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ファイル18 空き物件に○○ 4月24日日曜日
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その日も通常通りの業務をこなしていたのだけれど、ふと変わった電話を取ったのだった。
「お電話ありがとうございます。リリィエステートの有働でございます」
「あぁ、今おたくの看板を見て電話しているのだけれど、ほらえっとガラス張りの空き店舗があるでしょう?」
電話をかけてきてくださったのは高齢女性っぽい方、ガラス張りの空き店舗……どこのことを言っているんだろう。
「どちらの店舗ですか? 周囲になにがありますか?」
「えっと、隣がレストランで、向かいは……カメラ屋さんかしら。この建物は多分、車屋さんだったと思うわ」
「隣がレストランで向かいがカメラ屋の元車屋さんですね……」
お婆さんが言った内容をメモしていると、三咲ちゃんが隣から声をかけてくれた。
「市場谷の元ディーラーの建物よ」
「えっと、場所は分かりました。どのようなご用件ですか?」
「そうそう、建物の中で鳥が飛びまわっているのよ。出してあげてほしいわ」
聞けばお電話されている方は散歩中らしく、ガラス張りの店舗内に鳥の姿が見えて驚いて電話してきたのだという。お名前を聞くと名乗るほどのものじゃないですよと言われ電話を終えた。一応、ナンバーディスプレイに電話番号が出ているが、まぁ、折り返すこともないかな。
「有働さん、見に行ってきてくれる?」
「あ、分かりました。行ってきます」
物件資料を手渡された私はシグネットの鍵を借りて事務所を飛び出した。
その物件は事務所から車で十五分ほどの距離にあって、かつては輸入車のディーラーとして使われていたようだ。現在は賃料三十五万で募集中、二階建てのそこそこ大きな建物だ。ディーラーということもあって、路面に向けてガラス張りで作られている。
鍵を開けて中に入ると、鳥の姿は見えない。……実はそんなに鳥が得意ではないので、少しビビっている自分がいる。なんとなく手を叩いて大きな音を出す。がらんどうの物件内では手を叩いた音がよく響く。ぐるっと上まで見渡すが、ショールーム内には鳥の姿はない。
「うーん、ピットの方かな」
この建物は道路側にショールームがあり、その裏にピットがある。ピットは一階と二階部分を吹き抜けにして作られており、二階には事務所も構えている。
おそるおそるピット部分へ行くと――
「いた! ハトとかカラスじゃないや」
青っぽいその鳥は全然こちらを警戒する様子もなく、むしろこちらに駆け寄ってくる始末だ。飼われている鳥なのだろうか……いや、そうでもないような。
「換気扇から入ってきちゃったのかな……」
工業的な施設でもあるピットには、そこそこ大きな換気扇が取り付けられている、ひょっとしたらそこから入ってきたのかもしれない。実際にそうかまでは分からないけど。
取り敢えず追い立ててピットから追い出すが、ショールームを飛び回ってなかなか外へは行ってくれない。
写真を撮りつつ音を出して追いかける。ほどなくして倉庫みたいな一室へ追い込むことに成功した。
「窓を、開けて、よし! あとは出て――いった! 良かったぁ」
鳥が出ていったことを確認してすぐ窓を閉める。
また入ってきたら大変だからね。
「よし、事務所に戻ろうっと」
かれこれ十五分ほど時間をかけてしまった。
事務所に戻って何の鳥なのか社長に聞かれたので、取り敢えず画像検索にかけたらところイソヒヨドリだと判明した。人懐っこい鳥と紹介されていた。
「なかなかないお問い合わせだったね、お疲れ様」
三咲ちゃんに頭を撫でてもらえたので私としてはいい仕事をしたと思えた。
「お電話ありがとうございます。リリィエステートの有働でございます」
「あぁ、今おたくの看板を見て電話しているのだけれど、ほらえっとガラス張りの空き店舗があるでしょう?」
電話をかけてきてくださったのは高齢女性っぽい方、ガラス張りの空き店舗……どこのことを言っているんだろう。
「どちらの店舗ですか? 周囲になにがありますか?」
「えっと、隣がレストランで、向かいは……カメラ屋さんかしら。この建物は多分、車屋さんだったと思うわ」
「隣がレストランで向かいがカメラ屋の元車屋さんですね……」
お婆さんが言った内容をメモしていると、三咲ちゃんが隣から声をかけてくれた。
「市場谷の元ディーラーの建物よ」
「えっと、場所は分かりました。どのようなご用件ですか?」
「そうそう、建物の中で鳥が飛びまわっているのよ。出してあげてほしいわ」
聞けばお電話されている方は散歩中らしく、ガラス張りの店舗内に鳥の姿が見えて驚いて電話してきたのだという。お名前を聞くと名乗るほどのものじゃないですよと言われ電話を終えた。一応、ナンバーディスプレイに電話番号が出ているが、まぁ、折り返すこともないかな。
「有働さん、見に行ってきてくれる?」
「あ、分かりました。行ってきます」
物件資料を手渡された私はシグネットの鍵を借りて事務所を飛び出した。
その物件は事務所から車で十五分ほどの距離にあって、かつては輸入車のディーラーとして使われていたようだ。現在は賃料三十五万で募集中、二階建てのそこそこ大きな建物だ。ディーラーということもあって、路面に向けてガラス張りで作られている。
鍵を開けて中に入ると、鳥の姿は見えない。……実はそんなに鳥が得意ではないので、少しビビっている自分がいる。なんとなく手を叩いて大きな音を出す。がらんどうの物件内では手を叩いた音がよく響く。ぐるっと上まで見渡すが、ショールーム内には鳥の姿はない。
「うーん、ピットの方かな」
この建物は道路側にショールームがあり、その裏にピットがある。ピットは一階と二階部分を吹き抜けにして作られており、二階には事務所も構えている。
おそるおそるピット部分へ行くと――
「いた! ハトとかカラスじゃないや」
青っぽいその鳥は全然こちらを警戒する様子もなく、むしろこちらに駆け寄ってくる始末だ。飼われている鳥なのだろうか……いや、そうでもないような。
「換気扇から入ってきちゃったのかな……」
工業的な施設でもあるピットには、そこそこ大きな換気扇が取り付けられている、ひょっとしたらそこから入ってきたのかもしれない。実際にそうかまでは分からないけど。
取り敢えず追い立ててピットから追い出すが、ショールームを飛び回ってなかなか外へは行ってくれない。
写真を撮りつつ音を出して追いかける。ほどなくして倉庫みたいな一室へ追い込むことに成功した。
「窓を、開けて、よし! あとは出て――いった! 良かったぁ」
鳥が出ていったことを確認してすぐ窓を閉める。
また入ってきたら大変だからね。
「よし、事務所に戻ろうっと」
かれこれ十五分ほど時間をかけてしまった。
事務所に戻って何の鳥なのか社長に聞かれたので、取り敢えず画像検索にかけたらところイソヒヨドリだと判明した。人懐っこい鳥と紹介されていた。
「なかなかないお問い合わせだったね、お疲れ様」
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