144 / 192
外伝17話 手
しおりを挟む「早くしなよ。僕は気が長く無い」
「デハミセヨウ……」
そう言って孝勇が取り出したのは魔法の杖。
「それは……」
「コレ、アスタルテ様カラモラッタ」
孝勇が持っている杖はケインの星でよく使われている魔法の杖だ。そのタイプはかつてケインが使っていた盾と同じく、魔力を込めることで予め設定された魔法が使えるというもの。
「それがどうした?ただの魔法で僕を倒すのは厳しいぞ」
「ワカッテイル……コレナラドウダ?」
孝勇は、杖に魔力を込め始めた。しかし、その魔力量が桁違い。明らかにケインより多い。
「……なるほど、お前の場合無限に再生するから魔力器官(魔力を貯蔵する体内器官)を破壊し続ければ魔力も無限ということか」
孝勇は、常に全身から魔力を吸い上げ、杖に送り続けている。身体は無茶な魔力放出に耐え切れず、魔力器官が破壊されるが孝勇の場合無限に再生するので、使った側から魔力も一緒に回復するということだ。
一見強そうに見えるこの戦法の弱点は、魔力のチャージにかなり時間が取られることだ。
その間無防備な姿を晒してしまうが、孝勇は不死者だから問題はそれでは無い。その間に杖を奪われないか?ということである。つまり、孝勇にとって、この戦いは杖を守れるか否かである。しかし、ケインは攻めてこない。
「ナゼ、セメナイ?」
「お前の全力を受けてみたい」
「……コウカイスルゾ」
「かもな」
ケインは久しぶりに気分が昂っていた。ソラとの戦闘の時も、『狂化』こそ使ったが、あれは戦闘を確実に終わらせるためであり、使わなくても勝てるには勝てたのだ。そういう意味では、ガルド戦以降、ケインは全力を出せていない。
(……いつからだろうか?自分がこんなにも戦闘狂になったのは)
ケインは疑問に思っている。元々こんな性格ではなかった気がするが、最近は何だか戦いそのものを楽しんでいる。特に、因縁の無い戦いは久しぶりで後草れなくできる事に喜んでいるのだ。
(多分……考えが変わったのはアイツのせいだろうな……)
その時、孝勇がチャージをやめた。これ以上は杖が持たないと判断したのだ。
「終わったか?」
「アア。カクニンスルが、良インダナ?」
「来い、止めてやる」
「……ファイヤブラスト!」
孝勇の杖から小さな炎が噴き出る。しかし、その大きさとは裏腹に、威力は桁違いだ。それを見たケインが、すぐに『狂化』を発動する。
「『狂化』、25%!」
剣を前に突き出して、構えた。
炎はケインの剣に真っ直ぐぶつかり、溶かし、貫通する。その一撃をケインが生身で受け止めて……爆発した。
「ハァッ……ハァッ……倒……シタ?」
そう思ったが、ケインは立ち上がる。
「危なかったよ。咄嗟に『狂化』を80%にまで引き上げた。もちろん制御出来ないからすぐに解除したが、焼き払われることは無かった」
「クソ……オレの負ケデイイ」
「何でだ?まだ僕はお前に傷ひとつ付けてねえぞ」
「ドノミチ、アレデ倒セヌノナラ、ゼッタイニ勝テナイ」
「でも、僕だってお前を殺す方法は思いつかないぜ?倒す方法ならあるけどな」
「?」
「例えば、お前を太陽の真ん中に連れて行く……とかだな」
それを聞いて孝勇はゾクッとした。
「な、な、ソレハヤメテ!死ナナイカラ!」
「だろうな、例え太陽に焼かれようがお前は死なない。だから、お互い倒せないし引き分けで良くね?」
「ダガ……オレはアノフタリニ……アスタルテ様ニ……」
「お前さ、無理やり付き合ってるだろ?分かるよそれくらい。人を殺したくないって態度が出てるもん」
「ソ、ソンナコト……」
「それと、その片言もやめて良いぞ。聞きにくいから」
「……気付いてたのか」
「いや、下手くそだもん。おおかた心が無いからって理由で理解力を乏しくして、人殺しが上手くいかない理由にしようとしてたんだろうが、多分あんま意味無いぞ」
「……でも、俺にはソラと圭吾が……」
「お前を見捨てて逃げたあの二人に……まだ固執するのか?」
「違う!……ただ、怖いんだ。報復が」
「なら尚更問題ねえよ。僕ですら殺せないお前をアイツら如きに倒せるか。安心しろ、僕が守ってやる」
ケインは手を差し出す。
「……あり…がとう」
差し出された手を、孝勇は受け取った。
0
お気に入りに追加
1,871
あなたにおすすめの小説

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

念動力ON!〜スキル授与の列に並び直したらスキル2個貰えた〜
ばふぉりん
ファンタジー
こんなスキルあったらなぁ〜?
あれ?このスキルって・・・えい〜できた
スキル授与の列で一つのスキルをもらったけど、列はまだ長いのでさいしょのすきるで後方の列に並び直したらそのまま・・・もう一個もらっちゃったよ。
いいの?

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

俺の畑は魔境じゃありませんので~Fランクスキル「手加減」を使ったら最強二人が押しかけてきた~
うみ
ファンタジー
「俺は畑を耕したいだけなんだ!」
冒険者稼業でお金をためて、いざ憧れの一軒家で畑を耕そうとしたらとんでもないことになった。
あれやこれやあって、最強の二人が俺の家に住み着くことになってしまったんだよ。
見た目こそ愛らしい少女と凛とした女の子なんだけど……人って強けりゃいいってもんじゃないんだ。
雑草を抜くのを手伝うといった魔族の少女は、
「いくよー。開け地獄の門。アルティメット・フレア」
と土地ごと灼熱の大地に変えようとしやがる。
一方で、女騎士も似たようなもんだ。
「オーバードライブマジック。全ての闇よ滅せ。ホーリースラッシュ」
こっちはこっちで何もかもを消滅させ更地に変えようとするし!
使えないと思っていたFランクスキル「手加減」で彼女達の力を相殺できるからいいものの……一歩間違えれば俺の農地(予定)は人外魔境になってしまう。
もう一度言う、俺は最強やら名誉なんかには一切興味がない。
ただ、畑を耕し、収穫したいだけなんだ!

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️

石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!
うどん五段
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。
皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。
この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。
召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。
確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!?
「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」
気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。
★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします!
★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる