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第7章 ハヤトの資源探査

7.7 重力エンジン戦闘機

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 2024年春、AE(Atomic Excitation)工場と名付けられた、名古屋の新技術開発研究所(正式に新技術開発プロジェクトの仮庁舎から、新技術開発研究所として運用されることが決定された)の構内のAE バッテリーの試験励起工場がそのまま本稼働を始めた。

 これは、現在生み出されようとしている、自衛隊や民間企業の様々な機体へ、AEバッテリーを供給するためであり、日本のみならず、アメリカへも当分は供給することになっている。しかし、このAE工場はアメリカでも、新技術開発プロジェクトで生み出された技術を用いて、建設に入っており、1年後には完成の見込みである。

 なお、当面AE工場は、24時間で容量5千kWの銅シリンダーを2本内装している、容量1万kWの1号AEバッテリーを1200基励起できるので、当面の国内需要では十分と考えられている。またAE発電所は、全国の電力会社の強い要望で、標準化した発電容量100万kWのものが、すでに一斉に26基(北海道2基、東北2基、東京10基、関西6基、中国2基、四国2基、九州2基)が着工されている。

 この発電所は、AE工場がバッテリーに内装する10㎏の銅シリンダーを励起して、バッテリーから取り出し・装着するものであるのに対し、1トンシリンダーを励起・放電を繰り返す仕組みである。この発電所で、先行しているのは、すでに核融合発電所として建設されていた、東電の千葉の発電所であり、2024年中にはその総容量5百万kWに対して2百万kWの発電が開始できる予定である。

 この千葉のAE発電所の運転結果を観察して、問題なければ、現状の日本の総発電量である3億kWは全て、この方式に変換される見込みである。これは、経済的かつ環境的にも当然のことであり、まず発電コストでは、石油、天然ガス、石炭及び従来の原子力が、15~25円kW時であるのに対して7円kW時程度である。

 環境的には、励起運転時には全く二酸化炭素等の排出物を出さず、建設に伴う発生も設備建設費が他の方式より大幅に安く、これは結局建設時に発生する排出物が少ないということである。従って、将来は少なくとも日本全国で300基のAE発電所が建設されることになる。

 なお、AE工場は、AEバッテリーを利用する航空機等が試作、試験運用段階では名古屋の試験励起工場の供給で十分と判断されている。しかし、その需要が大きく増加する予定の2025年中に、仙台郊外、東京湾、名古屋、大阪湾、北九州に建設される計画になっている。
 共同研究に加わっていたアメリカ合衆国でも、当然AEバッテリーの活用、AE発電所の建設は進行・計画されており、AE工場は5ヶ所、AE発電所は20カ所の建設が決定されている。

 さて、このような背景の下で、防衛研究所はAEバッテリーの開発が確実になり、そのスペックが固まった段階から、それを活用した兵器体系の見直しを進めてきた。そこで、問題になったのはAEシステムのある種の限界である。すなわち1号AEバッテリーでは、1基が1万kW時であり、これを2倍程度に高めることはできるが、それ以上になると絶縁の問題で不安定になるので、実用上バッテリーとしての利用では今の容量が限界である。

 一方で、励起・放電を繰り返す発電では、一気にその出力が100万kW になってしまう上に、大きさが最低で1辺15mの立方体程度になってしまう。現在航空自衛隊で運用している戦闘機・輸送機・偵察機のエンジンを重力エンジンの交換する程度であればAEバッテリーの使用で問題はないが、海上自衛隊の海上艦及び潜水艦の動力をどうするかが問題になった。

 そこで、海上自衛隊の技術将校と技術研究所の職員が集まってこの点が議論された。
「1万トン以上の艦船だったらAE発電システムが載りますが、どう考えても100万kW の出力は過剰でしょう。ですから、AE発電システムを積む艦は、AEバッテリーの励起も出来て、それを小型艦船に供給できれば、駆動が全てAEシステムで統一できます」
 技術将校Aが言うが、それに潜水艦専門の技術将校Bが応じる。

「潜水艦は、その隠密性から動力システムを改善すれば最強になります。今のバッテリーは蓄電容量が0.3kWh/㎏程度なのですが、AEバッテリーは1万kWhで30kgですから、約300kW/㎏で約1千倍です。100基のバッテリーを持っていれば、100万kW時の容量ですから、1週間は動けますし、1千基積んだって30トンですよ。補給体制を整えれば、潜水艦はAEバッテリーで十分です」

 研究者Aが別の観点から言い始める。
「そもそも、海にこだわる必要はあるのでしょうか?潜水艦が強力なのはいいけど、重力エンジンを積めば、空中も機動できますよ。それに、潜水艦の気密性があれば、宇宙にだって行けます。そう考えれば、AE発電システムを積んだ、水中、空中、宇宙航行が可能な万能母艦を作って、同じくその母艦から補給を受ける今の潜水艦レベルの艦を作ればいいのではないでしょうか」

「うん、そうだよ。私も同じことを考えていたんだ。整理すると、航空機は基本的には1日内外の頻度でバッテリーの交換が必要であり、乗員もその程度の頻度で交代というシステムだ。一方で、潜水艦も含めて海上艦艇は、少なくとも数週間は補給なしに動ける。
 さらに、今や重力エンジンが開発されて、それを設置すれば、どちらも水密性さえ確保できれば、今言ったように水中、空中、宇宙航行が可能ないわば万能航行の機体ができる。だから、その補給・交代という点を解決できれば、航空、海上という区分けは意味をなさなくなるのではないかな。

 また、陸上の戦車やヘリ、輸送機も同じ問題がある。これは、航空・陸上自衛隊を含めて話さなくてはならないな。この会議は一旦閉めて、数日中に再度議論しよう。えーと、研究者B君、重要なことだから君の研究しているレールガンつまり電磁砲について説明してください」

 神谷技術研究所長が言うのに、研究者Bが答える。
「はい、では、私の研究している電磁砲について説明します。今、改良している電磁砲は3種類あって、1つは重さ10㎏の弾を秒速5㎞で打ち出せます。しかしこれは発射に10万kWの電力が必要です。2つ目は2kgの弾を秒速10㎞で打ち出せ、動力は同じ10万kWです。
 さらに、これは航空機用を考えていますが、0.5kgの弾を秒速4kmで打ち出し、動力は2万kWです。これらは、すでに試作機は出来ており試射も済んでいます。ですから、今後戦闘用の機体または艦船を考える場合にはその電力も頭に置いておいて下さい」

 この内容は、ある程度のものは知っているので、特に反応は無かったが、多くの者から「おー!それは凄い」との感嘆の声が上がった。

 2日後に、神防衛研究所長の音頭で航空・海上・陸上自衛隊の技術のトップと主要担当者を集めて合同会議が開かれた。最初に神谷所長から話があった。

「今日は、お忙しいところをお集り頂きありがとうございます。ご存知のように、2日前に我々研究所と海上自衛隊の技術畑の人が、AEバッテリー、AE発電に代表されるAEシステムによる兵器体系について話し合いました。その過程で、どうも兵器体系が抜本的に変わりそうだ、ということで陸上・海上・航空のすべての技術担当の方に集まって頂きました」

 そう言って、神谷は楕円形の大きなテーブルについている30人ほどの出席者を見渡すが、彼らはまだあまりピンと来ていないようだ。神谷は続ける。

「そう言いますのは、AEシステムだけでなく、重力エンジンが実用の域になったということが理由です。これらの内で、重力エンジンについては、AEシステムがなくば、それほど意味のある技術ではなかったのです。この両者を組み合わせることで、例えば航空自衛隊の戦闘機はAEバッテりーでマッハ5の速度をもって6時間連続で飛べます。
 総重量500トンの輸送機も、マッハ2で10時間以上飛べます。潜水艦も同様に、AEバッテリーによって1ヵ月以上の水中・水上の活動ができます」
 神谷は一旦言葉を切るが、ここまでは皆知っていることなので、話の行方がどこかと怪訝な顔をしている。

「ここで言いたいのは、いま自衛隊で運用している兵器の、殆ど全ての駆動部に重力エンジンが使えるということであります。そして、その効率は十分な電力が得られれば、むしろ内燃機関より良いのです。この場合の、重力エンジンのさらに大きい特徴は、容易に空を飛べ、宇宙にすら行けるということです。
 つまり、陸上自衛隊の場合には戦車のキャタピラーは不要ですし、ヘリもあんな大きなローターは不要です。
 次の問題は、海上自衛隊の場合です。船という存在は、大きいものが作れ運用コストが低いが、一方で速度が遅いという点が特徴でしょう。これも、同様に推進に重力エンジンが使えますが、この場合は海面あるいは海中にのみ留まる必要があるでしょうか?

 飛行した方が水による抵抗も少なく、却ってエネルギー効率は良いのです。しかし、水中というのは隠密性という意味ではなかなか有効ですから、これは捨てがたいものの、一方で、水上に留まる必要性は余りないように思います。ですから、水中・水上・空中・宇宙すべてを行動範囲とする改潜水艦でいいでしょう。
 これは、攻撃力を高めた万能護衛艦として海上の護衛艦と潜水艦、さらに航空自衛隊の攻撃機の機能を兼ねたものとして建造するべきでしょう。また、輸送を専門にする艦艇は現在と同様に必要ですが、当然これも航空型になりますし、潜水も可能にするべきです。
 現在の水上艦艇は、基本的に水上にしか留まれないという意味で、戦闘艦艇としては不向きだと思います」

 神谷のこの言葉に「ええー?」という疑問の声が聞こえるが、海上自衛隊のグループは反応しない。すでに、彼らは内部でその問題が検討しているのだ。神谷は続ける。

「さて、航空自衛隊ですが、戦闘機は現状のものに近い形で問題ないでしょう。つまり、コンパクトな機体、その中に半日程度の乗員滞在、行動半径は数千km、素早い機動と打撃力重視ということですね。しかし、隠密性を高めるために、これに潜水能力を加えたらどうでしょうか。
 爆撃に関しては、さっき言った海上での航空護衛艦に、その機能を持たせることもできますし、戦闘機に必要な兵器を吊るせばいいので、特定の機種は必要ないでしょう。また、輸送機は、海上の輸送艦艇の空中機動が可能になれば共通の機種でいいでしょう。

 そこで、ここで提案するのは戦闘機、戦闘艦のためのAE発電システムを搭載した母艦の建造です。ご存知のようにAE発電システムは最小で1辺15mの立方体です。これを、発電とAEバッテリーの励起を兼ねることは、一辺が1mほど伸びることで可能だそうです。
 一方でAE発電システムを載せられない機体は、全てバッテリーの交換が必要です。また、戦闘機乗員は長くはその機内に留まれませんので、基地の往復をしない限り母艦と、機体の収容と乗員の居住するスペースが必要です。戦闘艦は高速型と低速型に分けられ、高速型は総重量5百トン、低速型は5千トン程度になりますが、乗員は1週間以上滞在可能なものの、バッテリーは全速を出せば精々1日しか保ちません。

 従って、バッテリーの交換が必要になりますのです、戦闘機の乗員の居住区と収容及び戦闘艦のバッテリー交換の機能を持った母艦が要るということです。さらに、当然次に考えられるのは、AE発電システムをもった戦闘艦ということですが、これは実質的に航続力は無限に近いので、宇宙空間も行動範囲に入ってきます。以上のようなことを考えているのですが、ご意見なりご批判をお受けします」

 ここでは細かいやり取りはあったが、結局神谷の論は正しいということは認められた。しかし、そうはいっても、既存の兵器体系を全て放棄して全部を作り直すということは出来ない。結局、既存兵器の使えるものは使うとして、順次推進器を重力エンジンに換装することになった。

 しかし、戦闘機については機体が1機10億弱と戦車と大差がないということで、500機を新造し、潜水艦も現在建造中の2隻を航空護衛艦に設計変更し、退役予定の迫っている“そうりゅう”を改修することになった。
 新型戦闘機“しでん”のプロトタイプは、バッテリーの仕様が決まった時に製造を始めていたこともあって、1号AEバッテリーが励起されてからわずか20日で完成した。そのテストパイロットの向田2佐は、“しでん0号”を見つめて呟いた。

「しかし、ぶっさいくな機体じゃのう。なんぼ量産性を優先したと言っても限度があるじゃろう」
 たしかに、彩色によってマシにはなっているが、まん丸のドラム缶に尖り帽子を付けて、横腹に突き出したずんぐりした羽様の姿はお世辞にもスマートとは言い難い。横に立って同じように見ている技術将校である見山3尉が、顔をしかめてそれに応じる。

「そう言わないでくださいよ。2佐も乗ればほれ込みますよ。ぶすの方に味があるってね」
「お前はそういうが、お前のかみさんは美人じゃねえか。俺なんか、ぶすも何も、女には縁がないからな。まあ、精々味があると思えるほどの性能であることを祈るよ」
 向田はそう言って、操縦システムを補助するヘルメットは被っているものの、通常のパイロットスーツに比べると極めて簡易なスーツを着て、きびきびと梯子を上って機体に乗り込む。

 操縦席のベルトはレースカー程度の8点ベルトで、それほど厳重に締め付けていない。向田は訓練通りに計器をチェックするが、計器そのものがF15の1/3程度しかない。向田は普通にしゃべる。
「こちら、しでん0、計器オールグリーン、離陸許可を求む」
 すぐさま声が帰ってくる。

「こちら管制、向田2佐、浮上して、D離陸点に向かえ」
「了解、浮上してD離陸点に向かう」
 向田は答えて、操縦パネルの表示を見ながら、魔力によって1m浮上とする。殆どショック無しデジタル表示が32mから33mに変わる。次はパネル図上のD点に時速30kmで向かうように指示する。今度も動く感触なく周囲の景色が動き、機体はD点に向かって間もなく到着し移動が止まる。

「こちらしでん0、D点に到着した」
 向田の言葉に完成が答える。
「よろしい、離陸を許可する。秒速1mで100m、さらに秒速10mで1000m上昇しろ」
 このように、向田は1100mまで上昇し、斜め上に1/20の角度をもって秒速100mで100秒などの試験を繰り返し、最終的にはマッハ5の秒速1.7kmに達して、1時間の試験飛行を終えて帰ってきた。
「どうです。向田2佐、あの娘は?」

 機を降りてきた向田に話しかけた見山3尉に、彼は少し顔をしかめて機を振り返って言う。
「うーん、あのとんでもない速度でも、おとなしすぎてつまらん感じだ。しかし、戦闘時にはありがたいだろうな。しかも20mmの超高強度鉄板に囲まれて安全でもある。そういえば、それほど不細工には見えなくなった」
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