4 / 24
ファイル03 社用車の管理を覚えよう 4月3日日曜日
しおりを挟む
「お電話ありがとうございます。リリィエステート、有働が承ります」
三日目ともなれば電話と取ることには慣れつつあった。ただ、やはりまだ物件名とか地元なのに細かい地名とかが覚えきれないこともあって、こういう電話にはまだ慣れずにいた。
『今さぁ、南町のなんかオレンジ色のアパートの前にいるんだけど、おたくの看板があって、それで電話したんだけど、ここって空いてる部屋ある?』
朝十時に聞くにはあまりにギャンギャンするギャルっぽいお姉さんからの電話だった。まだ物件に詳しくないので、ひとまず保留して三咲ちゃんに聞く。南町ってどこに対して南なんだろう。
「今、看板を見て電話してくださったお客様から、南町のオレンジ色のアパートに問い合わせが」
「あぁ、それならそのままオレンジハイツ南町だね。空の宮駅からちょっと南にあるんだよ。取り敢えず代わるね。――お電話代わりました営業の建原です。はい、二階の角部屋に空きがございまして、間取りは2LDKでお家賃が五万三千円となっております。……はい、ご覧になりますか? ……えぇ、では十五分でお伺いいたしますので、はい。よろしくお願いいたします。――ふぅ、じゃあ鍵の出し方教えるね」
電話の対応がスマートではやり三咲ちゃんはかっこいいなぁと思いつつ、鍵の出し方を教わる。大家さんによっては不動産屋さんであるうちに、鍵を預けてくれることがある。
「鍵はこの引き出しに入ってるよ。この引き出しの鍵は私と専務が持ってるから、必要な時は声をかけてね」
三咲ちゃんが事務所の北東の隅にある引き出しを開ける。この引き出し、ラベルに自社とか管理とか一般とか書いてある。
「オレンジハイツはリリィエステートの管理物件だから、鍵はぜーんぶ、うちが持ってるよ。絶対に紛失しないようにね」
管理物件とは大家さんから一棟まるごと管理を依頼されている物件で、大家さんから毎年管理料として一定の金額をいただいている。他の不動産屋さんは直接大家さんと賃貸の交渉ができず、うちを通さねばならないらしい。賃貸がメインの不動産屋さんにとって、管理物件を増やすことは経営安定の定石らしい。
「三咲ちゃん内見? じゃあシグ使って。帰りに給油もお願い」
「分かりました、社長。では内見行ってきます!!」
三咲ちゃんを見送ってから、社長に一つ質問する。
「シグってなんのことですか?」
「あぁ、そっか。社有車の話、し忘れてたっけ。実際に見ながら話そうか」
社長に言われ玄関を出て南側に広がる駐車場に出る。ちょうど、シルバーの小さい車が敷地を出て行ったところだ。あれが三咲ちゃんが乗った車だろうか。
「あれはシグネットっていう車で、私が勝手にシグって呼んでる。オーダーメイドとか限定車を除けば世界屈指のレア車だよ」
「え? でも何となくあの形の車を見たことあるような……」
「それは多分iQっていうシグのベースになった車だよ。シグはね……百数十台しか売れなかったらしくてね、母からおさがりでもらったけど、何のつもりで買ったかちょっと今でも意味不明」
スマホで調べてみるとどうやらイギリスの車らしい。小さいけれど軽自動車ではないようだ。
「だいたい物件を見に行く時とか、一人で乗る時に使ってもらってる。軽より幅はあるけど、小回りはすごくいいし高級感もあって私はそれなりに気に入ってる。まぁ、ルーちゃんの方が好きだけど。あれ、オレンジ色の車がルーテシア。四人までならあれで充分。大所帯で来てそのまま移動ってこと、ほぼないし」
あれはどうやらフランス車らしい。日本の街並みにも合うおしゃれ可愛い車だなって思った。オレンジ色がいいのかもしれない。
「一応、上客というかお金持ちの中にはセダンを好むお客さんもいるから、あのシルバーの車がESってやつなんだけど六代目ESはちょっと古い車なんだよね。とはいえ七代目がちょっと見た目がギラギラし過ぎだから、六代目の方が上品な気がするのよね」
あのエンブレムは流石に見たことがある。レクサスだ。社長、若いのにこんなに高そうな車並べて……一体何者なんだろうか。
「ちなみに、土日に給油すると箱ティッシュもらえるから給油は土日ね」
……そこはケチケチしてるのね。庶民派の感覚もお持ちと。
「てなわけで、ガソリンの減りを確認して半分切ってたら給油お願い。鍵はさっき教わってた物件の鍵棚の横にフックでつるしてあるよ。スタンドはここから南に150メートルくらいのところにあるし、カードはそれぞれ車に入ってるから。……セルフのガソリンスタンド行ったことあるよね?」
「……それは大丈夫ですけど、高い車を運転するの……緊張しますね」
さっきやたら調べたせいで金額まで見てしまったのだ。私が乗っているのは中古車な上に新車でも200万円くらいだから……二倍以上の価格の車たちだ。普通に緊張する。
「それは慣れだよ。頑張って!!」
ルーテシアとESのエンジンをかけてみたところ、ルーテシアだけガソリンの残量が半分を切っていたので給油することになった。……緊張は快適さと相殺できたので、普通にいい車だなって思いながら運転したのだった。
三日目ともなれば電話と取ることには慣れつつあった。ただ、やはりまだ物件名とか地元なのに細かい地名とかが覚えきれないこともあって、こういう電話にはまだ慣れずにいた。
『今さぁ、南町のなんかオレンジ色のアパートの前にいるんだけど、おたくの看板があって、それで電話したんだけど、ここって空いてる部屋ある?』
朝十時に聞くにはあまりにギャンギャンするギャルっぽいお姉さんからの電話だった。まだ物件に詳しくないので、ひとまず保留して三咲ちゃんに聞く。南町ってどこに対して南なんだろう。
「今、看板を見て電話してくださったお客様から、南町のオレンジ色のアパートに問い合わせが」
「あぁ、それならそのままオレンジハイツ南町だね。空の宮駅からちょっと南にあるんだよ。取り敢えず代わるね。――お電話代わりました営業の建原です。はい、二階の角部屋に空きがございまして、間取りは2LDKでお家賃が五万三千円となっております。……はい、ご覧になりますか? ……えぇ、では十五分でお伺いいたしますので、はい。よろしくお願いいたします。――ふぅ、じゃあ鍵の出し方教えるね」
電話の対応がスマートではやり三咲ちゃんはかっこいいなぁと思いつつ、鍵の出し方を教わる。大家さんによっては不動産屋さんであるうちに、鍵を預けてくれることがある。
「鍵はこの引き出しに入ってるよ。この引き出しの鍵は私と専務が持ってるから、必要な時は声をかけてね」
三咲ちゃんが事務所の北東の隅にある引き出しを開ける。この引き出し、ラベルに自社とか管理とか一般とか書いてある。
「オレンジハイツはリリィエステートの管理物件だから、鍵はぜーんぶ、うちが持ってるよ。絶対に紛失しないようにね」
管理物件とは大家さんから一棟まるごと管理を依頼されている物件で、大家さんから毎年管理料として一定の金額をいただいている。他の不動産屋さんは直接大家さんと賃貸の交渉ができず、うちを通さねばならないらしい。賃貸がメインの不動産屋さんにとって、管理物件を増やすことは経営安定の定石らしい。
「三咲ちゃん内見? じゃあシグ使って。帰りに給油もお願い」
「分かりました、社長。では内見行ってきます!!」
三咲ちゃんを見送ってから、社長に一つ質問する。
「シグってなんのことですか?」
「あぁ、そっか。社有車の話、し忘れてたっけ。実際に見ながら話そうか」
社長に言われ玄関を出て南側に広がる駐車場に出る。ちょうど、シルバーの小さい車が敷地を出て行ったところだ。あれが三咲ちゃんが乗った車だろうか。
「あれはシグネットっていう車で、私が勝手にシグって呼んでる。オーダーメイドとか限定車を除けば世界屈指のレア車だよ」
「え? でも何となくあの形の車を見たことあるような……」
「それは多分iQっていうシグのベースになった車だよ。シグはね……百数十台しか売れなかったらしくてね、母からおさがりでもらったけど、何のつもりで買ったかちょっと今でも意味不明」
スマホで調べてみるとどうやらイギリスの車らしい。小さいけれど軽自動車ではないようだ。
「だいたい物件を見に行く時とか、一人で乗る時に使ってもらってる。軽より幅はあるけど、小回りはすごくいいし高級感もあって私はそれなりに気に入ってる。まぁ、ルーちゃんの方が好きだけど。あれ、オレンジ色の車がルーテシア。四人までならあれで充分。大所帯で来てそのまま移動ってこと、ほぼないし」
あれはどうやらフランス車らしい。日本の街並みにも合うおしゃれ可愛い車だなって思った。オレンジ色がいいのかもしれない。
「一応、上客というかお金持ちの中にはセダンを好むお客さんもいるから、あのシルバーの車がESってやつなんだけど六代目ESはちょっと古い車なんだよね。とはいえ七代目がちょっと見た目がギラギラし過ぎだから、六代目の方が上品な気がするのよね」
あのエンブレムは流石に見たことがある。レクサスだ。社長、若いのにこんなに高そうな車並べて……一体何者なんだろうか。
「ちなみに、土日に給油すると箱ティッシュもらえるから給油は土日ね」
……そこはケチケチしてるのね。庶民派の感覚もお持ちと。
「てなわけで、ガソリンの減りを確認して半分切ってたら給油お願い。鍵はさっき教わってた物件の鍵棚の横にフックでつるしてあるよ。スタンドはここから南に150メートルくらいのところにあるし、カードはそれぞれ車に入ってるから。……セルフのガソリンスタンド行ったことあるよね?」
「……それは大丈夫ですけど、高い車を運転するの……緊張しますね」
さっきやたら調べたせいで金額まで見てしまったのだ。私が乗っているのは中古車な上に新車でも200万円くらいだから……二倍以上の価格の車たちだ。普通に緊張する。
「それは慣れだよ。頑張って!!」
ルーテシアとESのエンジンをかけてみたところ、ルーテシアだけガソリンの残量が半分を切っていたので給油することになった。……緊張は快適さと相殺できたので、普通にいい車だなって思いながら運転したのだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
身体だけの関係です‐原田巴について‐
みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子)
彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。
ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。
その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。
毎日19時ごろ更新予定
「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。
良ければそちらもお読みください。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
君の瞳のその奥に
楠富 つかさ
恋愛
地方都市、空の宮市に位置する中高一貫の女子校『星花女子学園』で繰り広げられる恋模様。それは時に甘く……時に苦い。
失恋を引き摺ったまま誰かに好意を寄せられたとき、その瞳に映るのは誰ですか?
片想いの相手に彼女が出来た。その事実にうちひしがれながらも日常を送る主人公、西恵玲奈。彼女は新聞部の活動で高等部一年の須川美海と出会う。人の温もりを欲する二人が出会い……新たな恋が芽吹く。
夜空に咲くは百合の花
楠富 つかさ
恋愛
地方都市、空の宮市に位置する中高一貫の女子校『星花女子学園』で繰り広げられる恋模様。
親友と恋人になって一年、高校二年生になった私たちは先輩達を見送り後輩達を指導する激動の一年を迎えた。
忙しいけど彼女と一緒なら大丈夫、あまあまでラブラブな生徒会での日常系百合色ストーリー
久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃった件
楠富 つかさ
恋愛
久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃうし、なんなら恋人にもなるし、果てには彼女のために職場まで変える。まぁ、愛の力って偉大だよね。
※この物語はフィクションであり実在の地名は登場しますが、人物・団体とは関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる