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第14章 異世界との交流が始まった地球文明

14.12 ハヤト、ミモザラ共和国に乗り込む3

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 キャンプ女史の言葉に、しかし独裁者ミザムは「フン!」と鼻を鳴らして言い返す。
「お前らのような軟弱な連中にそのようなことが出来る訳もない。それに、そのような攻撃をした場合には、ここのミモザラ人の連中にも大きな被害が出るぞ」

「その通り、サーダルタ帝国は、あなた方の被支配者であるミモザラ人などの被害が大きくなることを恐れて、あなた方を見逃してきた。彼らも、唾棄すべきあなた方ノメラを滅ぼすことはメンタリティ的にも、軍事的にも可能でした。
 しかし、彼らはあなた方がこの首都でこそノメラ居住区を集中しているものの、他の都市はあえて住宅地をミモザラ人と入り混ぜているため、あなた方の過酷な施政に耐えている可哀そうな被支配種族に大被害を及ぼすことから、あえて放置していたのです。

 我々地球について言えば、我々に被害が及ぶ場合には容赦なく反撃はしますが,今や無力なあなた方ノメラ人を滅ぼすようなことはしたくはありません。そして、あなた方が我が地球に害を及ぼすことはできないでしょうから、あなた方への対処の方針はザラムム帝国にお任せし、それに我々は協力します」

 キャンプ女史はザラムム帝国側のミモザラ作戦の責任者であるジクラ少将を見る。彼は頷いて話し始める。
「私は、皇帝陛下もご臨席の上で話し合い、君たちノメラについて現状の分析と今後の概ねの方針を定めた。まず、すでにミモザラ共和国、実質的には君たちノメラは、地球の協力がある限り当面我々の脅威なり得ないということだ」
 この言葉に、ミザムは悔し気に顔をゆがめるが反論できない。

「とは言え、君たちを放置はできないという点は直ぐに全員の意見が一致した。サーダルタ帝国が取り扱い兼ねて放置した結果が、今回のジェラムス市での惨劇に繋がったことは全員の意見が一致した。
 また、この度のジェラムス市のことに、我がザラムム帝国の国民すべてが深く怒っている。君らの兵士は侵攻後、本質的には我々を脅すという目的のみで、大部分が非戦闘員の市民を3862人殺戮した。多くは、お前たちの兵士の遊び半分での、それも刃物による殺人だったために苦しみながら死んだ。
 しかも、お前たちは多数の市民を人質にとるという、軍にあるまじき卑怯な行動をして、少しでも反抗したものを躊躇いなく殺した」

「フン、それの何が悪い。我々も兵力がお前たちに勝っていれば、非戦闘員の殺人や、人質などの作戦は取らなかった。戦術的、論理的に最も効率の良い方法を取ったのみだ」
 ジクラ少将の言葉にミザムが顔をゆがめて吐き捨てる。

「元々、君らの今回の作戦は無謀で成功の望みはないものだった。それは地球の戦力や技術、さらには今回活躍頂いたハヤト氏の存在を知らなかったから無理もないがね。しかし、地球の援助無くしても我々は君らを最終的にはたたき出せたことは間違いない。
 但し、それまでの犠牲は大きいものであっただろうがね。その意味で、地球の協力のお陰で、最小限の犠牲でお前たちの侵略は跳ね返すことができた。この点は改めて地球からの援軍の皆さんに感謝したい」

 ジクラは続けて言い、地球側の出席者さらにハヤトよジェジャートに一礼する。
「さて、我々は今回の出来事で、ミモザラ共和国を支配するノメラが、このように無謀で成功の望みが小さくても、我々にとって大きな犠牲を強いる試みをすることを悟った。だから、この危険は取り除く必要がある。
 従って、ノメラの支配するミモザラ共和国の政治体制は破壊することになるが、残念ながら共和国の多数派のミモザラ人などに統治能力はない。だから、わが帝国はこのジムカク世界全体を統治範囲に含めることにした。

 その統治の一環で、ノメラを除き、それ以外のミモザラ人などに帝国の一員としての自分たちの落ち着きどころを見つけてもらうことになる。この点は、地球側とも協議の上の決断だ。
 さて、この場合のノメラの諸君の扱いだが、2つの意見が出た。
 一つは、ノメラ人を一人残らず抹殺することだ。この方法は我々にも一つの民族を抹殺するという嫌悪感があるし、支配下にあるミモザラ人などの犠牲も避けられない。しかし、ノメラの脅威を取り除くという意味では最も確実な方法だ」

 その言葉に、女性副大統領のサシラムが立ち上がり、顔を真っ赤にして目を吊り上げて叫び始める。
「なにを言うか。全てを統治するべく運命つけられた選民たる我々を抹殺するだと。許さん!この劣等民族がつけあがりおって!」

 そう叫び、椅子から立ち上がり、正面の椅子に座った小柄なジクラに飛び掛かろうとする。だが、後ろにいたジェジャートがあっさり上着を掴み引き戻しながら、首筋に手刀を叩き込むと、椅子にぐったり倒れ込む。掌を挙げて合図して笑うジェジャートに、手首を返して掌を見せることで応じてジクラが言葉を続ける。

「もう一つは、ミモザラ大陸からレガシピ大陸方面に、500kmほど離れたところに4つの大きな島がある。そこは、狂暴な動物も多いこともあって、住民はいない。だから、ノメラをそこに移住させるという方法だ。
 そして、その場合はノメラが島外にでること、さらに出ることのできる技術は禁じるしかない。ただ、その場合はそこに定着するまでの食料生産等の援助はなかなかシャレにならないし、反抗的なノメラを移住させることも大変な作業だ。

 何よりの問題は、ノメラは転移ゲートを実用化した実績がある。だから、そうした方法で外にまた出ることのできる可能性が高い。また、このようにノメラ人のみを集めて厳しい環境に送り込んだ場合に、我々帝国のみならず、外の世界への敵意をさらに膨らませる結果に繋がりかねない。
 この場合、元々強靭な体力と精神力のノメラ人がよりパワーアップして、外の世界への厄介の種を育てることになりかねない。だからこの方法は危険すぎると否定された。

 無論、最も望ましい方法はノメラ自身が変わることだ。ミモザラ人とも支配者でなく仲良く、我々帝国人とも仲良く協力できるようになれば、このような手段はとる必要がない。しかし先ほどの女性副大統領の態度を見る限り、それは無理だと思う。
 この点は、彼らの居住区に短時間とは言え、行かれたハヤト氏はどう思われますか?」

「うーん。そうですね、無理でしょう。私はラーナラ異世界で魔族という種族の魔王を退治、まあ殺しましましたが、その魔族がノメラに似ています。選民思想に染まっていて、他の民族の命など何も思っていませんでした。
 そして、彼らに対しては人より強くて人の中でも特別な人しか抵抗できませんでした。魔族の方がノメラよりはかなり強いのですが、ラーナラの人はここの人より魔力が高くて強かったですから、同じような状況でした。
 その経験と、私がミモザラ共和国に乗り込んでノメラ人の魔力と雰囲気を感じる限り、彼らを変えるのは難しいでしょう。また、彼ら自ら変わるのもまあ無理でしょう。

どうだ、ノメラの最高権力者として、ミザム。ノメラ人が生き延びていく術は、お前らが変わっていくしかないぞ。変わるというのは、他の人種に交じって、働いて自分で食料も作り、普通に働く必要がある。人を虐げてはならんし、無論殺してもならんし、人のものを奪ってはならん。どうだ、お前は人々を率いて変わっていくつもりはあるか?」

 ハヤトは話の最後に、ハヤトの方を向いて椅子に座っている独裁者に聞く。
「あ、ああ。わしも少なくとも現時点では前らには敵わないことは理解した。そして、指導者として我が民が滅びるのを許容できるわけもない。また、敗れた我々がザラムム帝国の支配下に入ることはやむを得ないことも認める。しかし、我々は基本的には今のままに住んで、ミモザラ人とも協力して帝国の統治を受けることにしたい。我々ノメラ人は兵士としては優秀だから、帝国に貢献できると思うが」
 
 その言葉に、ミザムの様子をしっかり見ていたハヤトが数瞬して口を開く。
「嘘ですね。こいつの心は怒りで包まれています。どうやってこの状況を打破するか、それしか考えていません。協力などさらさらする気はないですね」

 ハヤトの言葉に、ミザムは目をカッと見開いて、数瞬で魔力を練り上げ「燃えあげれ火よ!弾けろ!」手でその方を指しながらそう叫び、出席者に向けて火魔法を放つ。

 しかし、ハヤトは油断なく魔力の動きを監視しており、ミザムが火魔法を放った時はすでに魔法をはなつ準備を終えていた。それは空間魔法の一種で空間スクリーンであり、3m程度の直径のそれが展開すれば、それに当たった如何なるものも異世界に飛ばされるのだ。

 だから、ミザムの火魔法は全く被害なく異世界に吸い込まれた。ハヤトは続いて、ミザムを精神的に殴りつけ、その結果殆ど気死した彼を精神で更に押さえつける。ハヤトの100%の威圧だ。
 続いて、気絶から覚めつつあるサシラムにも同じ処置をする。

「今、私が彼らは2人に威圧をかけて、精神的に極めて弱った状態にしました。この状態は少なくとも5日程度は続きます。彼らは、当分監禁状態にするしかないと思いますが、彼らは閉じ込めるのは困難です。つまり、私が彼らにしたようなことが普通の人には出来ますから、看守を操って逃げ出す恐れもありますからね。
 だから、この措置はどちらにしても必要だったのです。それから、この状態でしたら、聞いたことには正直に答えますよ。聞いてみますか」

 ハヤトの説明にジクラ少将が頷いて、聞き始める。彼は後に皇帝以下に今日の状況を説明しなけばならないのだ。
「ではミザム、貴殿はこの後自分の宮殿に帰れたらどうするつもりだ?」
「うー、まず、侵入を許した警備隊長を処刑する。それから、民を非常態勢において、敵が攻撃しようとしても、ミモザラ人などの卑民共の大きな被害なしには実行できないようにする」

「しかし、ハヤト氏は転移で現れたはずだから、警備隊長は何ともできなかっただろう?」
「そうかもしれんが、失態であったことは事実だ。その責任者が責任を取るのは当然だ」
「ふむ、では民を非常態勢に置くとはどういうことだ?」

「あらかじめ決められているように、ノメラの民が卑民に常時取り囲まれるようにするのだ。仮に空から爆撃された場合、無論ノメラにも犠牲は出るが卑民の被害の方が大きい」
 その答えに、ジクラはしばらく言葉が詰まるが質問を続ける。

「では、私が話をしたように、お前たちノメラを島に隔離する方法についてどう思うか?」
「思う?思うとは?」
 どうも思うという言葉には反応できないようだ。
「言い換えよう。島に隔離する場合にはお前たちはどうするか?」

「徹底的に抵抗する。だから、帝国から申し入れがあっても決して応じない」
「それでも、強制的に島に移されたらどうする?」
「百年かかっても、千年かかっても我がノメラはその力を磨いて必ず抜け出し、閉じ込めた奴らに復讐する」

「他の民族と仲良く協力することはできないか?」
「優れた我らは、選ばれた民族だ。我らは他を支配する存在である。他の軟弱な連中のように他となれ合うことはしない」この答えにジクラ少将は少し考えて、今度は質問の矛先を変えた。
「では、サシラム、貴女に問う。他の民族と仲良く協力することはできないか?」

「我々は優れた民族で、全員が日々その能力を磨きあげている。それが支配者たる資格であるからである。他の民族な我らに支配されるべき存在である」
「他の民族をいたわることはできないのか?」

「支配される卑民は我々に仕えるべき存在であり、あまり数が減るのは困るが、生きて我々のために働いていればいい存在である。甘い顔をしてはならん」
 ジクラ少将は天を仰いで肩をすくめる。
「では?」キャンプ女史がジクラ少将に尋ね、少将は憂鬱そうに答える。

「ええ、これはどうしようもないですね。ただ、この作戦はわが帝国の責任において、我々の手で行います。出来ればこの方法はとりたくはなかったのですが」
「それで、この2人はどうしますか?」

 再度キャンプ女史の質問だ。
「処刑します。作戦終了後に、ジェラムス市での惨劇の責任を取ってもらいます」
 作戦の具体的内容はノメラの指導者の居る所ではしゃべらなかったが、その方法は結局ジェラムス市の人質解放に使われた方法と同じような方法だ。

 つまり、催眠ガスを散布してその地区の人々を眠らせて、ノメラは殺すという方法である。死体の処分は、目覚めた被支配民族の人々に任せることができるので、大量のガスの準備と重力エンジン機があれば比較的容易に実行できる。だが、殺人の対象には子供もいる訳で、作業に当たったザラムム帝国の人々には精神的にくるものがあった。

 その点で、医学が発達しているザラムム帝国は、作戦に従事した要員その間の感受性をマヒさせる薬を処方して作戦を実施している。作戦が終了したのは、1年半後であり、その間状況を察知したノメラから何度も反攻があったが帝国側の損害は殆どなしに済ませている。

 一方、被支配民族からは1万人を越える死者を出しているものの、これはやむを得ない損害として許容された。とは言え、この作戦の終了をもって、ノメラの指導者2人も処刑され、またジムカクは全惑星がザラムム帝国の版図となり、地球とも盛んに交易をおこなうこととなった。


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