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外伝最終話 また別の話
しおりを挟むケインとガルドが消えてから2ヶ月。
地球は何事も無かった様に平和になっていた。
どうやら、鈴木さんが人々の記憶を操作したらしく、アスタルテが起こした事件や魔物の被害、そして、シムがばら撒いた『即死』について適当な理由に補完されたようだ。
だが、流石に事が大きすぎたらしく、誤魔化すのが難しかったようで、人類が皆同時に数時間謎の眠りについた……という事になってしまったらしく、何事も無くというわけには行かなかった。
この事件は、随分先の未来まで語り継がれる謎となるのだが、それはまた別の話である。
全人類を蘇らせた後、エルナ達は鈴木から事情を聞いた。
曰く、ケインとガルドはシムに勝つために自らの命を燃やして戦闘力を底上げしたのだと。
ガルドがケインと戦った時にした事と同じ事を今度はケインとガルド2人分の魂……しかも、たった1分だけという時間制限に絞ったそうだ。
更に、ガルドは一時魂だけの状態となった為、『バーストライフ』の使い方が上達しており、その上昇率は数倍や数十倍では収まらなかったようだ。
倒すだけなら、ケインとガルドの魂を少しずつ使ってガルドがうまく調整すれば、もっと安全に倒す事は出来たそうだ。
しかし、ケインとガルドは世界中の人々を生き返らせる為に、『バーストライフ』を一気に使って魔力のステータスを底上げし、有り余るほどの魔力を得ようとしたのだそうだ。
結果、彼女達は死んでしまった。
覚悟していた事とはいえ、みんなの為に2人が命を犠牲にするなどあんまりである。
そう思ったエルナはすぐさま鈴木に頭を下げる。
「……何だい?エルナちゃん」
「お願いです鈴木様。ケインを……ケインを生き返らせてあげて下さい」
「駄目とは言えないけどねぇ。ガルドの方は良いのかい?」
「……ガルドにも、出来れば生き返ってほしいです。でも、ガルドは死ぬべき時に死ねたんだと思ってます。だけどケインは違う!こんな……彼女が皆んなの為に犠牲になるなんて!そんなの!」
半泣きの状態で訴えかけるエルナが相手では、流石の神鈴木ものらりくらりとしている場合では無くなったようだ。
「ごめんねえ。申し訳ないけど、生き返らせないんじゃ無い。生き返らせれないんだ」
「どう……じて?」
「『ガーデンライフ』はね。生命活動を停止した肉体を再活動出来る状態まで戻す魔法なんだ。通常ならそれで元通りだけど……ケインとガルドはね」
「あっ……」
そうである。
ケインとガルドは魂を消費してしまったのだ。
魂さえあれば、鈴木なら最悪他の体で蘇生できる。
何ならクローンを作れば良いのだ。
だが、魂ばかりはどうにもならない。
作ろうと思えば鈴木は魂も作れるが、それはケインの再現にしかならず、本物の彼女達では無いのだ。
結局、神鈴木も真に万能の神では無かったという事である。
「そん……なっ!なんで……」
「……諦めるんだエルナ。ケイン達は生き返れないよ」
「私は……独りでも………必ずケインを!」
鈴木の頭によぎるのは、ケインが死ぬ間際に言った言葉だった。
(『心から許す事はできない』……か)
鈴木は別に悪人というわけではない。
惑星ジムダを作ったのだって、ルーナを助ける為で、クローンもその一環だ。
シムの件にしても鈴木からすればシステムに自我が芽生えるとは思っていなかったのだから、重圧をかけたといってもそれは人間がAIをこき使うのと何ら変わらないのだから。
だが、やはり……少しだけ、自分の雑な行動によって起きてしまった悲劇がある事を後悔しているようだ。
せめてもの贖罪に……
「これをあげるよ」
「何で…すか?これは」
鈴木がエルナに渡した物は丸い石であった。
だが、明らかに普通の石ではない。
「これはアタシのスキルが全て詰め込まれた石さ。つまり、『創造』の全てが詰め込まれているんだ。エルナがこれら全部のスキルを取得したら身がもたないから、使えないけど……」
「……これが何になるんですか?こんなのでケインは……」
「ああ、もしケインを甦らせる方法を思いついたらそれを使いな。その石はスキルの塊だ。莫大なエネルギーと手段が入っているからきっと役に立つよ」
「……」
そんな方法あるはずがない。
恐らくエルナは未来永劫あるはずの無い答えを探し続けるのだ。
存在が消滅した者を再び蘇らせる事がどれだけ不可能に近いのかなど、やる前から分かっている。
だが、それでも探し続けるであろうエルナへのエールなのだ。
これで何かが変わるわけでも無い。
無意味な事である。
だが、鈴木は止まっていた自分の時が少しだけ動き始めた気がした。
………………………………
………………
……
全てが終わり、エルナ達をジムダへと送り届けた後に、鈴木とルーナだけが地球に残った。
「さてっと……帰ろっか?ルーナ」
「鈴木様、もう灰色の世界は無いですよ。スキルを全てエルナに渡してしまわれたので」
「あっ!そうだったなぁ……。どうしよ?取り敢えずそこら辺のアパートでも借りる?」
「……はぁ、どうして渡されたのですか?」
「……ケインがさ、最後に言ってたんだ」
「?」
「シムは人間になりたかったんだってね」
「シムが……?そんなまさか」
「いやでも、あながち間違いでも無いかもね。アタシもさ、神なんて名乗っちゃいたけど出来ない事ばっかだ」
「そんな事はありません。鈴木様は万能です」
「あははは、まあね。でも、万能の神なんて言葉がそもそも烏滸がましいとアタシは思うね」
「……否定できません」
「だからアタシは人間になってみるよ。万能なんかじゃ無くて、凄い人間にね。手始めにスキルは全部捨てた。きっとこれからまだまだ色々楽しい事あるよ」
「……鈴木様」
「ねえ、今度デートでも行かないルーナ」
「デート……?遊びに行かれるのならお供しますが……」
「違う違う、そうじゃなくて……」
「……?」
首を傾げるルーナに鈴木は笑い出す。
「まさかここまでとはね……まあ良いや、じっくり知ってもらうから」
「……はい」
「それじゃあ先ずはお金貯める為にバイトを……」
「NO、そうはさせません」
そう言って2人の前に立ちはだかるのは、ケインとガルドが倒したはずのシムであった。
「シム!?そんな馬鹿な……ケインとガルドが倒した筈です!」
「まあ落ち着いてルーナ。多分こいつはシムじゃ無いよ」
「YES、分かりますか……流石は元神の鈴木です」
「マヒロって呼んでくれない?下の名前の方が可愛げあるし」
「NO、ふざけた事を言ってられるのも今のうちですよ。貴方はワタシの計画には邪魔なのでね。死んでいただきましょう」
「またこのパターンかよ……話聞かねーなほんと」
「鈴木様、シムでは無いというのは一体……?」
「あれだよ、アタシは惑星ジムダにしかスキルを付与するシステム『シム』を配置しなかったじゃん?だからアスタルテがアタシに反逆する為に地球で強い人間を作る為、擬似的なシステムを作ったんだよ。まあ、シムの劣化版だね」
そう、地球の人間にスキルを与える為にアスタルテはシムの代わりになるシステムを設置したのだ。
それがシムとケインの戦いの影響を受けて自我を獲得してしまったのだ。
実はアスタルテの口車に乗せられたルーナがこれに加担してしまっていたのだが、今の今までそのことを完全に忘れていたようだ。
「ふざけるな……貴様ぁ、このワタシがシムの劣化だと!?死ね!『破壊の剣』!」
シムと全く同じ見た目をしているだけに、何だか変な雰囲気である。
……が、実力は本物。
推定される平均ステータスは50万程だ。
神鈴木ならば余裕だが、元鈴木では……
「あ、そういうの良いから。パーンチ」
「ぶぐぇぇえ!!!!!」
全く問題なかったようである。
いくらスキルを全て捨てたとはいえ、元は神だ。ステータスは健在である。
それから地球版のシムが何度も土下座をした事で許されたそうだ。
その時、鈴木は地球にもスキルを繁栄させてみようと考えたらしく、地球版のシムはその手伝いの為鈴木とルーナについていく事になったらしいが、それはまた別のお話……
………………………………
………………
……
ジムダに戻ったエルナ達は祝福された。
国王含め、世界中の人から宇宙を守ってくれた事に感謝され、英雄どころでは無くなってしまった。
クリフとエルナは同居して、2人でひたすらに死者蘇生の方法を探している。
今の所それらしい手段は無いようだが、2人は諦めたりなどしていない。
それこそ何年も何十年も歳月を重ねて方法を探していくのだろう……
恭弥と田中と孝勇は少し惑星ジムダを観光した後にマレトに家に送り返してもらっていた。
どうやら、孝勇の『不死』のオリジナルスキルは進化したシムの『即死』と効果が打ち消しあった事により、消えてしまったようだ。
「これで普通の人生が送れる」
と言っていた孝勇は随分嬉しそうだったが、ケインにその事を言えないのだけが心残りだったらしい。
田中はその後東京に戻りたった1人の弟に会いに行ったらしいが、これもまた別の話である。
恭弥は……
「おい神宮寺!今日こそあの銀髪美少女の件について詳しく聞かせてもらうからな!」
「良い加減にしろ高橋!お前しつこいつってんだろうが!」
……いつもと変わらない日常に戻ったようである。
マレトはというと、また山奥に引き篭もると言って何処かへ行ってしまったらしい。
人見知りな彼がみんなと再会するのはいつになる事やら……
………………………………
………………
……
「お前名前なんて言ってたっけ?ジムだったか?」
「ダッセェ名前。しかも伝承に出てくる邪神とそっくりじゃん」
ここはエルディナ学園、ケイン達が在籍していた学校である。
違うのはケイン達の戦いから凡そ20年後の未来であるという事と、実力至上主義だった学園が、一部の貴族達が権力を傘に威張っているという事だ。
今も、1人の少年がとある公爵家の息子とその取り巻きにいじめられていた。
「か、返して……私の教科書」
「こいつ男のくせに私とか言ってるぜ!きもいんだよ」
「あははは、なあ?ジム。何でこの学校にいるんだよ。ここは英雄ケイン様を輩出した名門だ。お前みたいな平民はお呼びじゃねーんだよ」
主犯格の子が唾を吐きかけて煽る。
それに合わせるように周りの子も笑い出した。
「け、ケインだって……、平民の出だった」
「あ?何お前。口答えするの?」
「ひぃ!そういうわけじゃ……」
魔法を撃とうとしたいじめっ子を横から入った大柄な男が止めた。
「おい、それはそんな事のために使う物じゃ無い」
「あん?誰だテメェ」
「俺の名はガジスだ。そんな事はどうでも良い。1人に寄ってたかって何してる」
「ふん、こいつの家が貧乏だからいじめてやってただけさ。ガジス、反抗するならテメェも標的だぞ?」
「ならその前にお前を殴ろう」
「は!?意味わかんね!さっき人を殴るのに使うなって言ってたろうが!」
「そんな事は言ってねえよ。俺はお前を殴らなきゃいけねえと思ったから殴る」
「チッ、コイツうぜえ。おい、お前ら、袋だたきにすんぞ」
だが、ここで教師が通りかかったようで、慌てて駆け寄ってきた。
「おい!そこ!何してる!」
「やっべ!パウロ先生だ。早く逃げろ」
一目散に逃げる生徒達。
それを見てジムは一息ついた。
「おい、大丈夫か君?」
「あ、はい」
「いじめてた連中の名前分かるか?教育委員会に……」
「大丈夫です」
「大丈夫って君、明らかに今のはいじめじゃ……」
「本当に大丈夫です。自分で何とかするので」
「君がそう言うのなら構わんが本当に良いのか?」
「ええ……」
そう言ってガジスと共にジムは立ち去った。
「なあ、言われっぱなしで良いのか?ジム」
「……嫌に決まってるさ」
「なら反抗しろよ」
「無理だよ!私は……弱いから」
「……無理じゃねえよ。やりゃあできる。あの英雄ケインだって、周りからは絶対に魔王討伐なんて出来ねえって言われてたのにやっちまったんだからな」
「へー……詳しいね。そんな事授業でも習わないのに」
「そういや……どこで知ったんだ俺は?ま、いいや。そう言う事だからお前も頑張れよ」
「……うん、分かった」
ジムは完全に納得したわけでは無いが、拳を握りしめて頷いた。
きっと彼はこれから長い人生を歩み成長していくのであろうが……それもまた別の話である。
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