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第1章 異世界からの帰還、現代への再適応

1.4 暴力団山菱組

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 あたりはすっかり暗くなっているが、その暗さに慣れたそこにいる者には、いくつかあるライトの照明で十分見通しが効く状態だ。やがて、車が校庭に入ってくる音がして、さらに一瞬ヘッドライトが動くのが見える。田所他の生徒たちが元のままの位置にいる一方で、ハヤトは車から降りたものが歩いてくるはずの校舎の角までしなやかかつ素早くすべるように移動していく。

 生徒達から、一瞬2人の男が見えた瞬間に、ハヤトが片方の小柄な男の手を取り、そのまま足でその男の足の付け根を払う。男の体が激しく掬い上げられて固定された腕を中心に回転するが、腕はハヤトの怪力でがっちり固定されたままだ。ミチミチ!というような音がして、地面にたたきつけられた男から「うぎゃー!」と異様な悲鳴が響く。見ると明らかに固定された手が体に対して異様な向きになっている。

 男は、肩が外れさらに腕の大関節がねじり折られて、痛みの余り気絶してしまった。ハヤトは男の懐から拳銃を取り出し、銃身と銃柄をつかみウ!と力を入れてへし折り、そばの池にポイっと放り込む。それから、突然のことに反応できないもう一人の男に向いて話しかける。

「さて、お前が山菱組の田所か?出迎えごくろう。お前たちの親分に会いに行こうか」
 田所は我に返って叫ぶ。
「なんだ、お前は!この桐生に何をした?」
「拳銃を持っていて、物騒だからちょっと手荒に取り上げただけだ。まあ、腕はもう使えないだろうが。どうせ拳銃を持って歩いて、使う気が満々な男の利き腕は使えない方が世のためだ。文句があるなら、お前らの親分から聞こうか。それでお前は田所か?」

 平静に何でもないように言うハヤトにさらに興奮した田所が叫ぶ。
「おお、俺は山菱組の幹部の田所だ。そんな真似をしてただで済むと思うなよ。息子はどうした?」
「はあ、幹部?まあいいや。お前の親分に説明してやるからお前らの事務所に行こう。おい、田所のバカ息子!今から山菱組の事務所に行くぞ」

 うんざりしたようにハヤトが言って、田所雄一を招くと、彼は半分魂が抜けたようにふらふらと近づいてくる。
 ハヤトは集まっている生徒たちに呼びかける。
「以上で、学校内の活劇は終わりだ。皆帰れ!俺はこれからこいつらと一緒に山菱組とやらの事務所に行って片付けてくる。校長や教頭の迷惑になるので、警察には言うな。カツアゲされた奴は、金を取り返してやるからしばらく我慢しろ。わかったか!」
 最後は大声で言うハヤトに皆頷く。

 気絶した男を軽々とベルトを持ってぶら下げて、ハヤトが校舎の角を曲がって姿を消すのを見送って、山切は横に居た同級の深山にしみじみ言う。
「あのハヤトさんが、異世界の勇者だったというのは本当かも知れんなあ。あの風格、とんでもない戦闘力、胆力、どれを取ってみても、どんな訓練をしてもあの年で身につくものとは思えない」

 それから、深山に向き直って言う。
「おい、見に行こうや。これを見逃したら一生後悔するぞ。場所は山菱組とわかっているのだからな。表の通りに出ればタクシーを拾えるぞ」
「お、おう。行こうぜ」
 深山も興奮して言うが、結局10人余がタクシーを捕まえて山菱組事務所に向けて出発した。

 ハヤトが、田所父である良治の古ぼけたベンツに乗って、山菱組の事務所に着いたのは、15分ほどの後であった。田所父は、『この野郎待っていろよ』と思いつつ運転している。ハヤトの要求もあって、事務所には組長がいるかどうか確認のために連絡しているがその時に殴り込みであることを表す隠語を伝えているので、事務所は臨戦態勢であるはずだ。
 近所の手前、あまり派手なことはできないが、着いたらこの若造を返り討ちにできる十分な戦力は集まっているはずだ。

 山菱組若頭西村は、田所の連絡にとまどっていたが、頼りない部下とは言え補佐から殴り込みという連絡があった以上、ある程度の戦力は備えざるを得ない。しかし、田所からの連絡である、自分が今から組長に会いたい客人を連れていくという連絡をしてきて、さらにその時に殴り込みの隠語を混ぜてくるという意図が理解できない。

 西村が聞いた組員からの話では、田所は息子からの連絡で拳銃使いの原田を連れて息子の中学校に行ったというが、そこで何かあったのだろう。その結果、連れてくるその客人という者がその殴り込みの主と判断せざるを得ないが、いつものように気が利かない部下の連絡にいら立ちが募る。

 組長の権藤からは、一応銃の準備はしても絶対に使うなと固く言われているので、一応猟銃2丁と拳銃3丁は準備しているが、持っている組員には自分が指示した時以外は絶対使わないように固く言っている。その代わり、事務所内には日本刀、槍を持ったものを多数控えさせ、外には7人配置して、棒術に使う棒を持った者5名とドスを呑んだ自分と、元プロボクサーの安井が待ち構えている。

 待っている西村たちの手前3mほどで、田所のベンツが止まった。すぐに後部座席から、大柄な白っぽい服を着た長身の男がすべるように出てきて、待ち構えている7人の前に立つ。それは、引き締まった体と厳しい顔の若者であるが、只もので無いことを感じさせるしなやかかつ力強い動作に加え、全く堂々としてこの状況においても全く自然な顔つきであり、微塵の緊張も感じられなかった。

 西村は、その若者の威風に強く気圧されるのを感じ、今までくぐってきた修羅場を思い出しても、この状況でこうした態度が取れるものはいなかったと緊張がいや増すのを感じ、このような奴を厄介な状況で連れてきた田所にいら立ちが募る。

「やあ、歓迎有難う。俺はハヤト。元異世界の勇者だ。ちょっとお宅の組員の不始末の件で、組長に会いたいのだけどね。出来るだけ穏やかにやった方がお宅も得だと思うよ」
 緊張のかけらもない声で若者が言う。

 そのハヤトに対して、西村が応じる間もなく、横に立っていた安田がさっと躍り出てストレートパンチを放つ。それは流石に日本ランカーまでいった元プロの技で、目にも止まらないものであったが、ハヤトはその上をいく動きで、しかし手のひらで柔らかく受け止め、間髪、足で安井の足を払いあげる。
 この場合は、跳ね上げた後すぐに手を離したので、腕がひどい事にはならなかったが、反面安井は2mほども舞い上がってアスファルトの上にたたきつけられ、横たわったままうめいている。

「まあ、素手だから壊さないでおいたよ。何だったら、残りの5人か、その棒でかかってくるかい?壊さないように相手をしてやるよ」
 ハヤトが、穏やかな顔のままで西村に言う。

 西村は安田のありさまを見ていて、『これは敵わない』とはっきり感じた。それなりに鍛えてる彼の眼にもほとんどハヤトの動作は見えなかったし、何より小柄とは言えない安田をあれほど軽々と舞い上げるパワーは明らかに人間離れしている。しかし、これで組長に会わせるのでは、組の内部が収まらないだろう。

 ハヤトが『壊さない』と言っているだから、組員にもいい経験だろう。西村は腹を決め、棒を構えている5人に頷いてうめくように命令する。「やれ!」その言葉に、それなりに訓練している組員は、さっと躍り出て構えを取ろうとするが、ハヤトもその集団に同時に躍り込む。

 それからのハヤトの動きは西村には殆ど追いきれなかったが、気が付くと5本の棒がカラン、カランと投げ出され、5人の組員は尻もちをついている。西村はそれを見てやはりと思いながら、ため息をついてハヤトに向かって言う。
「わかった。お前には敵わん。おれはこの山菱組の若頭の西村だ。組長に会ってもらうよ」
 ハヤトが怪訝な顔で聞く。

「若頭?」西村が苦笑いして説明する。「そうだな。組のナンバー2だよ」それから、西村は車から降りてきた田所父に向かって、「田所、一緒に来い」さらに、ようやく起き上がった安田を含む組員に向かい言う。
「お前らは下で待っていろ。田所の息子もだ」

「では、ハヤトさん、ついて来てもらえますか」
 頷くハヤトを見て、付いてくるのを確認しながら、西村はハヤトと青ざめている田所を従えて3階建てのビルの頑丈そうな玄関を開けて中に入り階段を上がる。中には、さまざまな刃物を構えた多くの組員がいるが、西村が目で押さえる。

 階段室の横にはエレベーターがあるが、組長専用なんだろうなとハヤトは思いつつ、言っておいた方がいいことを思い出して西村に告げる。
「言っていなかったけど、中学校に拳銃を持ってきた奴の右腕を壊したから治療はしてやれよ。あいつはもう右腕では銃は使えないな」

 聞いた西村はどう返していいか思いつかず、「あ、ああ」と曖昧に言ったが、田所が連れてきた虫の好かないあの飯塚という拳銃使いが壊れたのは悪い事ばかりではないと思った。
『治療費は田所持ちだな』考えながら西村と続く2人は最上階3階のこれまた頑丈なドアの前に立った、西村は振り向いて言う。

「すこし待ってくれ。組長に説明して入ってもらう」
 頷くハヤトの後ろで田所は“青菜に塩”状態だ。
 入って行って数分後、ドアが開いて西村が招いて大きくそのドアを開くが、さらに下から人が上がって来る気配がする。まあ、周りに組員がいないのは組長も不安なんだろうなとハヤトは思う。

 組長の権藤は、大きな黒っぽいデスクの後ろに座って待っていた。そこに、ハヤトが進み出て権藤の目を見て話し始める。
「組長さんですね。私はハヤト、中卒で狭山第2中学校の臨時用務員です。まあ腕力を買われた中学の暴力対応要員で、日当は8千円です。まず、お聞きしたいのは私の勤務する中学校でお宅の幹部という田所の息子が集めている月100万円の金はあなたの指示ですか?」

「う、し、知らんぞ。そんなヤバイことをやらすわけがない!田所!どういうことだ!」
 権藤は答え、最後に塩垂れている田所に怒鳴りつけるが、田所は下を向いたまま答えられない。
「答えろ!田所!」
 権藤がさらに怒鳴る。

「あ、あのシノギがきつくて、そのーーー」
 かろうじて、蚊の鳴くような声で田所が答える。
「こいつが勝手にやったことだ。組は知らんぞ」

 横から西村が言うが、ハヤトはあっさり返す。
「お宅の組の名前を使って、田所の息子が中学生の子供を脅して組の金ということでカツアゲで金を集めていたのを、その組が知らんというのは通らないと思いますがね。この落とし前については組が責任をもってやってください。もし、これが警察沙汰になったら、中学校も大騒ぎだけど間違いなくこの組は潰されるよ」
 ハヤトが淡々と言う。

 権藤は、口やかましい自分の組が属する関東六善会の若頭の遠藤のインテリ顔が、言ったことを思い浮かべる。
「いいですか。皆さん、決して表に出るような、それも誰が考えても悪いと思うような不始末はしないでください。その時は判っていますね」

 しばしば、言われるその言葉からすれば、このことが世間に知れたら確かに自分の組は潰されるだろう。
「そ、その落とし前とはなんだ?」
 権藤は精一杯虚勢を張りながら尋ねる。

「そう、ちょっと緩いけれど、1.まず脅し取られた生徒に金を返す、これは脅し取った奴がポケットに入れていても、その分は組が補え。後で取り返すのは構わんがね。2.脅し取った奴と田所の息子は、取られた生徒にその金を返してきちんと謝る。加えた暴力に関しても謝る。
 しかし、これは金額が知れているから、ちょっと緩すぎるな。そうだ、市の福祉協会にそうだな1千万円寄付しろ。加えて、この田所と息子は組でちゃんと監視して同じような碌でもないことをしないようにしろ。田所を首にしようと思っていると思うが、こういう碌でなしはよそに行っても同じようなことをするからな。言っておくが、俺の言ったことを守れなかったら、俺を完全に敵に回すと思え。お前たちのしのぎを徹底的に邪魔してやるぞ」

 権藤は内心ほっとした。後ろの組員が見ている前で、この話を飲むのは少し格好がつかないが、確かにこのハヤトという若者の風格をみていると、若頭の西村が言うように敵に回すべきではないということはそれなりに修羅場をくぐってきた遠藤にもわかる。

 それが、今言った程度のことで、手打ち出来れば御の字だと思うが、『もう少し』そう思って返事をする。
「わかった。ハヤト君の言うことを飲もう。ところで、実はこの利根市には大阪に本拠を置く阪神組の手が伸びてきて、どうも近くドンパチが起きそうなのだ。俺たちもやりたくはないが、50人の組員を食わせていかせなくてはならんし、そうなると市民に迷惑がかかるが、何とか手を貸してもらえんか?
 ちなみにわしの名前は権藤甚太と言う」

 ハヤトは、にやりと笑って応じる。
「権藤さんは、なかなか只では起きないな。まあ、皆に迷惑をかけることを防ぐためにはしようがないかな。まあ、その際には連絡してくれ。ちゃんと理由があれば、助けてやるよ」
 ハヤトとしては、自分でもややバトルジャンキー気味になっているのを自覚しており、その解消に自分にやましくない理由があれば権藤の話に応じるのも悪くないと思ってのことである。

 それと彼は、勇者としての経験から世の中で目的を果たすためにはきれいごとばかりでは済まず、清濁併せ呑むことも必要であることは良く判っていた。
 ハヤトが、若頭西村を始め外に整列している事務所に居た組員20人ほどに見送られて外に出たのはその後20分ほどのことである。

 山菱組事務所の見える建物の隅で、山切他の10名ほどの好奇心旺盛な生徒は、当然玄関前で行われた活劇には間に合わず、中でざわざわ人の気配はするものの大きな音もしない建物をどきどきしながら見張っていた。
「来た!」数人が小さく叫ぶ。確かに、人がどやどやと出てきて、何やら玄関の両側に並ぶ。片側10人ほどで合計20人程度であり、玄関の照明に照らされて比較的はっきり見える。

 どう見ても活劇が起きそうな物騒な具合ではなく皆戸惑っているが、暫く時間をおいて並んだ人の2人が大きく開けたドアを通って長身の白っぽい服装の男が現れる。「ハヤトさんだ」多くが小さく叫ぶ。中学生の彼らの中ではすでにハヤトは敬うべき人物になっている。

 ハヤトに少し遅れて男が現れ、数人がつぶやく。
「山菱組の若頭の西村さんだ」
 西村の顔は学生の間ではよく知られている。

 並んだ男たちの先には、田所の古いものでないピカピカのベンツが待っている。車に向かうハヤトに組員の男たちが頭を下げて敬意を表すが、ハヤトがふと立ち止まって固まっている生徒たちを見て叫ぶ。
「おーい、山切君それとそこにいる皆ここへ来いよ」 

 声に少しためらった後、山切を先頭に生徒たちは玄関にいるハヤト他の組員の近くに寄っていく。
「みな、話は片付いた。カツアゲした金は全て返させる。殴られたりは謝ることでチャラにしてもらいたい。な!田所雄一?」

 ハヤトの言葉に並んでいた一員であった田所雄一は、若頭以下から言い含められていたこともあってはっきり頷く。さらにハヤトは皆に言う。
「この話は、絶対にマスコミに漏れないようにしたい。いいか、山切君。その辺は頼むな。間に入ってくれ」
 山切が頷くのを見てさらにハヤトは言う。
「そういうことで、今晩は帰れ!明日からはさぼるなよ。さぼりは俺が許さんぞ。わかったか?」

 生徒たちは思わず、「はい!」と答え、それぞれに帰って行った。ハヤトは、まあまあ普通の恰好をしている組員を指定して彼をドライバーとしてベンツで帰宅である。

 その後、山菱組では組長の部屋に、連絡のつく32人が集まり、まず若頭の西村から話がある。
「みな、今日のハヤトさんについてだが、お前たちの内には俺たちの態度があの人に対して弱気と思ったものもいるかもしれん。安田!お前はハヤトさんをどう思った?」

 ようやく蹴り飛ばされたダメージから回復した安田は考えながら答える。
「あいつはどう考えても普通じゃない。俺は、バンタム級の世界チャンピオンともスパーリングをしたことがあるが、あのチャンピオンでもあいつ相手では俺と同じようにやられるな。どうやって、やられたか理屈ではわかっても体が判らない。あのスピードとパワーは人間ではない。あいつをやるには気が付かれないようにライフルで狙撃するしかないだろうな」

 棒を持ってかかった男たちも、安田の言葉にしきりに頷いている。
「安田、それと皆も今後ハヤトさんをあいつとか呼ぶな、ハヤトさんと言え。わかったか」
 西村は安田の話の後そう言い、それに対して組員が口々に「はい!」と答えるのを聞いて続ける。

「俺は、正直に言うが、ハヤトさんに対しては狙撃しても避けられるか、なにかで逆にやられるような気がする。多分まともに相手をできるのは重火器で武装した軍隊位だと思う。そのハヤトさんが、場合によっては俺たちに阪神組との戦争に手を貸してくれると言ってくれたんだ。これは是非何とかしたい。そういうことで、ハヤトさんに対してはおろそかに扱うな」

 さらに西村が皆を見て、皆が「はい!」と返事をし、西村は続ける。
「まあ、田所の不始末のしりぬぐいをする必要があるが、幸い必要な金は知れているし、要はお前、息子の田所雄一!お前が指示してカツアゲし、殴った連中に謝ればいいんだ。別に命を取られることも指を取られることもない、いいな雄一!」

 西村は最後に雄一をにらみつける。修羅場をくぐってきた男からにらみつけられて、雄一は震えあがり従順に返事をするしかない。
「は、はい。わかりました」

 西村は、更に田所の父子を見ながら聞く。
「ところで、返す金はどのくらいだ?」
 息子から大体の所を聞いていた田所父は答える。

「組のしのぎに収めた金が350万円くらいで、雄一を含めてカツアゲした金を使った金が250万くらいで合計600万程度になると思います」
「この始末は当然お前の責任だが、いくらお前は用意できるんだ?」

 西村の更なる追及に田所父は苦し気に答える。
「病院に担ぎ込んだ飯塚の治療代が、100万ほどかかりますんで精々100万程度です。しかし、ガキどもが自分らで使った金は回収しようと思っています」
「使ったガキどもにはいい薬だろうから回収してもいいが、返すのは一週間以内に終わらせろ。今言った額を越えたとしても金は惜しむなよ。金は会計から持っていけ。それからくれぐれもブンヤにはかぎつけられるなよ。いいか、雄一も世間の騒ぎになったらお前は間違いなく年少行きだぞ」
 返した西村の言葉に父子は必死で頷く。

 西村はそれから権藤を向いて言う。
「こういうことですが、親父さんよろしいですか?」
「うん、西村ごくろうだな。田所、お前は本来だったら破門の上、回状を回すところだが、ハヤトさんの話もあるので、それはしないが、罰として当分平組員だ。わかったか?」

「はい、ありがとうございます」
 権藤の言葉に、田所父は不満はありつつも感謝の言葉を述べる。この年になって、破門され、回状を回されるということは、この世界に留まれないのみならずあらゆる組から目の仇にされるということで、とても生きていけない。その意味では温情ともいえる処分なのだ。
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