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プロローグ
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「――いくよっ!」
少女の元気の良い声と共に、体育館にピンポン玉の心地よい音が鳴り響く。
フォア深くへのかなりの速球。
少女の打ち込んだ鋭い一撃は、手を伸ばしても届きそうにない。
だけどここで負けるわけにはいかない!
俺は体勢を崩されながらもなんとかボールを打ち返す。
「余裕、余裕♪」
だが彼女はにやっと笑うと、今度はバック深くに打ち込んだ。
球威はより増していて、今度は取れそうにない。
「くそっ!」
俺はボールが落ちていくのを見送るしかなかった。
「……ありがとうございました」
ゲームセット。俺の負けだ。
頭を軽く下げて、試合終了の挨拶。
そして悔しさをぶちまけるようにそのまま床に倒れこむ。
「ふぅー」
床の冷たさがなんとも気持ちいい。
運動して火照った体がゆっくりと冷めていくのを感じる。
ずっとこのままでもいいとすら思ってしまうほどだ。
だがそんな俺を見下ろす影が一つ。
ふと見上げるとそこには対戦相手だった少女が立っていた。
「もーまるでおじさんみたいだよ」
「いいだろ、別に」
呆れたような少女の声に適当に返しつつ、視線を彼女に向ける。黒髪ボブに学校ジャージ。少し地味な恰好だが学年一の美少女と呼ばれるだけあって、そんな姿ですら可愛いとすら思ってしまう。
彼女の名前は朝倉寧々《あさくらねね》。可愛くて卓球の上手い女の子。
そんな彼女はどうしても俺に卓球をやらせたいようで
「ほらほら早く起き上がって。もう一回やろうよ」
「嫌だよ、もう3試合もやっただろ」
「卓球は何試合でも面白いよ」
ドヤ顔でサムズアップ。
それに対し俺は無言で答えるがまだ諦めてはくれない。
「………ス、スポーツの春って言うでしょ?」
「いや、それ秋な」
どんな理由だよ。
というかそんなので俺がやるとでも思っているのか。
「た、卓球やるとモテるらしいよ」
「俺今まで彼女できたことないけど」
「……」
「おい、なんで黙る? そしてなんで哀れむような目で俺を見てるの?」
「と、とにかく卓球は面白いんだよ」
こいつ、今明らかに無視しやがった。
……まああれ以上は俺がつらいからいいけど。
俺が追及してこないことに安心したのか、そのままプレゼンは続く。
「ドライブとか決まると気持ちいいでしょ?」
「……さっきから全部見事に返されてるんですが」
「サ、サーブとかだって」
「全部強打されます」
「もーそんなの屁理屈だよ! そういう競技なんだから!」
確かに屁理屈だけど間違ったことは言っていない。
圧倒的実力差がある相手とやる方が理不尽ってもんだ。
だが俺が否定すればするほど朝倉はどんどん意固地になっていき、
「卓球っ! 卓球!」
ついには地団駄を踏むように踊りだしてしまった。
…………小学生かよ。
「もう帰るわ」
付き合いきれなくなった俺はそそくさとラケットを片付る。
よしもう終わり。早く帰ってゲームをしよう。
俺には戦場で活躍するという任務があるのだ。
だがウキウキで体育館を後にしようとした俺を朝倉は引き留め、
「………どうしても駄目?」
捨てられた子犬みたいにとても悲しそうな声で俺に問いかけてくる。
さらには上目遣いのよくばりセット付。
反則だ。こんなの断れるはずがない。
「わかった、わかったよ。もう1セットだけな」
「本当? やったぁ!」
さっきまでの様子から一変、朝倉は満面の笑みを見せる。
ほんといい性格してるよな、こいつ。
でもこれも今に始まったことじゃない。
思えばあの時からそうだった。
「ほらほら、やるよー。サーブはあげるからさ」
「はいはい、アリガトウ」
「うわーすごい棒読みー」
当たり前だ、サーブ権なんて貰っても嬉しくない。
だが軽口を交えるのとは裏腹にお互いにラケットをを構えていた。
結局俺も朝倉を笑えないないほどの卓球バカなのだ。
自分でも呆れつつ、トスを上げる。
――その最中、俺はふと思い返していた。
すべての始まりとなったあの日のことを。
少女の元気の良い声と共に、体育館にピンポン玉の心地よい音が鳴り響く。
フォア深くへのかなりの速球。
少女の打ち込んだ鋭い一撃は、手を伸ばしても届きそうにない。
だけどここで負けるわけにはいかない!
俺は体勢を崩されながらもなんとかボールを打ち返す。
「余裕、余裕♪」
だが彼女はにやっと笑うと、今度はバック深くに打ち込んだ。
球威はより増していて、今度は取れそうにない。
「くそっ!」
俺はボールが落ちていくのを見送るしかなかった。
「……ありがとうございました」
ゲームセット。俺の負けだ。
頭を軽く下げて、試合終了の挨拶。
そして悔しさをぶちまけるようにそのまま床に倒れこむ。
「ふぅー」
床の冷たさがなんとも気持ちいい。
運動して火照った体がゆっくりと冷めていくのを感じる。
ずっとこのままでもいいとすら思ってしまうほどだ。
だがそんな俺を見下ろす影が一つ。
ふと見上げるとそこには対戦相手だった少女が立っていた。
「もーまるでおじさんみたいだよ」
「いいだろ、別に」
呆れたような少女の声に適当に返しつつ、視線を彼女に向ける。黒髪ボブに学校ジャージ。少し地味な恰好だが学年一の美少女と呼ばれるだけあって、そんな姿ですら可愛いとすら思ってしまう。
彼女の名前は朝倉寧々《あさくらねね》。可愛くて卓球の上手い女の子。
そんな彼女はどうしても俺に卓球をやらせたいようで
「ほらほら早く起き上がって。もう一回やろうよ」
「嫌だよ、もう3試合もやっただろ」
「卓球は何試合でも面白いよ」
ドヤ顔でサムズアップ。
それに対し俺は無言で答えるがまだ諦めてはくれない。
「………ス、スポーツの春って言うでしょ?」
「いや、それ秋な」
どんな理由だよ。
というかそんなので俺がやるとでも思っているのか。
「た、卓球やるとモテるらしいよ」
「俺今まで彼女できたことないけど」
「……」
「おい、なんで黙る? そしてなんで哀れむような目で俺を見てるの?」
「と、とにかく卓球は面白いんだよ」
こいつ、今明らかに無視しやがった。
……まああれ以上は俺がつらいからいいけど。
俺が追及してこないことに安心したのか、そのままプレゼンは続く。
「ドライブとか決まると気持ちいいでしょ?」
「……さっきから全部見事に返されてるんですが」
「サ、サーブとかだって」
「全部強打されます」
「もーそんなの屁理屈だよ! そういう競技なんだから!」
確かに屁理屈だけど間違ったことは言っていない。
圧倒的実力差がある相手とやる方が理不尽ってもんだ。
だが俺が否定すればするほど朝倉はどんどん意固地になっていき、
「卓球っ! 卓球!」
ついには地団駄を踏むように踊りだしてしまった。
…………小学生かよ。
「もう帰るわ」
付き合いきれなくなった俺はそそくさとラケットを片付る。
よしもう終わり。早く帰ってゲームをしよう。
俺には戦場で活躍するという任務があるのだ。
だがウキウキで体育館を後にしようとした俺を朝倉は引き留め、
「………どうしても駄目?」
捨てられた子犬みたいにとても悲しそうな声で俺に問いかけてくる。
さらには上目遣いのよくばりセット付。
反則だ。こんなの断れるはずがない。
「わかった、わかったよ。もう1セットだけな」
「本当? やったぁ!」
さっきまでの様子から一変、朝倉は満面の笑みを見せる。
ほんといい性格してるよな、こいつ。
でもこれも今に始まったことじゃない。
思えばあの時からそうだった。
「ほらほら、やるよー。サーブはあげるからさ」
「はいはい、アリガトウ」
「うわーすごい棒読みー」
当たり前だ、サーブ権なんて貰っても嬉しくない。
だが軽口を交えるのとは裏腹にお互いにラケットをを構えていた。
結局俺も朝倉を笑えないないほどの卓球バカなのだ。
自分でも呆れつつ、トスを上げる。
――その最中、俺はふと思い返していた。
すべての始まりとなったあの日のことを。
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