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#2 興味の源泉
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生まれつき水が好きだった。水以外に特に興味はなかったし、夢は水に浮いている時のあの感覚を寝具で再現することだった。そうして服飾科を選んで星花の高等部に進学した頃、同じく服飾科である六組のクラスメイトになった木代百香によく声をかけられるようになった。
彼女は和菓子屋の娘だというのにバンドを結成し、衣装も自分で作って方々で演奏をしているとのことだ。転機は一年生の夏だった。何の気なしに、彼女は私をプールに誘ってきた。すぐさま行くと答えた私を不思議に思ったのか、百香はプールがそんなに楽しみかと聞いてきた。そんな彼女に私は水が好きなんだと答えた。そうして私の水好きを知った百香は、夏が終わる頃にある誘惑をしてきた。
「私を飲んでみない?」
最初に言われた時は意味不明だったが、よくよく考えれば人体はほぼ水だという天啓にうたれ、彼女の手ほどきをうけながら私は淫蕩に耽るようになった。それから二年、唾液そして愛液の甘美さを知ってしまった私は、百香に溺れていった。彼女も私を気に入ってくれたのか、度々家に招かれるようになった。そこで、私は彼女の妹――木代万和ともよく話すようになった。ハーブが好きだという彼女に、植物にいい水についてを語るようになった。私も彼女も姉二人を持つ末妹ということで、打ち解けたのかもしれない。
「友庭さんは百香お姉ちゃんとどういう関係なの?」
ある日、万和ちゃんからそう尋ねられた時があった。その日は珍しく私から木代家に行きたいと話し、百香は部屋を片付けると言って応接室に私と万和ちゃんだけを残して出て行ってしまった時のことだった。どう答えていいか分からないうちに、百香が戻ってきてその日はそれ以上、万和ちゃんと話せなかった。
当然、百香の部屋に通された私と百香はことに至ったものの、恋人という関係でもなければ……そもそも私は百香のファンですらなかった。彼女は軽音部で活動しておりファンも一定数いる。万和ちゃんに聞いたが外泊することも多々あるらしい。
「なぁ百香」
「ん? なぁに?」
私とは大違いの起伏に富む肢体を晒しながら、内側だけ赤く染めた髪を弄ぶ。私は万和ちゃんに問われたことを彼女に聞こうとして……返事が怖くなって口を噤んだ。自分でもそれに驚いてしまった。私が水以外に興味を持つなんて、と。でもすぐに気付いた。私は百香に興味があるのではなく、百香がくれる水にしか興味がないのだと。私は私だ。
「いや、なんでもない。汗を舐めてもいいか?」
「いいけど、スポドリも飲みなよ?」
「真水がいいのだがなぁ」
人の体液、その味を知ってしまったが、私にとって一番はやはり真水だ。水以上に私の渇きを潤してくれるものはない。
「そろそろかなぁ」
ペットボトルの水を嚥下する音で、百香が何を言ったのか聞き取ることが出来なかった。もし聞き取ることが出来たとしても、特に興味を持って掘り下げることはなかっただろう。
彼女は和菓子屋の娘だというのにバンドを結成し、衣装も自分で作って方々で演奏をしているとのことだ。転機は一年生の夏だった。何の気なしに、彼女は私をプールに誘ってきた。すぐさま行くと答えた私を不思議に思ったのか、百香はプールがそんなに楽しみかと聞いてきた。そんな彼女に私は水が好きなんだと答えた。そうして私の水好きを知った百香は、夏が終わる頃にある誘惑をしてきた。
「私を飲んでみない?」
最初に言われた時は意味不明だったが、よくよく考えれば人体はほぼ水だという天啓にうたれ、彼女の手ほどきをうけながら私は淫蕩に耽るようになった。それから二年、唾液そして愛液の甘美さを知ってしまった私は、百香に溺れていった。彼女も私を気に入ってくれたのか、度々家に招かれるようになった。そこで、私は彼女の妹――木代万和ともよく話すようになった。ハーブが好きだという彼女に、植物にいい水についてを語るようになった。私も彼女も姉二人を持つ末妹ということで、打ち解けたのかもしれない。
「友庭さんは百香お姉ちゃんとどういう関係なの?」
ある日、万和ちゃんからそう尋ねられた時があった。その日は珍しく私から木代家に行きたいと話し、百香は部屋を片付けると言って応接室に私と万和ちゃんだけを残して出て行ってしまった時のことだった。どう答えていいか分からないうちに、百香が戻ってきてその日はそれ以上、万和ちゃんと話せなかった。
当然、百香の部屋に通された私と百香はことに至ったものの、恋人という関係でもなければ……そもそも私は百香のファンですらなかった。彼女は軽音部で活動しておりファンも一定数いる。万和ちゃんに聞いたが外泊することも多々あるらしい。
「なぁ百香」
「ん? なぁに?」
私とは大違いの起伏に富む肢体を晒しながら、内側だけ赤く染めた髪を弄ぶ。私は万和ちゃんに問われたことを彼女に聞こうとして……返事が怖くなって口を噤んだ。自分でもそれに驚いてしまった。私が水以外に興味を持つなんて、と。でもすぐに気付いた。私は百香に興味があるのではなく、百香がくれる水にしか興味がないのだと。私は私だ。
「いや、なんでもない。汗を舐めてもいいか?」
「いいけど、スポドリも飲みなよ?」
「真水がいいのだがなぁ」
人の体液、その味を知ってしまったが、私にとって一番はやはり真水だ。水以上に私の渇きを潤してくれるものはない。
「そろそろかなぁ」
ペットボトルの水を嚥下する音で、百香が何を言ったのか聞き取ることが出来なかった。もし聞き取ることが出来たとしても、特に興味を持って掘り下げることはなかっただろう。
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