死神はそこに立っている

阿々 亜

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第26話 審問

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 数分後、栄一郎と山本は、教授室にいた。
 彼らの前には東亜医科大学消化器外科教授の吉田三郎がいた。
 吉田は部屋の最奥に設えられたマホガニーのデスクに座っている。
 その傍らに2人、医局長の清水と病棟医長の川崎が立っていた。

「お二人共、お忙しいところすみませんねぇ」

 吉田教授はにこやかに微笑みながらそう切り出した。

「川崎先生、内容をお願いします」

 吉田教授は川崎病棟医長に話を振り、川崎病棟医長が話はじめた。

「山本、今、一条沙耶香さんという虫垂炎の患者を担当しているな?」

「ええ、明日の午前、手術予定です」

 山本はぶっきらぼうに答える。

「確か、その患者は手術を希望されず、抗菌薬治療の方針だったはず。手術するに至った経緯は?」

「今日、ご本人から手術の希望がありました。ご本人曰く、ネットで虫垂炎について調べていて考えが変わったと」

「その話には、嘘がある。彼女は自分でその判断をしていない」

「どういうことですか?」

 山本は怪訝な顔をする。

「間君、何か言うことはないか?」

 川崎病棟医長はじろりと栄一郎を睨んだ。

「何のことでしょう?」

 栄一郎は焦った。
 もしかして、自分が沙耶香を説得したことがバレているのかと。

「とぼけるか。情状酌量の余地はないな。間君、君が一条さんに手術を勧めたとき、隣の患者のベッドサイドで別の医師が診察中だったんだよ」

 栄一郎はすーっと血の気が引いた。

 全て、バレている……

「その医師は、君が彼女に話した内容を事細かに教えてくれた。君は、彼女にこのままだと死ぬと脅かして、手術に誘導したね?」

「違います!!脅かしてなんていません!!」

「このままだと死ぬ、というのは十分脅かしているよ。そうでなくても、患者に嘘の情報を与えて、治療方針を誘導するなど、医師としての基本的倫理に反している。君は医学部1年の基礎教養からやり直すべきだ」

「嘘の情報なんかじゃ……」

 栄一郎はそこで言葉に詰まった。
 栄一郎の根拠は全てあの死神の存在なのだ。
 死神の存在を科学的に証明でもしない限り、栄一郎が沙耶香に話した内容は医学的に何の根拠もない、大嘘ということになる。

 栄一郎は口をつぐむしかなかった……
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