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第5章 僕は20歳になった

5.5  僕の一家の現在

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 僕の一家の現在の状況について紹介したい。 まず、父の正(ただし)はWPC物理学の創始者として認められたことで、4年前に教授に昇格している。その後は、WPCが実用化されて、とりわけ地球温暖化の問題とエネルギー源の問題を解決の道筋をつけたということで、さらに2年前にノーベル賞を受賞した。

 だから50歳になった父は、世界の産業界を席捲しつつあるWPC活用の根拠となるWPC物理学の創始者として、さらにノーベル賞学者として、すでに世界的に名声が確立している。母さんは、酔うと僕ら家族の前だけだが、「ほら見なさい。私がお父さんに惚れ込んだだけのことがあったでしょう?」と言う。 

 だから、父は現在世界のWPC研究の中心であるT大WPC研究所の所長兼教授になっている。K大にもWPC研究所があるが、どちらかと言うと、T大は理論研究、K大は実用化に力を入れている。このWPCの活用はまさに世界の産業界を席捲しており、どんどん応用が進んではいる。

 そして、その中で小さな改善や改修が世界中で数多く考案されているが、抜本的に活用が異なる核反応の阻害や火薬の検出や発火、さらに水噴射のジェットへのWPCの利用などは大部分が日本発になっている。というより、大体は僕が主な開発の骨格の形成に絡んでいるのだが、できるだけT大とK大の研究所を表に立てている。

 これは、一つにはこれらの研究所で理論建てをきちんとやって、その後の改善・改修のガイドラインを作るためもある。そうでないと、WPCの回路に迂闊な改修をすると、その結果が破滅的な波及効果を及ぼしかねないのだ。実際に海外において回路の改修をやった結果、大爆発や大規模な事故を起こした例がある。

 僕は、時間的に開発したWPCの理論的確率を自分でやる余裕がなく、また得意でもないので、そのようなことに長けた人に任せることで楽をさせてもらっているのだ。とは言え、核反応の阻害や火薬の発火などについては現状では厳重な秘密保持の対象になっているので、理論的な裏付けは済んでいない。

 未だに父とラブラブの母の佐紀は、資本金30億円、売上年間1千億円、日本の製菓メーカー15位に位置するみどり野製菓の社長になっている。その売り上げの内半分は、“いのちの喜び”関連の売り上げであるが、みどり野製菓謹製のそれは、大部分を製造している日本製菓の製品をしのいで人気がある。

 “いのちの喜び”は、すでにその活力増強の医療効果は完全に立証されていて、日本のみならず世界で安定的に売れて、人々の心身の健康保持に貢献している。そのため、国が医薬品としての承認をすると言う話もあったが、開発者であるみどりの製菓の断固たる拒否であくまで菓子として売っている。

 現状では、日本で月間5億枚、日本以外の世界で40億枚の売り上げがあって、海外の半数の国では医薬品の指定がされて薬として売られている。その製造は、日本においてはみどりの製菓と、日本の大手の製菓会社が合同で設立した㈱日本製菓が独占しており、日本製菓は世界の10か国に工場を持っている。

 みどり野製菓は、あくまで特色ある地方企業というスタンスで、主として母の指揮の下に“いのちの喜び”の発売以降も様々な菓子を作り出し、これらも多かれ少なかれ健康増進効果があることもあり、根強い人気があって安定した売り上げを誇っている。

 また、みどりの製菓には“いのちの喜び”さらに他社に譲った健康増進効果のある様々な菓子製品の製造の権利料によって、莫大な収入がある。この収入が年間2千億円を超えていて、売り上げを大きく超えているほどで、会社の収入に繰り入れる額ではないため、公益法人“みどり野財団”を設立してその収入にしている。

 みどり野財団は、大規模な日本国内の育英制度を設立して、さらに海外の子供の教育と医療に携わっているNGO法人を大規模に援助している。これは、前社長であった母の父(つまり僕の祖父)である皆川健太郎の決断である。

「元々みどり野製菓は、明治に創立された田舎の菓子屋だったんだ。まあ、“いのちの喜び”を出すまでは細々とやっている地場産業の域をでない中小企業だった。そんなに利益も出ないが、人々に愛してもらえるような菓子を提供してきたが、娘の佐紀がいろいろ新製品を開発して少し上向きになってきたところだった。
 そこに、“いのちの喜び”を開発したんだ。それで、それがそんなものか判ってきたとき、俺も内心困ってしまったよ。なにしろ、只の菓子なんだけどそれを食えば、人が元気になってしまうんだ。これは日本だけでなく、世界にも途轍もなく売れることは確実だけど、みどり野製菓の身の丈に合っていないと思った。

 そして、社内にもこれを引っ提げて、わが社を世界的な企業にしてやると言う気概と見識を持ったものはいなかったな。まあ、中でも娘の佐紀が一番まともだったけど、佐紀も日本一になって世界に打って出ようという気はなかったな。だから、会社を安定して経営できるそれなりの規模にするところで留めることにした。
 それで、“いのちの喜び”については自社生産は現状の生産で止めて、それ以上の製造を他社に譲るという決定をしたわけだ。もっとも、まさか大手メーカーが連合して新会社をつくるとは思わなかったがね。
 結果的には、作られた日本菓子製造が世界一のメーカーになって、出資したメーカーが結構な配当を得て経営の安定に役立っているからまあ良かったんだろうな。

 また“いのちの喜び”の効果で、その頃それなりにあった『菓子が肥満の元であり、健康を害する』というイメージが無くなったのは大きかったな。わが社も、あの開発の後はノウハウを得て人の心身の健康に良い成分というものを掴んだので、その後に売る出した菓子はすべてロングセラーになったし、他社に製造の権利を譲って大いに売れているものも多い。
 お陰で、権利料が偉い勢いで入ってきたものだから、その処分に頭が痛いことになった。なにしろ、会社の売上より大きくなると会社の経理と切り離すしかなかった、だから、一般財団にして奨学金とかにつぎ込むことにした。前から、会社としては小額だけど奨学金に支出していたからそれを拡大した訳だな。

 だけど、ちょっと入って来る資金が大きすぎて、公的な育英会と重ならないようにすると使いきれないようになってきた。そこに海外の援助をやっているNGOから協力の要請があったりして、教育と医療にもお金をつぎ込んでいくようなった。そんなことでやっていると、無税の公益法人の話があったので今の形になったんだ。
 まあ、孫の修が“いのちの喜び”の話を持ってきて、それ以来の弾みがついてこんなことになってしまった訳だ。お陰で俺みたいなものが夢にも思っていなかった勲章までもらってね。まあ、俺も名誉なことと喜んだんだけど、娘婿の浅香正がノーベル賞の受賞だものなあ、桁が違うわい。

 会社は、娘が継いでいて全く問題ないし、浅香の家の長女のさつきも子供が出来て、大学の准教授になった旦那と仲良くやっているようだし、長男の修もT大とK大の主任研究員という肩書で偉く活躍しているようだ。こっちもまだ21歳で若いけど、付き合っているアジャーラとももう結婚すると言っている。
 彼女が大学を卒業するまで待つということだが、実際のところ殆ど一緒に住んでいるようなものだから、いい加減にせんといかんから、まあ若くから仕方がないわな」

 地元の新聞のインタビューでの、みどり野製菓の会長の職にある健太郎の話である。
 祖父の言う通り、姉の真中さつきは卒業後出産して、2歳の娘である“さやか”の母であるが、現在はK大のWPC工学研究所の研究員として働いている。やはり、判っている限りでWPS値が500を超えて、人類トップ10に入るWP能力者の彼女は研究所としては是非ほしいということだ。

 だから、真中家ではさやかの誕生以来ベビーシッターを雇っており、忙しい姉を補助して家庭で面倒を見てもらっている。さらに“さやか”は、姉の仕事中研究所に付設されている保育室に預けている。ここは保育士が配置されている研究所で働く幼児をもつ男女は仕事中に預けるためのものである。

 この職場でに保育所を設けるのは、女性の力をより社会に活用しようという政府の取り組みの一つである。これは、近年の統計でWPC能力の発現において、女性の方が発現後の効果及び、WPS値の伸びが高い傾向にあることが確かめられたことも一因である。

 つまり、企業や官庁における労働力において、女性の能力を使わないのは損であることがはっきりしてきた。だから、日本においては、一定規模以上の企業や官庁において保育室を設置することが法で義務付けられた。結果民営の保育所に比較的空きが出て、規模の小さい職場の人も預けられるようになっている。

 つまり、乳幼児も自分の働いている場所で面倒を見てもらえるから、ちょくちょく見に行けるし授乳も可能である。だから、女性は出産後も健康状態が回復次第働きに戻れる訳であり、彼女らの能力を十分に発揮できることになる。とは言え、姉のさつきの場合には、医療用のWPCの活性化ができるという特技があるために、一般的に言えば莫大な収入があるので、自宅用にベビーシッターを雇える。
 だが、普通の人はそうはいかないので、職場に保育室があると言っても子育てはそれなりに大変である。

 ちなみに、医療用WPCであるCR-WPCとIC-WPCについては、日本では僕と姉にアジャーラの3人、さらにインドで2人、中国で1人、ブラジルで1人の活性化できる人材が見つかって、現在では新しいWPCの製造が年間8千基を超えている。一方で世界での使用中のCR-WPCが2万基、IC-WPCが3万基である。

 そして、これらのWPCは大体2年毎に再活性化が必要であるために、数少ない活性化できる人材の能力を消費している。それを考慮しての、医療用WPCの新WPCの製造数が先の数値に留まっているということである。
 また、これらのWPCはよほどの大病院でない限り、1ヵ所で保有されることはなく、輸送体制を構築して使い回されており、日本国内ではCR-WPCが1800基、IC-WPCが2500基保有されて、ほぼ必要を満たしている。これらは、年平均の使用回数はCR-WPCが1250回、IC-WPCが1350回を数えている。

 そして、医療用のWPCについて、日本の場合にみられるほど他国では効率は良くないが、同様な輸送体制を整えることで、需要を満たそうとしている。だが、世界的に見ると緊急的に現状の倍程度は必要とされている。だから、僕、姉、アジャーラにはWPC活性化のノルマがあって、それを満たすことが義務になっている。

 僕らは起きている時間の1/3以下の時間を、この活性化に使っているので、中々このノルマは重い。とは言え、聞くところによると、インドと中国にブラジルの能力者は他のことは全くやらず、ほぼ一日中活性化を行っているということで、それに比べると僕らはまだ増しなのかな。

 でも、僕らがそれに係り切りになっていたら、WPCの産業利用も出来なかった訳だし、そのおかげで温室効果ガスの大幅削減に目途がついたのだから、結果は良かったのじゃないかな。それに、WPCの活用は少なくとも日本の産業を活性化して景気停滞の歯止めをかけて閉塞感を無くしたと思っているよ。

 でも、他のことをやる暇があったら、医療用WPCをもっと作れという意見もあるし、僕にそういうメールを送りつけてくる連中もいるよ。だけど、僕は割り切っている。医療用WPCは確かに大事で、そのおかげでそれが無ければ死んでいた人が元気に活躍している一方で、それの数が十分無いために死ぬ人もいるよ。

 だけど、それが解決されるのも時間の問題なんだ。そして、もっと大事なことを僕はやっていると思っている。だから、そういう意見はシャットアウトして、僕は自分がやるべきと思うことやるんだ。
 ところで、姉の旦那の真一郎は、大学院の博士課程を終えると共に博士号をとって、K大の助手から講師を経て、WPC工学研究所の准教授になっている。

 彼は、WPCの熱利用の実用化にずっと取り組んでいる。彼が中心になって生み出したWPCを使った熱利用システムは、世界の各家庭、事業所等必須のエアコン・システムになっており、今や大部分の建物に導入されている。これは、基本的に熱を電力に転換する、または逆に転換することで温度を下げまたは上げるものである。

 特に冷房部分では電力を生み出すので、日本では夏にはエネルギーを生み出すものの、冬は電力を消費するが、常に暑い熱帯地方において常時電力を発生する。それに、産業において金属の精錬、煮炊きなど大量の排熱が発生する場合においても、熱を吸収して電力を発生する。熱帯においては、貧しい国が多いが、生活する上では不快な暑さが資源になることになる訳だ。

 真中が、シンガポールの学会でこのエアコン・システムの発表を行って、このことを説いた時には、出席した周辺国々のエンジニアから大喝采が上がったものだ。WPCエアコン・システムは、東南アジア、南アジア、中東、アフリカ、中南米と熱帯・亜熱帯を中心に驚くべき早さで普及が進んだ。

 なにしろ、冷房をすることによって電力を生み出すのであるから、動力費不要どころか、電力を生み出すのだ。だから、必要なWPC設備を設置すれば、照明などの様々な用途の電力源に使える。そのため、通常の冷房のように電力費の削減のための建物の断熱もさほど考慮する必要はない。

 むろん、その場合には冷房能力つまり必要な電力への変換能力が大きくなって、WPCシステムの規模が大きくなるが、このシステムは通常に冷房装置に比べると極めて設備は単純で費用も安い。それに、処理する熱量が大きいということは、より大きい電力が得られるのであるから、電力需要があるのなら必要な設備に大きな投資する値打ちは十分ある。

 その普及の余りの勢いに、そのことで地球の寒冷化を招くのではないかと言う意見を言う者が出てきた。そのことに懸念したK大の提案で、日本政府が費用を出して全地球規模のシミュレーションが行われた。
 その結果は、温室効果ガスによる気象変動を緩める効果があるので、今後20年においては現在計画されている程度のシステムの普及はむしろ有益であるということになった。すなわち、現在のWPC方式発電の進捗による温室効果ガスの大幅削減によっても、温室効果ガスの濃度低下には数十年を要する。

 だから、現在の温室効果ガスの濃度によって頻発している暴風雨や旱魃、多雨などは当分続くことになるが、熱帯でのWPCエアコン・システムによる熱吸収はそれを緩和するというのだ。この結果は、結果に気をもんでいた真中を喜ばせた。

 それは、一つには彼の開発したシステムの普及に先進国の融資を必要としていたが、過剰な冷却を恐れた世論もあって融資が滞り始めていたのだ。その点で、今回のシミュレーション結果はお墨付きを与えることになったのだ。
 そういうことで、熱帯や亜熱帯ではどこにでも、WPC方式のエアコンシムテムがつけられることになって、それらが地域発電システムの役割を果たすようになっている。真中はその開発の権利を大学に渡しているが、大学のルールでその権利料の一定割合を開発者として受け取っている。

 割合としてはわずかなものであるが、なにしろ全世界のシステムへの投資額が莫大であるために、真中個人で受け取る額は年間2千万円を超えている。妻のゆかりの収入は、医療用を含めWPCの活性化の手当としてその3倍ほどもあるので、彼らの家庭は極めて豊かであると言えよう。

 なお、真中はエアコン・システムの延長で、様々な工場などの余熱の活用システムを実用化しており、産業界において広く知られる人材になってきている。彼の研究室の学生は実務的な研究に興味を持つ者が揃っており、数々のシステムの実用化を手掛けて、企業にとっては垂涎の人材が育つ。

 だから、彼の熱活用研究室は院生には大人気では、現在でも15人が在籍している。さらには、実際の開発の実務を実施するのは、研究室と提携している海外を含めて8企業であって、実質的には院生のほかに研究者のみで30人以上の研究者が常時真中の指揮下にある。従って、彼は常時忙しいということになる。
 まあ家族についてはそのような具合かな。
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