰おうかしら。昨日はあぁ強がったけれど、その後けっこう泣いたのよ私? あと、地団駄を踏んで御津会長に注意されたわ。真下の住人が彼女とは知らなかった。……別に私は、恵玲奈がいなければ生きていられないほど貴女に依存しているつもりはないわ。ただ思った以上にショックだったのは事実よ?」

 説明しろと言いつつも、私に口を開かせない勢いで喋る美海。なんだか新鮮ではあるが血の足りない両腕とバイブの動きが弱すぎてイクにイケない状況がいっそ素直に拷問だった。

「だいたいね、恵玲奈は隙が多すぎるのよ。それに、自分の入ろうとするサークルがヤリサーでないかきちんと情報を集めるのも恵玲奈が目指すジャーナリストに必要なスキルなんじゃないの? 挙げ句に流されやすいなんて言語道断よ。流されやすい淫乱なんてタチが悪いわ。ネコのくせに。でもね……来てくれて、ありがと」
「え?」
「何でもないわよ!」
「ひぐぅ!!」

 バイブの振動が強くなる。下腹部がもうきゅんきゅんして湿り気を帯びているのが自分でも分かるくらいに、美海の細くてしなやかな指を欲しがっている。

「で、ここからが結論。恵玲奈の淫乱はどうにもならないから、好きにしたらいいと思う。誰とセックスしようが恵玲奈の自由だもの。でも必ず私のもとに帰ってきなさい。もし私から離れるようなことがあれば……今まで撮ってきた数々のムービーを……」
「それリベンジポルノじゃん……」
「そうとも言うわね。でも確信してるわ。貴女はもう私なしじゃいられないってね。あともう一つ、私は絶対に貴女としかこんなことしないから」
「……はい」

 私が頷くと、美海は鎖を解いて私をベッドに転がした。両手首を後ろ手に拘束され目隠しまでされる。この部屋は拘束具がやけに多い気がする。

「猫耳、拘束具、チョーカー。はぁ、本当に恵玲奈は可愛いわね。そしていやらしい。うふふ、今にもイキたそうね。気付いてる? もうバイブはオフになってるのよ。なのにこんなに濡らして……。ほんと淫乱。イッてもいいわよ。ほら、イキなさいよ」

 美海に触れて欲しいのに、その声だけで軽く私は達してしまった。目隠しのせいで元から敏感な聴覚がいっそ過敏なほどに美海の声を響かせる。命令されたらもう、逆らえない。

「恵玲奈へのお仕置きはね、ゆっくりなセックス。焦らして焦らして、私をひたすら求めなさい」

 そう言って美海の舌が太ももをなぞる。敏感な所を避けながら、美海のざらついた舌が這う。イキそうになった瞬間、美海の舌は離れてしまう。肩を掴まれ上体を起こされる。

「「んちゅ……ちゅぱ、ぬぅ……んむ」」

 深く深く口づけを交わす。上の口も下の口も涎をたらしながら、体感的には三十分近くキスをしていた。目隠しが悔やまれる。美海はどんな表情で私を求めているのだろう。

「ごめん、やっぱり私の方こそ歯止めが利かない。愛しているわ、恵玲奈。貴女だけを愛している。だから……乱暴にして、いいかしら?」

 目隠しを外し、私の目を見て言葉を紡ぐ美海の顔は真っ赤で表情も蕩けていた。

「いいよ、美海にだったら……私、なにされたって構わない」







 正直、この後のことはあまり覚えていない。

「えれにゃ……らいすき……」

 はっきりと覚えているのは、無邪気な美海の寝顔と寝言くらい。私も大好きだよ、美海。
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