119 / 179
第12章 異世界へ潜入
12.8 マダン政府との接触
しおりを挟む
ハヤトとその直卒隊の救出すべきパイロットはあと4人である。ハヤトに面識があって7番の番号を付けられた瀬川少尉の他に8、11、14番がすでにサーダルタ側に捕らえられている。瀬川少尉は、どうやら現地の者と共に行動しているようだと考えられている。
ハヤトは、現地人と一緒に行動している瀬川ついて、本人の感情を捉えてみても当面危険はないと考えた。だから、捕らえられている3人の状態を慎重に探った。その結果、日本人の西谷少尉が独房の中に閉じ込められている状態、イギリス人のマッカトニー中尉が車に乗せられて移送されている状態であり、アメリカ人のキース大尉が尋問というか、拷問を受けている状態である。
もちろんキース大尉の状態が、最も緊急を要することは間違いないが、彼の状態はサーダルタの官憲が大勢いる大きなビル内の1室で、その尋問官がねちねち体を痛めつけながら心を読もうというところだ。結局、精神を折って容易に読心の魔法で情報を搾り取ろうという訳だ。しかも、尋問されているその部屋は狭く、とても大人数はジャンプしては行けない。
いずれにせよ、この状態を知った以上はキース大尉が一番だ。幸い部屋にいる3人の尋問官はもっている銃器としては拳銃程度だ。ハヤトは、この場合は接近戦になるので剣を使う彼が適任だろうとして、今回も連れていく隊員はヤフワ・ジェジャートにした。
「ヤフワ、行くぞ!」」
ハヤトは、指示通り剣に手を掛けている彼を見て声をかけ、「おお!」返すのを聞いてその尋問室のテーブルの上に出現した。
出現したそこには、茶髪の白人が椅子に手錠で固定され、上半身裸のあちこちに取り付けられた多数の電極様のものに繋がる電線とそれに繋がるボックスが目に付く。そのボックスのダイヤルらしき円形の突起に手を掛けているサーダルタ人が、呆けた目で突然目の前に現れた2人を見ている。
まさに、電流を流して拷問をしているところだ。ヤフワは驚いて目を見開く男の尋問官の正面で机の上で膝をつき、その勢いで長大な日本刀を抜刀して、その男の首とその横の女の首をまとめて切り裂く。一方のハヤトは、空間移動のジャンプを行った直後はとっさには魔法は使えないので、腰にさした刃渡り75cmの日本刀で、正面で目を見開いている男の頭を唐竹割りにする。
椅子に縛られた、金髪青い目のキース大尉は、いきなり2つの首が血と共に飛び、続いてかつんという音と共に顔が2つ割にされる惨劇にもぼんやりと目を半ば開くだけだった。しかし、流石に彼も少しは意識がはっきりしたようで、頭を振って何かしゃべろうとした。しかし、ハヤトが口に1本指をあて黙るようにとの仕草を理解して黙る。
どうやら、騒がしい建物の中で、外では尋問室の惨劇は判らなかったようだ。ハヤトは膝をついた姿勢のまま、その間にも血の滴る刀を拭き鞘に収めながら“ありあけ”の艦内に照準を合わせ、やがてキースに向かって言う。
「帰るぞ!」
その声にキースが目を輝かせるのを見て、ヤフワにも目をやって頷き、次の瞬間にはいつもの医療前室だ。キースは手錠で繋がれた椅子毎ジャンプをしている。
ハヤトは次には独房の西谷少尉が現状では誰にも監視されていないのを確認して、その部屋にヤフワを連れてジャンプし、何事もなく連れて帰る。車で移動中のマッカトニーはいささか面倒だった。走行中の狭い車内にジャンプは無理であり、どう考えても止まるのを待つしかないと、ハヤトはくつろぎながら待つ。
やがて、トイレ休憩だろう、運転手一人護衛2人と共にマッカトニーが乗ったその車は小さなビルの前に止まる。護衛2人は小銃に拳銃、運転手は拳銃を持っている。現地では深夜のその時間、ビルには人影はない。ハヤトは、影山中尉と石田1曹にもう一人の隊員に、銃をすぐに撃てるように準備を命令してジャンプする。
そこでは、マッカトニーがトイレに入って護衛の一人がそのドアの前、もう一人が車のそば、運転手が運転席の状態であった。ハヤトとヤフワは彼らの背後にジャンプする。ビル付属の街灯で辺りを照らして比較的明るい中で出現の一瞬後、3人の日本人兵士は、それぞれ目配せで相手を特定して電磁銃を撃つ。
ズバ!という独特な3つの音が殆ど同時に聞こえ、普通のライフルの3倍の弾速のその弾は、大部分の運動量を持ったまま的になった体を突き抜ける。しかし、それでも大きな運動量を体に与えることになり、3つの体はばったり倒れる。
「マッカトニー中尉、助けに来た。帰るぞ!」
ハヤトが英語で声をかけると、バタンとドアが開いて、茶色の髪の中背の士官の顔が覗く。ハヤトの姿を確認した彼は破顔して駆け出して、駆け寄り握手を求める。
「いやあ、来てもらえるとは信じていたんだけどね。捕まって護送されていたので心配だった」
笑顔を見せ握手に応じて手を握りながら、「良かったよ。では帰るぞ!」そう言って銃を持った3人を見渡して声をかける。皆が周りに集まったのを確認して、ハヤトが“ありあけ”の艦内に意識を定めてジャンプ!また、いつもの医療前室だ。
「ふう。いささか疲れた。少し休もう」
そう言って肩を落とすハヤトに、声をかける士官がいる。偵察隊参謀長のジョン・ブレイン少将で、横に法務・渉外担当のナザレ・イスマール中佐が付き添っている。
「疲れているところを申しわけないが、少しいいかな」
「ええ、最後の瀬川少尉は今のところ危険性はないようですから。私も少し休んでいきます。それで、話は?」
ハヤトがそう言うと、ブレインは「カフェテリアで」と言って先導する。
「多分、2~3時間後にまた最後のミッションだ。それまで休んでくれ」
ハヤトは部屋にいる直卒隊に声をかけて、カフェテリアに向かう2人についていく。カファテリアの座り心地の良い椅子に落ち着いた3人は、コーヒーを頼みブレインがそれをすすりながら口を開く。
「ハヤト君、パイロットの救出ミッションは本当にありがとう。君がいなければ救出を諦めなけらばならないところだった。とりわけキース大尉が拷問をされていただけに、放っておけば皆同じように扱われただろう」
「いや、いや。私がそれをできる能力を持っている以上は、実行するのは当然のことですよ。ところで、先の会議で話題になっていた戦闘機の収容の話はどうなりましたか?」
「ああ、あれはこの“ありあけ”と“むつ”については収容を開始している。あの2隻は、あらかじめそういうことを想定した設備と一応のマニュアルもできていたからね。残りの2隻も設備そのものはあるから、“ありあけ”から手続きのマニュアルを送っているので、収納の訓練をしているところだ。多分あと2~3時間もすれば収容を開始できるだろう」
ブレインはそう答え、再度口を開く。
「それで、このマダン現地のことだが、いま瀬川少尉が現地人と一緒に行動しているらしいね。それを幸いに現地と何とか接触を取りたいのだ。サーダルタ人については君が捕虜を取ってくれたので、君の手が空けば彼の尋問はできるだろう。
このマダンを経由するサーダルタ帝国の侵攻を防ぐには、何と言っても彼らの政府に接触して、彼らに自衛してもらいたいのだ。その意味では、瀬川少尉の現地の人との接触は意義深いものがある。その相手が有力者などという可能性はないだろうがね。それでも、何とか現地政府への伝手を探せないかと思っているのだ」
「そうでしょうね。私もそれを考えていたので、瀬川君の救出は却って急がない方がいいのではと思っています。数時間前には車に乗っていたのですが、今は部屋の中で数人と話をしているようですね。だから、コミュニケーションは取れているようです。パイロットは、サーダルタ語の自動翻訳翻訳音声ソフトを持っていますから、サーダルタ語でのやり取りでしょうね」
ハヤトはそのように言うが、彼も瀬川がガリヤーク機などに追われたいた時点では自分が忙しく、瀬川の様子を追っていない。今度はイスマール中佐が話をする。
「実は、こちらが一旦膠着状況になったので、アンタレスを地球に戻らせて、地球同盟本部との連絡を取ったのです。それで、今の我が隊の置かれている現状を説明したのですが、同盟本部の臨時総裁をはじめとする幹部から、この偵察隊の現状の方針は暫定的に承認されました。
その方針は、ハヤト君がいない時の会議で話し合われたのですが、サーダルタ帝国のガリヤーク母艦を破壊することで、彼らの異世界を渡る能力を奪おうとすることです。しかし、条件がありまして、地元の住民及びその財産にできるだけ被害のないようにということです。
また、地球側でもガリヤーク機が大量に配備されている世界を、限られた数のしでん等の戦闘機で制空権を取るのは難しいということは認識されております。そこで、こちらの地上に基地を設けられれば、母艦で異世界への門を開いた状態でその脇を戦闘機にすり抜けさせるという方法で、大量にそれを持ってくることができます。
いずれにせよ、このマダンの地元の政府なり、何らかの指導的立場の組織と接触したいのです。また、そのように交渉する件は、地元民への被害を最大限避けるという条件で、本部の了解をとっています。
それで、話を伺うと一応瀬川少尉の置かれている状態に危険はないようですから、私も一緒に転移させて頂きたいのです。瀬川君が会っている相手がどのような立場の人か判りませんが、少なくとも影響力のある人に紹介を頼むことはできるでしょう」
ハヤトはイスマール中佐の言葉に頷く。
「いいでしょう。たぶん大きな危険はないと思いますので、ヤフワと中佐を連れて行きます。ところで、中佐のサーダルタ語は?」
「ええ、いずれ必要になると思って、促成学習で身に着けています。私に翻訳機は要りません」
イスマールはそう言うが、特に語学について促成学習で直接脳に流し込むという方法で、ものの1週間足らずで一つの言語体系を見に着けることができる。
しかし、この方法は魔力を使ったものでサーダルタ帝国の技術であり、通常は魔力の強いものにしか使えない。しかし、魔力の比較的弱いものでも魔力増幅器を使うことで使用が可能である。イスマールはその点で濃い肌色と名前からアラブ系のようなので、白人より有利で問題なく使えたのだろう。
「なるほど、それは頼もしい。私とヤフワは翻訳機をもっていきます。ところで、偵察隊の今後の行動予定の大枠を聞いておきたい。よろしいですか?」
ハヤトの言葉に、ブレイン参謀長が答える。
それは、基本はガリヤーク母艦を無力化することを優先して、続いて1万機以上あるガリヤーク機は上空からレールガンの精密射撃で破壊していく。ガリヤーク機を半分程度に減らした段階で、“ありあけ”型とギャラクシー型母艦によってゲートを形成して、地球から侵入させる概ね5千機の“しでん”とスターダスト戦闘機で一気に残ったガリヤーク機を殲滅する。
そういう、力づくの作戦であるが、5千機の戦闘機を再度地球の基地に戻すことは難しいので、これらの戦闘機のための地上基地がどうしても必要である。この作戦を実行しようとすると、地元の被害を最小化するため、さらに基地の確保のために、地元の政府との接触が必要である。
地球でサーダルタ人の尋問から得た情報によると、このマダンのサーダルタ人の配備は最小限のとどめているために、マダン人の政府もある程度の機能は備えているということである。それが実際はどの程度かは接触して見ないとわからない。
語らいながらテーブルを囲んで、朝食後にお茶のような飲み物を飲んでいるミスラム・イマリルーナル夫妻、ミーナリア、それに瀬川と執事の5人は突然風圧を感じてその源に目をやり、3人の男が現れたのそれぞれ違った反応を示した。
イマリルーナル夫妻とミーナリアは驚き目を丸くしたが、執事はさっと椅子から立ち上がり、最も物騒に見える黒い巨人に向けて構えて懐に手をやる。瀬川はそれを横目に見て破顔し、「ハヤトさん。来ていただけましたか。ありがとうございます」大きな声でそのように言って立ち上がる。
さらに瀬川は殺気を放っている執事にも言い聞かせるように、イマリルーナル夫妻とミーナリアに声をかける。
「この人たちは、僕と同じ地球同盟の人たちです。僕を救助に来てくれたのです」
「いやあ、私の名前はハヤトです。私は瀬川君、彼を救出に来ました」
ニッコリ笑って手を広げ敵意のないことを示すハヤトに、ミスラム・イマリルーナルがニッコリ笑いを返して、立ち上がりハヤトに歩み寄る。
彼は、大陸第2の都市を含むこの地方の知事であり、アルージル帝国の50人の国会議員の一人である。また、彼はミーナリアの叔母であり王女であった、妻レジューラの配偶者でもあって、この国に3家しかない公爵家の当主でもある。
ハヤトは、現地人と一緒に行動している瀬川ついて、本人の感情を捉えてみても当面危険はないと考えた。だから、捕らえられている3人の状態を慎重に探った。その結果、日本人の西谷少尉が独房の中に閉じ込められている状態、イギリス人のマッカトニー中尉が車に乗せられて移送されている状態であり、アメリカ人のキース大尉が尋問というか、拷問を受けている状態である。
もちろんキース大尉の状態が、最も緊急を要することは間違いないが、彼の状態はサーダルタの官憲が大勢いる大きなビル内の1室で、その尋問官がねちねち体を痛めつけながら心を読もうというところだ。結局、精神を折って容易に読心の魔法で情報を搾り取ろうという訳だ。しかも、尋問されているその部屋は狭く、とても大人数はジャンプしては行けない。
いずれにせよ、この状態を知った以上はキース大尉が一番だ。幸い部屋にいる3人の尋問官はもっている銃器としては拳銃程度だ。ハヤトは、この場合は接近戦になるので剣を使う彼が適任だろうとして、今回も連れていく隊員はヤフワ・ジェジャートにした。
「ヤフワ、行くぞ!」」
ハヤトは、指示通り剣に手を掛けている彼を見て声をかけ、「おお!」返すのを聞いてその尋問室のテーブルの上に出現した。
出現したそこには、茶髪の白人が椅子に手錠で固定され、上半身裸のあちこちに取り付けられた多数の電極様のものに繋がる電線とそれに繋がるボックスが目に付く。そのボックスのダイヤルらしき円形の突起に手を掛けているサーダルタ人が、呆けた目で突然目の前に現れた2人を見ている。
まさに、電流を流して拷問をしているところだ。ヤフワは驚いて目を見開く男の尋問官の正面で机の上で膝をつき、その勢いで長大な日本刀を抜刀して、その男の首とその横の女の首をまとめて切り裂く。一方のハヤトは、空間移動のジャンプを行った直後はとっさには魔法は使えないので、腰にさした刃渡り75cmの日本刀で、正面で目を見開いている男の頭を唐竹割りにする。
椅子に縛られた、金髪青い目のキース大尉は、いきなり2つの首が血と共に飛び、続いてかつんという音と共に顔が2つ割にされる惨劇にもぼんやりと目を半ば開くだけだった。しかし、流石に彼も少しは意識がはっきりしたようで、頭を振って何かしゃべろうとした。しかし、ハヤトが口に1本指をあて黙るようにとの仕草を理解して黙る。
どうやら、騒がしい建物の中で、外では尋問室の惨劇は判らなかったようだ。ハヤトは膝をついた姿勢のまま、その間にも血の滴る刀を拭き鞘に収めながら“ありあけ”の艦内に照準を合わせ、やがてキースに向かって言う。
「帰るぞ!」
その声にキースが目を輝かせるのを見て、ヤフワにも目をやって頷き、次の瞬間にはいつもの医療前室だ。キースは手錠で繋がれた椅子毎ジャンプをしている。
ハヤトは次には独房の西谷少尉が現状では誰にも監視されていないのを確認して、その部屋にヤフワを連れてジャンプし、何事もなく連れて帰る。車で移動中のマッカトニーはいささか面倒だった。走行中の狭い車内にジャンプは無理であり、どう考えても止まるのを待つしかないと、ハヤトはくつろぎながら待つ。
やがて、トイレ休憩だろう、運転手一人護衛2人と共にマッカトニーが乗ったその車は小さなビルの前に止まる。護衛2人は小銃に拳銃、運転手は拳銃を持っている。現地では深夜のその時間、ビルには人影はない。ハヤトは、影山中尉と石田1曹にもう一人の隊員に、銃をすぐに撃てるように準備を命令してジャンプする。
そこでは、マッカトニーがトイレに入って護衛の一人がそのドアの前、もう一人が車のそば、運転手が運転席の状態であった。ハヤトとヤフワは彼らの背後にジャンプする。ビル付属の街灯で辺りを照らして比較的明るい中で出現の一瞬後、3人の日本人兵士は、それぞれ目配せで相手を特定して電磁銃を撃つ。
ズバ!という独特な3つの音が殆ど同時に聞こえ、普通のライフルの3倍の弾速のその弾は、大部分の運動量を持ったまま的になった体を突き抜ける。しかし、それでも大きな運動量を体に与えることになり、3つの体はばったり倒れる。
「マッカトニー中尉、助けに来た。帰るぞ!」
ハヤトが英語で声をかけると、バタンとドアが開いて、茶色の髪の中背の士官の顔が覗く。ハヤトの姿を確認した彼は破顔して駆け出して、駆け寄り握手を求める。
「いやあ、来てもらえるとは信じていたんだけどね。捕まって護送されていたので心配だった」
笑顔を見せ握手に応じて手を握りながら、「良かったよ。では帰るぞ!」そう言って銃を持った3人を見渡して声をかける。皆が周りに集まったのを確認して、ハヤトが“ありあけ”の艦内に意識を定めてジャンプ!また、いつもの医療前室だ。
「ふう。いささか疲れた。少し休もう」
そう言って肩を落とすハヤトに、声をかける士官がいる。偵察隊参謀長のジョン・ブレイン少将で、横に法務・渉外担当のナザレ・イスマール中佐が付き添っている。
「疲れているところを申しわけないが、少しいいかな」
「ええ、最後の瀬川少尉は今のところ危険性はないようですから。私も少し休んでいきます。それで、話は?」
ハヤトがそう言うと、ブレインは「カフェテリアで」と言って先導する。
「多分、2~3時間後にまた最後のミッションだ。それまで休んでくれ」
ハヤトは部屋にいる直卒隊に声をかけて、カフェテリアに向かう2人についていく。カファテリアの座り心地の良い椅子に落ち着いた3人は、コーヒーを頼みブレインがそれをすすりながら口を開く。
「ハヤト君、パイロットの救出ミッションは本当にありがとう。君がいなければ救出を諦めなけらばならないところだった。とりわけキース大尉が拷問をされていただけに、放っておけば皆同じように扱われただろう」
「いや、いや。私がそれをできる能力を持っている以上は、実行するのは当然のことですよ。ところで、先の会議で話題になっていた戦闘機の収容の話はどうなりましたか?」
「ああ、あれはこの“ありあけ”と“むつ”については収容を開始している。あの2隻は、あらかじめそういうことを想定した設備と一応のマニュアルもできていたからね。残りの2隻も設備そのものはあるから、“ありあけ”から手続きのマニュアルを送っているので、収納の訓練をしているところだ。多分あと2~3時間もすれば収容を開始できるだろう」
ブレインはそう答え、再度口を開く。
「それで、このマダン現地のことだが、いま瀬川少尉が現地人と一緒に行動しているらしいね。それを幸いに現地と何とか接触を取りたいのだ。サーダルタ人については君が捕虜を取ってくれたので、君の手が空けば彼の尋問はできるだろう。
このマダンを経由するサーダルタ帝国の侵攻を防ぐには、何と言っても彼らの政府に接触して、彼らに自衛してもらいたいのだ。その意味では、瀬川少尉の現地の人との接触は意義深いものがある。その相手が有力者などという可能性はないだろうがね。それでも、何とか現地政府への伝手を探せないかと思っているのだ」
「そうでしょうね。私もそれを考えていたので、瀬川君の救出は却って急がない方がいいのではと思っています。数時間前には車に乗っていたのですが、今は部屋の中で数人と話をしているようですね。だから、コミュニケーションは取れているようです。パイロットは、サーダルタ語の自動翻訳翻訳音声ソフトを持っていますから、サーダルタ語でのやり取りでしょうね」
ハヤトはそのように言うが、彼も瀬川がガリヤーク機などに追われたいた時点では自分が忙しく、瀬川の様子を追っていない。今度はイスマール中佐が話をする。
「実は、こちらが一旦膠着状況になったので、アンタレスを地球に戻らせて、地球同盟本部との連絡を取ったのです。それで、今の我が隊の置かれている現状を説明したのですが、同盟本部の臨時総裁をはじめとする幹部から、この偵察隊の現状の方針は暫定的に承認されました。
その方針は、ハヤト君がいない時の会議で話し合われたのですが、サーダルタ帝国のガリヤーク母艦を破壊することで、彼らの異世界を渡る能力を奪おうとすることです。しかし、条件がありまして、地元の住民及びその財産にできるだけ被害のないようにということです。
また、地球側でもガリヤーク機が大量に配備されている世界を、限られた数のしでん等の戦闘機で制空権を取るのは難しいということは認識されております。そこで、こちらの地上に基地を設けられれば、母艦で異世界への門を開いた状態でその脇を戦闘機にすり抜けさせるという方法で、大量にそれを持ってくることができます。
いずれにせよ、このマダンの地元の政府なり、何らかの指導的立場の組織と接触したいのです。また、そのように交渉する件は、地元民への被害を最大限避けるという条件で、本部の了解をとっています。
それで、話を伺うと一応瀬川少尉の置かれている状態に危険はないようですから、私も一緒に転移させて頂きたいのです。瀬川君が会っている相手がどのような立場の人か判りませんが、少なくとも影響力のある人に紹介を頼むことはできるでしょう」
ハヤトはイスマール中佐の言葉に頷く。
「いいでしょう。たぶん大きな危険はないと思いますので、ヤフワと中佐を連れて行きます。ところで、中佐のサーダルタ語は?」
「ええ、いずれ必要になると思って、促成学習で身に着けています。私に翻訳機は要りません」
イスマールはそう言うが、特に語学について促成学習で直接脳に流し込むという方法で、ものの1週間足らずで一つの言語体系を見に着けることができる。
しかし、この方法は魔力を使ったものでサーダルタ帝国の技術であり、通常は魔力の強いものにしか使えない。しかし、魔力の比較的弱いものでも魔力増幅器を使うことで使用が可能である。イスマールはその点で濃い肌色と名前からアラブ系のようなので、白人より有利で問題なく使えたのだろう。
「なるほど、それは頼もしい。私とヤフワは翻訳機をもっていきます。ところで、偵察隊の今後の行動予定の大枠を聞いておきたい。よろしいですか?」
ハヤトの言葉に、ブレイン参謀長が答える。
それは、基本はガリヤーク母艦を無力化することを優先して、続いて1万機以上あるガリヤーク機は上空からレールガンの精密射撃で破壊していく。ガリヤーク機を半分程度に減らした段階で、“ありあけ”型とギャラクシー型母艦によってゲートを形成して、地球から侵入させる概ね5千機の“しでん”とスターダスト戦闘機で一気に残ったガリヤーク機を殲滅する。
そういう、力づくの作戦であるが、5千機の戦闘機を再度地球の基地に戻すことは難しいので、これらの戦闘機のための地上基地がどうしても必要である。この作戦を実行しようとすると、地元の被害を最小化するため、さらに基地の確保のために、地元の政府との接触が必要である。
地球でサーダルタ人の尋問から得た情報によると、このマダンのサーダルタ人の配備は最小限のとどめているために、マダン人の政府もある程度の機能は備えているということである。それが実際はどの程度かは接触して見ないとわからない。
語らいながらテーブルを囲んで、朝食後にお茶のような飲み物を飲んでいるミスラム・イマリルーナル夫妻、ミーナリア、それに瀬川と執事の5人は突然風圧を感じてその源に目をやり、3人の男が現れたのそれぞれ違った反応を示した。
イマリルーナル夫妻とミーナリアは驚き目を丸くしたが、執事はさっと椅子から立ち上がり、最も物騒に見える黒い巨人に向けて構えて懐に手をやる。瀬川はそれを横目に見て破顔し、「ハヤトさん。来ていただけましたか。ありがとうございます」大きな声でそのように言って立ち上がる。
さらに瀬川は殺気を放っている執事にも言い聞かせるように、イマリルーナル夫妻とミーナリアに声をかける。
「この人たちは、僕と同じ地球同盟の人たちです。僕を救助に来てくれたのです」
「いやあ、私の名前はハヤトです。私は瀬川君、彼を救出に来ました」
ニッコリ笑って手を広げ敵意のないことを示すハヤトに、ミスラム・イマリルーナルがニッコリ笑いを返して、立ち上がりハヤトに歩み寄る。
彼は、大陸第2の都市を含むこの地方の知事であり、アルージル帝国の50人の国会議員の一人である。また、彼はミーナリアの叔母であり王女であった、妻レジューラの配偶者でもあって、この国に3家しかない公爵家の当主でもある。
2
お気に入りに追加
1,029
あなたにおすすめの小説
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】
僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。
そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。
でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。
死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。
そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。
異世界帰りの俺は、スキル『ゲート』で現実世界を楽しむ
十本スイ
ファンタジー
ある日、唐突にバスジャック犯に殺されてしまった少年――同本日六(どうもとひろく)。しかし目が覚めると、目の前には神と名乗る男がいて、『日本に戻してもらう』ことを条件に、異世界を救うことになった。そして二年後、見事条件をクリアした日六は、神の力で日本への帰還を果たした。しかし目の前には、日六を殺そうとするバスジャック犯が。しかし異世界で培った尋常ではないハイスペックな身体のお蔭で、今度は難なく取り押さえることができたのである。そうして日六は、待ち望んでいた平和な世界を堪能するのだが……。それまで自分が生きていた世界と、この世界の概念がおかしいことに気づく。そのきっかけは、友人である夜疋(やびき)しおんと、二人で下校していた時だった。突如見知らぬ連中に拉致され、その行き先が何故かしおんの自宅。そこで明かされるしおんの……いや、夜疋家の正体。そしてこの世界には、俺が知らなかった真実があることを知った時、再び神が俺の前に降臨し、すべての謎を紐解いてくれたのである。ここは……この世界は――――並行世界(パラレルワールド)だったのだ。
異世界の大賢者が僕に取り憑いた件
黄昏人
ファンタジー
中学1年生の僕の頭に、異世界の大賢者と自称する霊?が住み着いてしまった。彼は魔法文明が栄える世界で最も尊敬されていた人物だという。しかし、考えを共有する形になった僕は、深く広い知識は認めるけど彼がそんな高尚な人物には思えない。とは言え、偉人と言われた人々もそんなものかもしれないけどね。
僕は彼に鍛えられて、ぽっちゃりだった体は引き締まったし、勉強も含めて能力は上がっていったし、そして魔法を使えるようになった。だけど、重要なのはそこでなくて、魔法に目覚めるための“処方”であり、異世界で使っている魔道具なんだよ。
“処方”によって、人は賢くなる。そして、魔道具によって機械はずっと効率が良くなるんだ。例えば、発電所は電子を引き出す魔道具でいわば永久機関として働く。自動車は電気を動力として回転の魔道具で動くのだ。これを、賢くなった人々が作り、使うわけだから、地球上の温暖化とエネルギーの問題も解決するよね。
そして、日本がさらに世界の仕組みがどんどん変わっていくのだけど、その中心に大賢者が取り憑いた僕がいるんだよ。僕はもう少しのんびりしたいのだけどね。
Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜
華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日
この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。
札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。
渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。
この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。
一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。
そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。
この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。
この作品はフィクションです。
実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる