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第10章 対アンノ戦争勃発

10.9 反攻準備

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 異世界転移装置はアンノ母艦の巨体を、異世界を自在行き来きさせることができる。翌朝ハヤトは、起床したミールクと一緒に食事を摂った後一緒に移動して、彼女の眼のまえに、空間収納から銀色にひかるそれを取り出した。そこはアリソン基地の格納庫であり、周囲には、イギリス側及び日本から駆け付けたの科学者・技術者が50人以上も集まっている。

 この装置を複製できるかどうかは極めて重要であり、地球の科学界の総力を挙げて取り組むことになっている。本来であれば、まだ処方を受けて日の浅い科学者か技術者しかいないイギリスより、処方後の経験が長くその増強された知力の使い方に洗練している、日本の方がその解明には有利であるとされ、直ちに日本に送るという話もあった。

 しかし、魔法を使う装置である以上、解明には地球最高の魔法使いであるハヤトの立ち合いが必須である。さらに実際に使っていたミールクも、立ち合いが望ましいということで、イギリスで最初の複製のための会合が行われることになった。
 それには、日本からは魔力の研究者や、重力エンジンや魔力スクリーンの開発をしたトップクラスの科学者と技術者20人が、日本を発ちイギリスの夜のうちに急遽飛んできている。

 ミールクは、すでにサーダルタ帝国の地球への侵略が、失敗することは確信しており、転移装置の現物が地球側の手に入った以上、その秘密を探り出されるのは時間の問題と考えていた。従って、ここで彼女が協力しようとすまいと、結果は一緒ということで、転移装置の説明すること、様々な質問に答えることに抵抗はなかった。

 また、ミールクは残念ながら転移装置の原理を理解はしていなかったものの、当然それを使いこなしていたので操作方法は知っていた。転移装置には、電力とマナの双方が供給され、操作は魔力で行う。ミールクがハヤトを見て、ハヤトが頷くのを確認して作動を開始する。

 ハヤトは、ミールクの魔力の流れを追いつつ、装置の作動を確認していく。
「しばらく、いわゆるアイドリングが必要です。転移が可能な待機状態になったら、あの部分が、魔力を発し始めますので、こちらの部分を魔力で押し込めば、転移可能状態になったゾーンが拡大していきます。ソーンが必要な部分を覆ったら、そこの部分を魔力でこのように操作することで異世界の門が開きます」

 ミールクは、操作方法を魔力で対象の部分を指しながらハヤトに説明する。その会話は英語である。
「しかし、どの異世界とつながるかはどうやって決めるのか?」

「ああ、それはまず、この世界から繋がる異世界は5つしかありません。その5つについては、装置のこれがゲージになっており、それぞれ魔力でA、B、C、D、Eのゾーンに合わせるとその異世界につながります。
 サーダルタ帝国へは4つの世界を経由しないと行けませんが、次の世界でも同様にゾーン分けしますので、次の世界ではゲージを取りかえる必要があります。また、この世界から転移できる、どの世界でもこの世界への転移は可能です。またその世界をAとすると世界Aからは、この世界の他に3つから5つ転移できます。また………」

 こうして、ハヤトは転移装置について、ミールクからできるだけのことを聞き出した後、彼女の担当に任命された、イギリスの女性士官のバーバラ・ドーソンに引き渡した。
 ハヤトはその後、集められた科学者・技術者とミールクとの対話で聞き出した、装置の働きを説明するが、むろんこれは、言葉のみではわからないので、魔力を使っての念話でも装置の探査を行いながら説明する。

 しかし、サーダルタ帝国が、開発に100年の時をかけたという転移装置の複製は簡単なことではなく、魔法の使用を前提としていることもあって、数ヶ月では完全なものを作るのは到底無理であろうという暫定的な結論になった。
 そこで、唯一の稼働する転移装置は貴重であり、ほぼ完成したAE発電・励起装置を積んだ“ありあけ”型母艦に設置することになった。これはやや平たい楕円形の胴体で長さ250m、幅50m、高さ25mで厚さ100㎜の特殊鋼で覆われた戦闘母艦であり、“しでん”戦闘機を100機積めるようになっている。

 出力は有り余っているため最大加速は10Gであり、AE発電機を積んでいるため航続距離は殆ど無限で、水深200mまで潜水可能である。径150㎜レールガン10機、25㎜レールガン50機となかなか重武装であり、魔力レーダー・スクリーンもむろん装備している。レールガンの射撃管制を含めてAIによる自動操縦が可能であるため、最少の運航クルーは12名であるが、戦闘機の運用のために、そのパイロットを含めて最大乗員は550名である。

 転移装置については、イギリスと日本の科学者の他に、アメリカも加わって1ヶ月ほどの共同研究の末に情報を共有して、各国に持ち帰って引き続いて研究が行われた。やはり魔法を使えるものが多い日本にアドバンテージがあり、日本が主導する形で完成をみたのは、1年と6か月後であった。

 しかし、転移装置はほかにも手に入れる手段はある。要はアンノ母艦を捕獲すればよいのだが、問題は浮遊装置を壊して、艦体を落下させれば衝撃で転移装置も壊れる。しかし、浮遊装置を破壊せずに艦を確保しようとすると、乗員も生き残るので抵抗されるし、たぶん転移装置を作動させて逃げ去るだろう。

 何よりの問題は、艦内にある大型ミサイルであり、これは火薬に加えてマナで爆発力を強化しており、その威力はTNT火薬1ktに相当する。これを、やけくそで発射され、都市に着弾すると大破壊が起きる。しかし、一方で前回の闘いのように、艦体を落下させると地上に重大な破壊が起きるので、自由落下するような撃破は、避けなければならない。

 つまり、レールガンで母艦を破壊するときには、浮遊装置と転移装置の破壊は避けて、乗員はできるだけ無力化するような方法をとる必要がある。それをどうするか、様々な検討がされたが、結局、浮遊装置は絶対的に避け、生命維持装置に配置が近い転移装置は極力避けるようにレールガンを多数打ち込むしかない、という結論になった。

 転移装置については、当面、多数のものは入手できなくても、やむをえないということになったのだ。なお、ミサイルについては、前回の迎撃で爆発しなかったように、魔法で発火させないと爆発はしないということなので、優先的な破壊目標になる。
 
 そこで、この情報を基に、日本防衛軍との調整が行われて、“しでん”戦闘機の日本からイギリスへの派遣は1万機、“らいでん”攻撃機は日本における全500機の稼働機数の内、何と8割の400機が派遣されることになった。
 ミールク情報で、日本への侵攻は当面ないということが判った結果である。基本的な戦術は、“しでん”戦闘機またはSFⅡが1千機に加え、“らいでん”100機は、常時イギリス上空に遊弋することになった。

 そして、魔力レーダーでアンノ母艦をキャッチし次第、“らいでん”が急行して、レールガンでタコ殴りして、アンノ機の発進の機会を与えない。それでも発進したアンノ機は、遊弋している“しでん”またはSFⅡが撃墜する。
 さらに、最初のアンノ母艦が現れ次第、“らいでん”は50機の地上待機の機体を除き370機が発進し、“しでん”とSFⅡは約半数の5千機が発進することになっている。これは“らいでん”は乗員が4名と複数おり、長時間の対空に耐えられるということで、頻繁な交代は必要ないからである。

 これらの“らいでん”攻撃機によって、10発を上限にできるだけ多数のレールガンの弾を打ち込み、その弾が貫通した大破口から、“しでん”改の爆裂弾を撃ち込む。アンノ母艦の防御兵器は空中爆弾(魔力で操られる一種のミサイル)と大型ミサイルなので、“らいでん”1機については、“しでん”戦闘機10機が護衛について、これらについて防御することになっている。

 なお、“しでん”改の爆裂弾は径50mm長さ150mmの中型の弾で充填された銅シリンダーは変則的な励起状態にすることで、銅を原子的に不安定化させたもので、爆発力はTNT10トンの威力を持つ。打ち出しはやはりレールガンによるが、その推進力を弱めたもので、打ち出し速度は内装されたシリンダーが不安定化しない限界を考えて、秒速1㎞程度の低速(?)である。

 この“しでん”改は、日本において開発されていたもので、レールガンが全くの質量兵器であり、威力こそ極めて大きいが、被害範囲が小さいことが欠点になると見越してのことである。“しでん”改攻撃機は、長めの機体に径25mmの戦闘機用レールガンを2機、爆裂弾用レールガンが1基装備され、乗員は2名である。イギリスへの派遣は“しでん”全体の1万機に含まれ200機が予定されている。

 ハヤトは、ミールクを攫って、かつ転移装置を奪ったイルレーナ23号のその後を追っていた。幹部乗員の大部分を惨殺され、艦長が攫われてかつ重要機密の異世界転移装置を奪われた、イルレーナ23号の結果をみてサーダルタ帝国がどういうアクションをとるか、今後の戦略に大いに関係があるのだ。

 もっともハヤトは、転移装置については奪ったことが判らないように、できるだけの偽装は施していた。まず、転移装置の周辺を、火魔法で高熱を発して溶かし、念のために空間収納に入れていた“しでん”改の爆裂弾をジャンプの寸前に制御室で爆発させたのだ。TNT10トン爆弾の威力は凄まじく、アンノ母艦の半ばを破壊し、乗員1200人の1/3が死亡し、1/3が重症、残りの大部分も気を失った。

 イルレーナ23号の機体そのものは、浮遊装置が機能していたので、フランスのブルゴニューの海岸に向かって緩やかに下降し始めた。機体が地球に渡ることを恐れた、サーダルタ帝国の地球侵攻軍は、慌ててイルレーナ23号を魔法を利用した揚力装置で引き揚げ、高空に戻して調査を始めた。

 これらの経過を、探査によってハヤトは追っていたが、結局サーダルタ帝国侵攻軍は原因を突き止めらず、事故と判断したようで、特に目立ったアクションを取っていない。ハヤトも残念ながら、遠方のサーダルタ帝国人の思考は読めないので、真実は解らなかった。

 しかし彼の推察では、熱魔法による操作室を含む、艦体の溶解と爆発に多くの乗員が巻き込まれたことから、司令部要員が何らかの事故に巻き込まれたと判断したのであろう。『無能な奴らだ』ハヤトは思った。
 また、敵が現状ではイルレーナ23号の惨状に基づく、具体的な行動を示していないことから、ミールクの掴んでいる彼らの方針を変えないためにも、これ以上のアンノ母艦への侵入は止めるべきだと判断した。

 これは、イギリス軍司令部も、先乗りした日本派遣軍総司令官河西大将以下の幕僚も同じ意見であった。ハヤト自身は、できればもう2~3艦に乗り込んで、ひと暴れして転移装置を分捕ってやろうと思っていたので、少し残念であった。

「ハヤト君、君がアンノ母艦のイルレーナ23号に乗り込んで、ミールク艦長を捕虜にしてくれ、さらに彼女から様々な情報を引き出してくれたことについては、感謝の言葉しかない。また、異世界転移装置を捕獲してくれたことはそれ以上だ。
 前者によって、対アンノ、いや対サーダルタ帝国同盟の対抗戦略を、ある程度の確信をもって立てることができる。さらに、後者によって、サーダルタ帝国をその帝国主義的構成を解体して、屈服させることもできよう」

 半白の髪の、浅黒い顔に鋭い目の締まった体つきの、河西派遣軍総司令官はそう言って、最後にハヤトに向かって頭を下げる。

「いえいえ。しかし、そのように評価して頂ければありがたいと思います。できれば、もう2~3台転移装置を手に入れたいのですが、欧州上空でイルレーナ23号と同じことをやると、彼らが方針を変える可能性がありますので、やれません。ですから、イギリス上空に現われたら、またやってみようと思っています」

 ハヤトが返すと、河西は困った顔で頭に手をやり言う。
「うーん、君も自覚している通り、君はマナのタンクを空間収納庫に持ってそのマナを使いながら、君本来の魔力、空間魔法である収納やジャンプを始め、威力の高い様々な魔法を使えるわけだ。
し かし、残念ながら、水井君など魔力の強いものも、空間魔法は使えないと聞いている。その意味では、彼らはマナのタンクを置いている場所でしか、濃度の高いマナを使った強い魔法を使えない。
 結局、魔法をベースに侵略をしてきた今、サーダルタ帝国の侵略を跳ね返すには、帝国の魔法使いを上回る力を持った君の存在が不可欠なようだ。さらには、転移装置にしても、魔法で操るものであるから、きみが他の者を教えてくれるしか使い道がない。
 結局、君については少しでも危険は冒してもらいたくないと、いうには各国政府と防衛同盟の強い意向だ」

 河西は頼むようにハヤトを見るが、ハヤトが返す。
「それは、残念ながら良くわかります。早くタンクに入ったマナを使う方法を訓練しますよ。また、今回私がアンノ母艦に乗り込まなくても、悪くても数十基の転移装置は入手できるでしょう。
 しかし、“ありあけ”型母艦に鹵獲した転移装置を設置して、最初に異世界に乗り込むときは私も行きます。その時点では、無論イギリスは守り切った状態、欧州の人々は人質になって膠着状態ですから、異世界で地球侵攻軍の補給を断って、さらに本国を人質にして、侵攻軍に自主的に降伏させるしかないでしょう。
 しかし、この場合は、仮に私が帰ってこなくても負けはありませんよ」
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