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ファイル05 最高値物件を確認しよう 4月7日木曜日
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休み明け、さほど仕事量もなく若干の手持ち無沙汰を感じていたら社長に声をかけられた。
「七瀬ちゃん、ちょっと物件見に行こうか。高いのと安いの、どっち見たい?」
「……え? そうですね、せっかくなので高い物件から」
「オッケー。じゃあ今日は高い物件を見て、明日は安い物件を見ようか。ちょっと掃除用具の用意お願いしていい?」
言われるがままフローリングワイパーやら充電式のハンディ掃除機を用意する。あと空のペットボトルに水を二リットル入れて車に積む。
「そんじゃ行ってくるよ」
「い、行ってきます」
社長の運転するルーテシアで市内北東部の高級住宅地へ移動する。私が運転しようと思っていたのだけれど、口で道案内するより自分で運転した方が早いと言われてしまい、助手席にちょこんと座っている。
「もうちょっと気楽にしていいよ」
「そ、そうですか?」
「そうだよ。私の方が年下なんだし、肩の力抜いて」
やっぱり社長の方が年下なんだ。年下の社長っていう圧倒的な違和感。いったい何者なんだろうか。実はまだ会ってないだけで、社長のお母さんが会長として君臨している、みたいな? でもグループ会社があるとか知らされてないし、会長とかいるのだろうか。
「あ、見えてきた。あの白っぽい外壁の家だよ。駐車場も二台付き」
見えてきたのは白い外壁に瓦葺きの屋根というわりとありふれた外観の一軒家。南向きのベランダが日当たり良さそうだ。
「なんだか、新しそうな家ですね」
「うん。築たったの三年。築浅も築浅よ」
「……そもそもここ、賃貸ですか? 売買ですか?」
社長からは高い物件としか聞かされておらず、それが月額賃料なのか売値なのかも分からない。
「ここは賃貸物件だよ。中を見てからお値段予想してもらおうかな。一応、私が営業役で内見のロールプレイだと思ってくれていいよ。まぁ、こういう案内のプロじゃないから、参考程度にしてくれればって感じだけど」
そう言いながら、社長は玄関の鍵を開けスリッパを二足並べる。そうして私に上がるよう促す。
玄関からして十分広く、四人家族くらいでも十分靴が並べられそうだ。シューズクローゼットもあり、扉には姿見もあるから毎朝の身支度がきっちりできそうだ。
「間取りは4SLDKとなっております。まずはLDKからどうぞ」
玄関が西側にあるので、入ってすぐ右手の南向きの空間がLDKのようだ。十八畳あるそうで、ダイニングセットの他にソファーとローテーブルを置いても十分な広さが確保できそう。
「対面キッチンなので、料理をしながらでもリビングにいる子供の様子が見えますよ」
「なるほど。あ、あの壁にあるのって棚じゃなくて子供ようの机みたいなものですか?」
「はい。お子さんが宿題をするのにもいいですし、奥様が家計簿をつけたりアイロンがけをしたりするのにもいいですね」
……ファミリー向け物件だろうから、そういう紹介になるのは当然だろうけどナチュラルに奥様って言われるとびっくりしてしまう。にしても、こうしてロールプレイングと分かっていても、社長の振る舞いは女優さんみたいだ。敏腕営業マン役を演じてますって感じ。
「北側には客間としても使える和室がございます。北西とあって日当たりが悪いように思われるかもしれませんが、畳が日焼けしにくいので、北に和室というのは合理的なんですよ。そこから東側へ水回りが集まってますね。お手洗い、脱衣所、そして浴室です」
ちなみに持ってきた水はトイレのタンクに注いで、流すためらしい。トイレが乾くと水道管の臭いが上がってきて空き家臭さを発生させるらしい。そのほか、シンクや洗面台も排水溝にはサランラップで覆われていた。臭い対策らしい。
二階は八畳とウォークインクローゼットの主寝室と六畳の子供部屋が二部屋、そして書斎という間取りだった。
掃除用具をがっつり持ってきたわりには、けっこう綺麗で埃もあまり積もっていない。
「どう七瀬ちゃん。いいおうちでしょう?」
「そうですね。それこそ……十五、十六万円くらいするんじゃないですか?」
「惜しいね。家賃は月々十八万円だよ。十八でも安いくらいだと思うんだけどね。この春はお医者さんとかが借りるんじゃないかと宣伝頑張ったけど空振りだったよ」
家賃に毎月十八万、年間で二百万円も払える人なら、家を建てることを考えそう。転勤のあるお医者さんなら借りることも……あるのかな?
取り敢えずリビングから掃除を開始しつつ、社長に尋ねる。
「どうして賃貸にこだわるんですか? 買い手なら問題なく見つかりそうなのに」
私の問いに、社長はこの物件を貸し出すまでの経緯を教えてくれた。
この物件は会社で買い取った物件らしく、もともとはその時の売り主さんが建てた家だった。ご夫婦とお子さんが一人の家族だったけれど、旦那さんが突然の病で亡くなってしまったらしい。保険によってはローンの返済が免除されるものもあるけれど、その旦那さんの保険にはそういった特約はなく、家のローンは二人目のお子さんを妊娠している奥様にのしかかった。
それで結局は家を手放すことになりリリィエステートが買い取ったのだという。
「その時、奥さんがさ……いつか買い戻したいので転売しないでほしいって言ったんだよね。まぁ、なかなか難しいことだと思うけど、多少安く買っちゃったからもうしばらくは待てるかな」
亡き旦那さんとあれこれ考えながら建てた家なのだろう。いつか買い戻したい気持ちは分かるし、それが難しそうだということも。
「七瀬ちゃん頑張ってこの家に客付けしてよ。ちなみに敷金二か月礼金一か月ね」
「か、かかりますね……」
「維持費も伊達じゃないからね……。ほんと、医者の借り手がつくと思ってたのになぁ。ま、いつ誰が見てもいいようにお掃除頑張ろうか」
「はい!!」
広い一軒家ということもあり、お掃除するだけでなかなかの重労働だった。休み明けにはちょっと堪えた……。
「七瀬ちゃん、ちょっと物件見に行こうか。高いのと安いの、どっち見たい?」
「……え? そうですね、せっかくなので高い物件から」
「オッケー。じゃあ今日は高い物件を見て、明日は安い物件を見ようか。ちょっと掃除用具の用意お願いしていい?」
言われるがままフローリングワイパーやら充電式のハンディ掃除機を用意する。あと空のペットボトルに水を二リットル入れて車に積む。
「そんじゃ行ってくるよ」
「い、行ってきます」
社長の運転するルーテシアで市内北東部の高級住宅地へ移動する。私が運転しようと思っていたのだけれど、口で道案内するより自分で運転した方が早いと言われてしまい、助手席にちょこんと座っている。
「もうちょっと気楽にしていいよ」
「そ、そうですか?」
「そうだよ。私の方が年下なんだし、肩の力抜いて」
やっぱり社長の方が年下なんだ。年下の社長っていう圧倒的な違和感。いったい何者なんだろうか。実はまだ会ってないだけで、社長のお母さんが会長として君臨している、みたいな? でもグループ会社があるとか知らされてないし、会長とかいるのだろうか。
「あ、見えてきた。あの白っぽい外壁の家だよ。駐車場も二台付き」
見えてきたのは白い外壁に瓦葺きの屋根というわりとありふれた外観の一軒家。南向きのベランダが日当たり良さそうだ。
「なんだか、新しそうな家ですね」
「うん。築たったの三年。築浅も築浅よ」
「……そもそもここ、賃貸ですか? 売買ですか?」
社長からは高い物件としか聞かされておらず、それが月額賃料なのか売値なのかも分からない。
「ここは賃貸物件だよ。中を見てからお値段予想してもらおうかな。一応、私が営業役で内見のロールプレイだと思ってくれていいよ。まぁ、こういう案内のプロじゃないから、参考程度にしてくれればって感じだけど」
そう言いながら、社長は玄関の鍵を開けスリッパを二足並べる。そうして私に上がるよう促す。
玄関からして十分広く、四人家族くらいでも十分靴が並べられそうだ。シューズクローゼットもあり、扉には姿見もあるから毎朝の身支度がきっちりできそうだ。
「間取りは4SLDKとなっております。まずはLDKからどうぞ」
玄関が西側にあるので、入ってすぐ右手の南向きの空間がLDKのようだ。十八畳あるそうで、ダイニングセットの他にソファーとローテーブルを置いても十分な広さが確保できそう。
「対面キッチンなので、料理をしながらでもリビングにいる子供の様子が見えますよ」
「なるほど。あ、あの壁にあるのって棚じゃなくて子供ようの机みたいなものですか?」
「はい。お子さんが宿題をするのにもいいですし、奥様が家計簿をつけたりアイロンがけをしたりするのにもいいですね」
……ファミリー向け物件だろうから、そういう紹介になるのは当然だろうけどナチュラルに奥様って言われるとびっくりしてしまう。にしても、こうしてロールプレイングと分かっていても、社長の振る舞いは女優さんみたいだ。敏腕営業マン役を演じてますって感じ。
「北側には客間としても使える和室がございます。北西とあって日当たりが悪いように思われるかもしれませんが、畳が日焼けしにくいので、北に和室というのは合理的なんですよ。そこから東側へ水回りが集まってますね。お手洗い、脱衣所、そして浴室です」
ちなみに持ってきた水はトイレのタンクに注いで、流すためらしい。トイレが乾くと水道管の臭いが上がってきて空き家臭さを発生させるらしい。そのほか、シンクや洗面台も排水溝にはサランラップで覆われていた。臭い対策らしい。
二階は八畳とウォークインクローゼットの主寝室と六畳の子供部屋が二部屋、そして書斎という間取りだった。
掃除用具をがっつり持ってきたわりには、けっこう綺麗で埃もあまり積もっていない。
「どう七瀬ちゃん。いいおうちでしょう?」
「そうですね。それこそ……十五、十六万円くらいするんじゃないですか?」
「惜しいね。家賃は月々十八万円だよ。十八でも安いくらいだと思うんだけどね。この春はお医者さんとかが借りるんじゃないかと宣伝頑張ったけど空振りだったよ」
家賃に毎月十八万、年間で二百万円も払える人なら、家を建てることを考えそう。転勤のあるお医者さんなら借りることも……あるのかな?
取り敢えずリビングから掃除を開始しつつ、社長に尋ねる。
「どうして賃貸にこだわるんですか? 買い手なら問題なく見つかりそうなのに」
私の問いに、社長はこの物件を貸し出すまでの経緯を教えてくれた。
この物件は会社で買い取った物件らしく、もともとはその時の売り主さんが建てた家だった。ご夫婦とお子さんが一人の家族だったけれど、旦那さんが突然の病で亡くなってしまったらしい。保険によってはローンの返済が免除されるものもあるけれど、その旦那さんの保険にはそういった特約はなく、家のローンは二人目のお子さんを妊娠している奥様にのしかかった。
それで結局は家を手放すことになりリリィエステートが買い取ったのだという。
「その時、奥さんがさ……いつか買い戻したいので転売しないでほしいって言ったんだよね。まぁ、なかなか難しいことだと思うけど、多少安く買っちゃったからもうしばらくは待てるかな」
亡き旦那さんとあれこれ考えながら建てた家なのだろう。いつか買い戻したい気持ちは分かるし、それが難しそうだということも。
「七瀬ちゃん頑張ってこの家に客付けしてよ。ちなみに敷金二か月礼金一か月ね」
「か、かかりますね……」
「維持費も伊達じゃないからね……。ほんと、医者の借り手がつくと思ってたのになぁ。ま、いつ誰が見てもいいようにお掃除頑張ろうか」
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