上 下
102 / 192

第百八話 偽物

しおりを挟む

「ケインさん、依頼達成おめでとうございます」

そういうと、エクレア姉さんは僕に報酬を渡してくれる。しかし、この人もギルド長になったというのに何故未だに受付のような仕事をしているのだろうか?
疑問に思いながらも声にはせず、報酬を受け取る。

「ありがとうございます。これで欲しかった防具が買えそうですよ」

「ふふ…今のケインさんはとてもお金に困ってそうには見えませんがね。なんせ、四天王を2体も討伐されたのですから。それももう1年半前の話になりますか………それにしても、相変わらずスライム狩りが好きですね?ここ一年ずっとスライムばかり狩っているじゃないですか」

「…まぁ、良いじゃないですか」

「そうですね。どの依頼を受けるかは冒険者さんの自由ですし。……あっ!そういえばケインさん、明日で17歳になるんでしたっけ?早いものですね。私達が初めて会ったのはついこの間のことのように思っていましたが、もう5年も前の話なんですね」

「僕にとっては懐かしいですけどね」

「そうですか?あまり変わってないような……ああ、でもよく見れば髪の毛が伸びて女の子らしくなりましたね。初めて会った時は男の子だと勘違いしていました」

エルナ達と別れてから1年半が過ぎて、僕は強くなった。それと同時に髪の毛が伸びて、男の子と間違われることがなくなった。
この前なんか街でナンパされたくらいだ。
流石に断ったけど……

すると、会話の途中で新顔のギルド職員が呼び止める。

「ギルド長!すぐに来てください!こっちでトラブルが……」

「分かりました、すぐ行きます。ごめんなさいケインさん、ではまた今度」

そうして慌ただしく走っていく。そんな様子を見てなんだかんだ、エクレア姉さんは変わらないと思った……





………………………………
………………
……

日付が変わり、僕は17歳になる。
己の歳を一つ増やしたことと、1年間無事に生きられたことを喜ぶ。
そして、大事な事を思い出す。

「明日いよいよ再会だな」

エルナ達と別れて明日で丁度一年半。
約束した場所は少し大きめの街、トリアス
王子が我が儘の限りを尽くし、僕達3人がパーティーを追放されたあの場所だ。

待ち合わせ場所に行っても誰も居なかった。
まぁ、うっかり時間を決めていなかったから今日のいつ来るのか分からないけど………

いつまでも待っているわけにはいかないので、適当に昼飯を食べに飲食店に入る、すると、2人の客が話をしていた。

「なぁ、聞いたかよ!勇者パーティーがこの街に来ているらしいぜ」

「マジかよ!」

マジかよ、なんでバレた?

「え、でも勇者パーティーって、一年ほど前に行方不明になって音沙汰無いんだろ?しかも悪評しか聞かなかったじゃ無いか」

「その通りだ。けど今回勇者パーティーを名乗る4人組が現れたんだとよ」

「へぇ…俺も一眼でいいから見てみたいなぁ」

「冒険者ギルドにいるらしいから行ってみれば会えるかもしれないぜ?」

「ちょっと行ってくる」

そう言うと、2人の客は代金を置いて出て行った。

どういうことだ?まさかエレナの奴……僕達に内緒でもうパーティーを組んだのか?
それともクリフも一緒で僕だけ除け者に……
いや、2人に限ってそれは無いか。
でも、だとするとあの噂は何だったんだ?
気になるし冒険者ギルドに行ってみるか!


………………………………
………………
……

僕は冒険者ギルドに行くと、行列……と言うほどでも無いが、数人が列を作っている。
握手会のようなものをやっていた。
試しに並んでみよう。
最後尾に並んで30分ほどして、ようやく僕の番になった。
握手会をしていたのは、なんとあのリヒトだった。そして、周りには赤髪の女、銀髪の女、金髪の女がくっついている。
リヒトは僕に気づかない様子で笑いかけてくる。

「やあ!長い銀髪がとても似合う麗しい少女よ。はい、握手」

手を差し出されたので一応握手してやる。

「うーん……胸は無いけど……顔は良いし…スタイルも中々だ…何より髪が綺麗!よし、君は合格ね」

「は?」

「だから、君は合格。今夜このホテルの○○号室に来て。そこで可愛がってあげる」

何を言っているのか……
唖然としていると、取り巻きの女どもが偉そうに語ってくる。

「ちょっと貴方!先程から勇者パーティーリーダーのリヒト様に失礼ではないですか?この方は数年前に四天王を2体も倒したのですよ?今貴方が幸せに暮らせているのはリヒト様のおかげと言っても差し支えないのに……」

「そうですよ!私達勇者パーティーは四天王を2人も倒しているのです!」

なるほど合点がいった。
つまりリヒトは、勇者がいなくなった勇者パーティーを、一応は続けていたのだ。
もう邪魔者である僕達もいないから偽物を用意して好きなように楽しんでいたのか……
こんな握手会をして、囲む女を探していたって事は、まだまだ性根が腐っているな。

「プッ……ふふ、そうですね。勇者様とケイン様、ガルド様、クリフ様がいないとこの国はダメだったかもしれませんね」

「まったく、ようやく分かりましたか!分かったら素直に言う事を聞きなさい!」

僕の偽物らしき人が言う。
あまりに滑稽で笑えてくる。
というか、髪が伸びて、体型が変わったとはいえ、まさかまだ僕だと気付かないとは……
リヒトに真実を教えてあげようかと思ったが、エルナとクリフにも見せてやりたかったので、一応黙っておいた。
まぁ、後で粛清するけど。






しおりを挟む
感想 116

あなたにおすすめの小説

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!

酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。 スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ 個人差はあるが5〜8歳で開花する。 そのスキルによって今後の人生が決まる。 しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。 世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。 カイアスもスキルは開花しなかった。 しかし、それは気付いていないだけだった。 遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!! それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

処理中です...