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第6章 ハヤト国会議員になる

6.5 「日本新世紀会」の政策その2

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 尚も新世紀日本会の代表のハヤトと幹事長の水田を参考人に呼んでの閣議が続いている。
 食料自給率を上げるため、アフリカに食料プランテーションを作るという政策は、やはり揉めたので、その内容を少し詳しく水田が説明した。

「たしかに、予定しているアフリカの地域の産物は、輸入の形をとるので自給にはなりません。しかし、買い取った土地については自治国的な資格を与えることが了解済で、かつ日本から移り住む人々の国籍は変えません。従って、まあ日本国内も同然の場所ですから、自給と言ってもいいのではないですか?」

「うーん、相手が受け入れているならその点はいいとして、100万人が移り住むというのはどうかな?」
 狭山農林大臣が首をかしげて言うのに対して水田が答える。
「日本の農業は、明らかに大規模化しないと将来はありません。この点は、政府の報告書にははっきり書いてはいませんが、誰の目にも明らかです。今回合意できそうな土地は、大体10万k㎡の原野で1兆円ですから、ha当り10万円で話がついていて、モザンビークとジンバブエにまたがっています。
 地域内の住民は5万人ほどですが、日本人が住みつく地域に今後も住めるということで大喜びです。農地としては全体で4万k㎡を割り当てて、農家一軒が20ha平均で考えていますので、20万戸で60万人程度ですか。さらに、養殖を主とする漁業従事者が10万人程度と考えています。
 あとは、商業、工業、アフリカ相手の商売で30万人程度ですね。この場合は日本国籍を手放さないという点がみそなのです。日本人として活躍できるアフリカの大地というキャンペーンは受けると思っています」

 水田の説明に続いてハヤトが言う。
「実際アフリカでは、魔力の処方を渇望しているようですね。その意味では、日本人にはできるだけたくさん来てほしいのです。ですから、その地域、『日本自治区』では、土地を提供した両国からは、処方を受け付けますし、それ以外のアフリカ諸国に処方をできる人材を派遣します。
 この辺りはODA一環でのお願いしたいと思っています。あと、現地の農業・漁業では労働者が大量に必要ですから、多分200万人くらいの現地の人を雇うことになります。これは現地の雇用に大きく貢献することになります」

 この辺りで、全体像は理解されたが、杉内財務大臣から費用について質問があった。
「費用としては、土地に1兆円、農地と家に2兆円、諸々のインフラ整備に2兆円で締めて5兆円程度と考えています。ただ、移って来た人々と会社に土地建物等は買ってもらいますので、これらの売却でこの経費は回収できる見込みです。従って。基本的には事業費は商社が負担しますが、政府にも初期費用の援助と貸付等をお願いすることになります」
 この水田の答えに杉内は満足した様子だ。ただ、この政策は日本のみの問題ではないので、外務省も加わっての詰めと議論が必要との結論になった。

 医療分野の、中高年の魔法処方のシステム化の早期完成と処方の実施については、閣僚達自らもハヤトに新しい方法で処方を受けたばかりであるため、特に問題なく賛同を得た。ただ、引退した人に対する処方は問題視された。それは処方によって、元気になって若返るのはわかっているため、年金生活者がそのために長生きされたのでは国の財政が持たないという意見が出たのだ。
 従って、この点も棚上げとして、当面は現役で働いているもののみを対象とすることにされた。

 財務については、『産業の多角化と、国費の効率的な投入を通じた雇用の増加によるGDPの増加よって、年率増加率8%の10年継続を目指す』というテーマが議論された。
 これについては、「所得倍増政策再びだな」という何人かの声と共に、山城総務大臣がコメントがあった。

「そういう意味では、リニアの早期延伸のその一環になるわけであるし、アフリカの農場も初期費用を国が負担することで、実施を早めるのもその一つだな」 さらに山城大臣がは付け加える。
「10年後にGDPが倍になると、1500兆円か。いまのアメリカと並ぶが、アメリカは更に10%以上は伸びているだろうから、あっちは1700兆円くらいだから大差なくなるな。

 人口はその頃は1億1千万人くらいだから、一人当たり1360万円だとちょっと多すぎという感じかな。すこし背伸びしすぎのような気がするな」
この山城の言葉に賛同が多い。

「うーん、私もそう思うね。むしろもっとのんびり暮らして、格差をなくせば、今の一人600万円くらいでいいのじゃないかな」
 そう言う松井洋一外務大臣の言葉であるが、杉内財務大臣が反論する。

「福祉予算はもっと増えますから、それを賄うにはGDPをもっと大きくする必要がありますよ。10年後には、私の試算では1200兆円くらいはないとバランスしませんよ。前は日銀の国債引き受けで切り抜けられましたが、今はインフレ気味ですから、これはもうできませんよ」

 杉内は一旦言葉を切って続ける。
「そういう意味では、財務大臣の私が言うのもなんですが、次の彼らの政策である日銀所有の国債623兆円は償却してもいいと思いますね。日銀が今後赤字になることはないでしょうから。要は言い訳だけの問題です。しかし、総裁の田辺君は抵抗するだろうな」

 結局、GDPを伸ばすという方向で賛同は得た。しかし、急ぎすぎて国民の負担になってはならない、一方で福祉予算を賄うことも考え、目指すGDPは再検討となった。日銀保有の国債の国庫納入については日銀の激しい抵抗は目に見えているので、当面塩づけということになった。

 安全保障の分野で、シーレーンの確保については、10月初めのアメリカ合衆国の大統領のジョン・エドソンの訪日時にはっきり要求されているため、その実施は避けられない情勢になっている。ただ、メタンハイドレートの生産の伸びに従って、中東からの石油の輸入は年々減っており、インド洋のシーレーンの重要性は薄れつつはある。

 なお、エドソン大統領の訪日の主目的は、今や技術的な開発のメッカになっている日本にアメリカの研究者の受け入れと、先端ノウハウの開示である。しかし、彼は日本人以外でも可能な魔法処方の方法の開発に協力してくれたことへの感謝から述べ、再度経済力が世界の1位と2位になった両国の、世界秩序の保持;平和への今後の協力を要請している。

 そのうえで、今後重要になる新技術を共同して開発することを申し入れた。そのためには、近年急激な開発が続いている日本の新開発技術を、協力者たるアメリカがキャッチアップするためのアメリカの研究者の受け入れを要請している。このように下手にでられるといままでの経緯もあり、相手が現状では世界のスーパーパワーであることは事実なので、無下にもできないず、篠山首相は基本的には受け入れている。

 シーレーン確保のための空母保有は、当然選択肢に入る。しかし、別の選択肢として、近年東南アジア諸国から、彼らにとっては依然として脅威である中国へのけん制、加えて魔法の処方と兼ねて日本国に自衛隊に駐屯するようにという働きかけがある。これに応じると、陸上の航空基地の確保が可能になるのだ。

「その意味で、重力操作の応用で画期的な軍用機あるいは軍用艦を開発できれば、その能力機能によって最適なシーレーンの在り方も変わってきます。だから、防衛省も早急に人員を確保して、重力操作の応用開発研究に加わって未来の戦闘機、戦闘艦の開発にかかります。それが、第1でしょう」
 遠藤防衛大臣が言って言葉を切り、再度続ける。

「日本列島を守るイージスシステムについては、弾道弾レベルの遠距離を飛んでくるミサイルの防衛はぼぼ完ぺきに近くなっています。次は近海に浮上した潜水艦からのミサイル攻撃への対応ですが、大都市に対しては来年には防衛システムが完成します。ですから、その政策は来年には実現することになります」

 国際関係の分野については、松井外務大臣からコメントがあった。
「先ほど話のあった、アフリカのモザンビーク・ジンバブエの農場確保については、M商事さんの動きと現地側の対応についてはアフリカ部と大使館から報告を受けました。しかし、我が省では相手が前向きという点はわかっていましたが、自治権を与えるまでのことを考えている、というところまでは掴んでおりませんでした。
 この点はお恥ずかしい次第です。さらに、日本人を多数移住させるという話では、そんな話に乗るものがいる訳はない、という感覚であったそうです。しかし、日本国籍を持ったままということになると話が違ってきます。私もこれは実現性があると思いますので、現地の尻を叩いて全力で実現に向けて動きます」

 松井は、さらに国連について話をする。
「ロシア・ウクライナの戦争によって、国連の機能に大きな疑問がついたのは事実です。しかし、機能や仕組みを変える必要があるにせよ、やはりこのような国際機関が必要と言う点は逆に強く認識されました。そこで、ロシアを常任理事国から外す、常任理事国の機能を見直すなど機構改革の準備は進んでいます。
 そこで、近年一気に国際的な重要性の増した我が国が何らかの重要な役割を担うことになるのは、まず間違いないと思っています。しかし、ロシア・中国など数か国が強く反発していますので、場合によっては一旦解散して別の組織にするという案も浮上しています。これらについてはここ数カ月で方向性が見えてきます」

 そのように、関連の話があった後、さらに新世紀会の製作の説明が続く。
 教育・科学の分野では、中学生以降の体力強化・知力増強後の教育システムの確立についてである。すでに4年前から文科省から、種々の規則の改定や通達によってその改善が図られると共に、現場の努力によってそれなりの成果を上げてはきた。

 しかし、教師の4割を占める中高年の教師の存在が、問題を難しくさせてきたが、そこで、かれらについては高い優先順位で、まもなく開発される中高年向きの魔法の処方を受けられるであろうから、教育システムの最終版が確立される必要がある。そのことに関しては塩田文科大臣によって同意された。

「次の重力操作技術の確立と応用技術の完成ですが、これは実はまだ相当にハードルが高いと言わざるを得ません。我々の会の科学技術担当の水谷議員によると、問題は反力の無い状態での推進及び重力を操作するための動力システムです。従来の推進システムはすべて反力を利用するものです。
 これは、大気中ではプロペラで空気をかき分ける、あるいは高速で物質を噴射して進むジェットまたはロケットでした。真空中ではロケットですね。これを重力操作によって言ってみれば、反力なしに引っ張るあるいは押す力場を発生させて進むものです。
 理論としてはすでに完成しているものの、光速で飛ぶための装置化についてはいま一歩という段階にあります。もっと大きな問題は、重力操作で物体を浮かすあるいは動かすための反重力の発生は電力によっています。この動力については、従来通りのものしか使えないのです」
 水田が技術開発について問題点を解説して、さらに話を続ける。

「この点では、核融合発電程度が使えればいいのですが、残念ながら今開発されているものはとても船などに乗せられるものではありません。従来通りの核分裂を利用した発電機は使いたくはありませんし、そうなると結局燃料油を使ったエンジンということになります。
 しかし、九州大学で画期的なバッテリーの開発がされているようなのでそれに期待している所です。宇宙に出ることのできるような駆動システムは先の推進方法の確立と、動力の問題を解決してでの話です」

 これらの説明と議論によって、閣僚の面々から日本新世紀会の政策が理解された。また、これらの政策について、会として発表することについては了解された。
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