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#4 欲望の衝動

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 固有魔法を発動する時に魔力を籠めすぎたのか、衝動を抑えこめそうにない。息を荒げながら、結歌ちゃんを強く抱きしめる。胸を押し付けるように、強く……強く。

「舞美ちゃん、身体……すごく熱いよ。これが、魔剣の代償?」

 耳元で囁かないで……脳が、感じちゃうから。下腹部が疼いてしまう……これほど強い代償じゃ実戦で使うのは怖い。自分が、自分で無くなってしまいそうだ。それに、魔剣を使っても結歌ちゃんに勝てない……。私は、どうしたらいいの……?

「お風呂、入れる?」

 お風呂、その言葉で結歌ちゃんの裸身を思い浮かべてしまう。結歌ちゃんも、さっきの私みたいに……一人で、そういうことをしているのかな? 不埒な妄想が止まらない。

「舞美ちゃん?」
「ん……んぁ。はぁ……っくぅ」

 背中に電撃が奔ったような感覚に襲われる。その衝撃が引くと、下腹部にじっとりとした不快感が寄せてくる。頭こそスッキリしたが、私は人として重要な何かを欠いてしまったのではないかという不安に苛まれる。特に、結歌ちゃんに破廉恥な女だと思われたくない。

「もう、平気だから……。お風呂、行こう」

 とっくに納刀したし、グリーディ・メイデンの代償はもう充分に支払っただろう。私は一刻も早く下着を替えたかった。怪訝そうな結歌ちゃんの視線を懸命に無視して、一度部屋へ戻る。魔剣を置いて、着替えを持ち出す。部屋着であるジャージを持って大浴場へ。

「もう、舞美ちゃんどうしたの? 負けたのが悔しいの?」

 足早で向かう私に、後方から結歌ちゃんが尋ねてくる。本当に無邪気な結歌ちゃん。きっと性欲とは無縁の女の子なんだ。そんな彼女へ……私は……。本当に自分が嫌になる。ただ、好きなだけだと思っていたのに。脱衣所に着いた私は結歌ちゃんが追いついてくる前に下着を脱ぐ。湿ったそれを見られないように隠し全裸になるとタオルで前を隠す。

「舞美ちゃん? クッキー作ってくれるよね?」
「う、うん。クッキーは作るね。先に入ってるから」

 シャワーで身体を入念に流す。タオルにボディーソープをたらし、泡立てる。身体を洗いながら、ついため息が出てしまう。結歌ちゃんに勝つために、私はこれ以上どうしたらいいのだろう。

「もう、舞美ちゃんどうしちゃったの?」
「ごめんね。魔剣があれば勝てると思ってたから……。結歌ちゃんはどうして、そんなに強いの?」

 メイガスは魔力量に秀でる傾向があるけれど、結歌ちゃんの魔法は攻撃的なそれではないし……これまでの実績は全て純然たる剣客としての強さによるものだ。私だってずっと研鑽を重ねてきたというのに、どうして追いつくことすらできないのだろう。

「舞美ちゃんがいてくれるからだよ」

 結歌ちゃんが、後ろからそっと私を抱く。その優しい声色に、胸の奥底から温かい気持ちがこみ上げてくる。さっきまでの歪んだ気持ちが、ほどけて散っていくような感覚だ。

「私も……結歌ちゃんの力になりたい」
「えへへ。ほら、私って難しいこと苦手じゃん? 作戦を立てるのも苦手だし、舞美ちゃんがいなきゃ戦えないよ……」

 その言葉だけで、私も戦えるよ……。結歌ちゃんの手の温もりをぎゅっと抱きしめて、誓いを立てた。欲望に打ち克ってみせる。
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