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第1章 異世界からの帰還、現代への再適応
1.2 狭山第2中学校
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ハヤトは、狭山第2中学校に向かっている。
家から10㎞ほどもあるが、「ちょうどいい散歩コースだよ」と最寄りの量販店で買ったラフなズボンにシャツで軽く走っていく。彼が日本に出現して3日目であるが、すでに人眼を避けて魔法能力のチェックは済ませてある。
マナの濃度が低い影響はやはり大きく、身体強化は使えるが、その度合いはラーナラの半分程度である。とは言え、半分と言っても全力で走れば100mを5秒程度、長距離もマラソンの距離を40分程度で走り、垂直に5mは跳べる。残念ながら、収納や瞬間移動など空間魔法は使えず、火魔法、水魔法、風魔法もいずれもかってに比べ1/10以下の能力しか発揮できない。
一方で、知覚系の魔法は距離、展開速度とも大幅に上昇しているが、これはマナ濃度の大幅な低下に伴ういわば“見晴らし”の良さによるものと考えている。いずれにせよ、戦闘能力は大幅に低下しているわけだが、魔獣、魔族や魔王がいる訳でなく、平和な日本では問題ないと考えているハヤトである。
狭山第2中学校は利根市でもいわば下町にある中学であり、ハヤトが日本に居る頃から柄の悪いことで有名な学校である。だから、母も教頭の立場になった田郷先生が苦労しているのではないかと気づかっていた。あたりの町並みは、新興住宅地であるハヤトの家のある地区に比べると道幅も狭く、比較的小さい家とアパートが入り混じったものになっている。
目立たない程度ということで、約40分で10㎞を駆け抜けたハヤトは、変哲のない中学校の正門のネームプレートを確認して、校内の敷地に踏み込んだ。丁度休み時間らしく、校庭には大勢の生徒が出ているが、校庭脇や校舎の前にたむろしている者が多い。
ハヤトは校舎の造りから、職員室の位置を推定してその方向にゆったりと歩いていくが、大勢の生徒の視線を集めているのに気がつかざるを得なかった。それは、勇者、戦闘の王者としての隠すことのできない覇気が発していることによるもので、ラーナラでもハヤトのことを知らない人ごみを歩いていても、自然に人々はその道を空ける。
「うん!」ハヤトは目の隅に気になるものを感じてそちらを見る。
それは、校舎のくぼみになった人眼に付きにくい位置で、学生服を着た数人が固まっているが、一人が向かいの者の首をつかんで腹に蹴り込んでいる。
「つべこべ言わず。出すものを出せ!」蹴っている者が低い声に言っているのがはっきり聞こえる。ハヤトは10mほどの距離をあっという間に駆け寄り、まだ相手の首をつかんでいる襟首を片手で掴み、片手で向かいの者の首に巻いている手を跳ね上げて、掴んでいる襟首を後ろに放り投げる。
そこには、色の白い小柄な生徒がまだ少しかがんだ姿勢で、顔を上げてハヤトを見上げており、さらに左右に取り囲んでいた5人もハヤトに顔を向けている。皆、唖然としてハヤトを凝視して、しばらく声が出ない。放り投げられた生徒は、2mほどもすっ飛び背中から落ちたが、それなりに受け身をして頭は守ったようだ。
取り囲んだ生徒は、いずれも大柄で髪はリーゼントスタイルであり、2人は眉を剃って格好をつけている。10秒ほどの後、中でも大柄な一人が、ハヤトに掴みかかろうとして叫ぶ。ハヤトは蹴られていた生徒の腕をとって横に並んでいる。
「なんだ、おめえは!喧嘩を売っているのか?」
精一杯すごんで、ハヤトに向かって叫ぶその姿が、散々魔族等の狂暴かつ強大な敵とやりあったハヤトからすれば、子犬がキャンキャン吠えているようで思わず笑いながら、掴みかかる手を払いのけながら言う。
「ああ、売っているよ。俺はハヤト、正義の味方だ。悪のチンピラを退治するぞ!」
レベルの違う力にその腕を払われた、その大柄な生徒は後ろにのけぞって倒れながら「うわあ!」と叫ぶ。
「ははは!大仰な奴だな。その程度で転ぶようならチンピラはやめた方がいいぞ」
全く緊張感なく、笑いながら言うハヤトの正面に最初に倒された生徒が起き上がって回り込み叫ぶが、彼も大柄でなかなかいい体をしている。
「この野郎、後ろから卑怯な野郎だ!」
やはり、ハヤトからすると子犬が騒いでいる程度にしか見えない。
「一人を大勢で取り囲んで、蹴りつけているようなチンピラに卑怯といわれるとはね。なかなか面白い価値観をしているな」
余裕でハヤトが言うのに対して殴りつけてくる。
そのこぶしをハヤトが掴み、力を強めながら引き寄せて言う。
「名前は?黙っているとこぶしが砕けるぞ」
そこに、先ほど腕を払われた生徒が起き上がって、やはり殴り付けてくるが、このこぶしもあっさりハヤトに捕まれる。
「痛い!放せ!放せ!」
2人とも振り払おうと暴れるが、ハヤトの腕はびくともしない。
「放してくださいだ。名前を言わないと握りつぶすぞ」
ハヤトが言うのに、「お前ら!こいつをやっつけろ」まだ仲間をたきつけているが、ハヤトは残り4人をにらんで、軽く威圧を使うと青くなって身動きがとれない。
ハヤトは更に握力を強める。
「痛い、痛い、放せ、いや放してください!」
2人は脂汗流してうめくように言う。
「名前と学年クラスは?」
「お、俺は岩田だ。2年3組だ」
「俺は2年3組の吉井だ」
厳しい顔になって、尋ねるハヤトに降参して2人とも答える。その名前を聞いた他の仲間を見ると、本当の名前と学年・クラスのようだ。
ハヤトは手を放して、彼を怯えて見ているその2人を加えた6人に向かって威圧を少し強めて加える。皆、顔色を変えて歯をがちがち鳴らしているが、彼らに言う。
「いいか、つまらんチンピラの真似はやめろ。もし、この生徒に再び手を出したら、どうなるかわかっているだろうな。君の名前は?」
「白石将司、彼らと同じ2年3組です」
色白の顔を紅潮させてはっきり答える。
「よし、携帯の番号を言ってくれ。俺の携帯からかけるので記録して何かあったら俺に連絡しろ」
このように、お互いの番号を交換した後、再度ハヤトは6人を見て言う。
「今見たように、もしお前らがちょっかいを出したら、おれに連絡が来る。しかし、お前らのチンピラの真似もお前らだけではやめられんだろう。どうせ、3年にボスがいるんだな?」
ハヤトの問いに、ずっと威圧をかけられて嘘を言う気力もない連中は必死に頷く。
「よし、明日放課後、そうだな。午後5時にもう一度ここに来る。お前らのボスでも何でも呼んで来い。相手をしてやる。俺は一人だ。わかったか?」
首をガクガクして頷く皆にそう言って、ようやく威圧を解く。
ハヤトは、「俺は、いまから教頭の田郷先生に約束があって会いに行く。お前ら白石君にちょっかいを出すんじゃないぞ。それではな!」そのように言い、6人のチンピラ学生をにらんで手を振って立ち去る。
それを見送る白石将司は複雑な心境だった。まだ、同級生に対するおびえは抜けないが、彼らが今去って行くハヤトに対して怯えているのは明らかだ。将司も、同級生の6人に向かった強烈な圧力のようなものは感じていたが、しびれるような恐怖は、自分に向かっていないことは感じ取れたため我慢ができた。
それと強烈に感じたハヤトの強さ。強いと思っていた同級生とは全く次元の違うもので、その身のこなし及び底の知れない速さとパワーは、おそらく同級生のチンピラ程度が100人いても歯が立たないことは明らかだ。
一方の自分は、ハヤトに比べれば全くの雑魚の同級生に、お金をせびり取られ続け、意を決して断ったらいいようにやられていた自分は何なのだ。
自らを振り返って、自己嫌悪を感じながら頭を振って教室に向かう。しかし、同級の不良グループが当面自分にちょっかいをかける度胸はないことは確かだと、その点は安心しながら歩く中さらに考える。
『明日ハヤトは実際に学校に来るだろうが、学校の不良グループのボスは地元の暴力団の幹部の息子であるが、木山というボスに収まっているあの不良少年では配下の不良を何人集めてもハヤトの相手にはならないだろう』
将司は、教頭の田郷先生に関しては、不良連中を出来るだけ何とかしようとしている少数の教師の一人と認識しているが、それだけに『田郷先生と知り合いであるハヤトが、このどうしょうもない中学校を何とかしてくれないかな』、と強く願わざるを得なかった。
ハヤトは、教頭室の表示を確認してノックする。
「はい、どうぞ入ってください」
中から2年間受け持ってもらった田郷先生の少し甲高い懐かしい声が聞こえる。
ハヤトはドアを開けて、大きな声で挨拶する。
「田郷先生、すっかり変わったと思いますが二宮ハヤトです。久しぶりです」
田郷先生は今年50歳、中肉中背で年なりに老けて白髪は増えているが優しい顔つきは変わらず、伸びた姿勢ときびきびした動作も変わっていない。
「お、おお、行方不明だった二宮君!」
田郷は驚いて立ちすくむが、やがて気を取り直してハヤトの腕を叩いて言う。
「随分、立派になったな。本当にスポーツマン体型と言うやつだな。まあ座ってください」
小さな応接セットのソファを勧め、自分も向かって座る。
その後、ハヤトは信じてはもらえないだろうなと思いながら、7年間の間の真実の話をして最後に締めくくった。「そういうことで、とりあえず、日本の常識のレベルを身に着けるため大検を受けようと思っています。ですから、試験がある8月まではその勉強を主にしようと思います」
田郷はやはり、ハヤトの話は信じ切れず微妙な顔をしていたがハヤトの最後の話には大いに同調する。
「おお、大検を受けるか。それはいいね。では大学を受けるのかな?」
「いえ、大学は少し時間を食いすぎるので、行かないつもりです。就職等はどうするか大検の勉強中にゆっくり考えます。ところで先生」
ハヤトは言って田郷の顔を見つつ続ける。
「どうもこの中学は、僕が中学の時の評判のままのようですね」
田郷はそれを聞いて困った顔で応じる。
「と言うことは、なにか見たのかな?」
「はい、2年生の男子生徒が暴力を振るわれていましたので、僕が止めましたが、どうも定常的にお金をせびり取られていたようですね」
ハヤトの言葉に田郷は天を仰いで言う。
「うーん、この中学はね。難しいなあ。暴力団の幹部とか言って、私たちを脅して来る父兄までいるからなあ。それで、暴力を振るわれていた生徒の名前は?お金を脅し取られるようならほおっておけない。何とかしたい」
それに対してハヤトが答える。
「生徒の名は、2年3組の白石と言っていましたね。相手は同級の者達ですが、彼らに関してはもう心配はないと思いますよ。がっちり脅しておきましたから」
その言葉に田郷は心配そうに言う。
「ええ!暴力をふるったのか?」
「暴力と言えば暴力ですか、蹴っていた生徒を放り投げて、殴りかかってきたこぶしを少し強めに握っただけです。誰もけがはしていません。言ったでしょう?私は異世界で最強だったのですよ。ここ地球はマナが非常に薄いのでそれほどの力は出ませんが、多分格闘技では私が世界最強ですね。ですから、中学生の不良程度は腕力を使うまでもなく威圧だけで十分です」
ハヤトが説明する。
「威圧?」田郷の問いに「やってみましょうか?ごく軽くですよ」
とハヤトは軽く田郷に向かって威圧をかける。瞬間田郷は「わ、わかった!止めてくれ」は小さく悲鳴のように言う。
「なるほど、これは凄いわ。中学生では耐えられないだろうな」
しみじみ言う田郷にハヤトは続ける。
「それで、どうせ2年だと3組の連中をおとなしくさせたところで、3年のボスがいるでしょうから、収まらないでしょう。それで、明日ボスを含めて不良連中を連れてくるように言っておきました。一生忘れられない位に、脅しあげてやりますよ。ところで先生、どうですか。さっき言った通り、僕はしばらく勉強するので、何でしたらこの学校で場所を借りてやってもいいですよ」
その言葉に田郷はしばし考え込みゆっくり口を開く。
「実際のところ、荒れた中学・高校に関して、われわれ教師のやれることは少ないのだよ。不良化している生徒自身の問題はあるが、将来に禍根が残るとしてもこれは自業自得の面があるが、それの何倍もの問題は普通の生徒なんだ。普通の生徒が暴力を振るわれる、金品は脅し取られる、それこそ女生徒は強姦されることさえある。
これに対して、教師は暴力を振るうことはできない。まあ大体は喧嘩慣れしている生徒に敵わないけれどね。この狭山第2中学校の状態は悪化の一途をたどっていて、毎年荒れる卒業式がどうなるか教師は戦々恐々のありさまだ。正直に言って、二宮君の申し出には引っかかる面はあるけれど非常にありがたい。
報酬はわずかしか出せないが、雑用係と言うことで当面来てもらえるかね。校長他に同意をとっておく。そうだね。ずっといる必要はないので、来る場合は朝10時から午後17時で、随時という所でどうだろう。本当の意味での不良生徒は朝早くは来ないからね」
「わかりました。明日はいずれにせよ来ますよ」
家から10㎞ほどもあるが、「ちょうどいい散歩コースだよ」と最寄りの量販店で買ったラフなズボンにシャツで軽く走っていく。彼が日本に出現して3日目であるが、すでに人眼を避けて魔法能力のチェックは済ませてある。
マナの濃度が低い影響はやはり大きく、身体強化は使えるが、その度合いはラーナラの半分程度である。とは言え、半分と言っても全力で走れば100mを5秒程度、長距離もマラソンの距離を40分程度で走り、垂直に5mは跳べる。残念ながら、収納や瞬間移動など空間魔法は使えず、火魔法、水魔法、風魔法もいずれもかってに比べ1/10以下の能力しか発揮できない。
一方で、知覚系の魔法は距離、展開速度とも大幅に上昇しているが、これはマナ濃度の大幅な低下に伴ういわば“見晴らし”の良さによるものと考えている。いずれにせよ、戦闘能力は大幅に低下しているわけだが、魔獣、魔族や魔王がいる訳でなく、平和な日本では問題ないと考えているハヤトである。
狭山第2中学校は利根市でもいわば下町にある中学であり、ハヤトが日本に居る頃から柄の悪いことで有名な学校である。だから、母も教頭の立場になった田郷先生が苦労しているのではないかと気づかっていた。あたりの町並みは、新興住宅地であるハヤトの家のある地区に比べると道幅も狭く、比較的小さい家とアパートが入り混じったものになっている。
目立たない程度ということで、約40分で10㎞を駆け抜けたハヤトは、変哲のない中学校の正門のネームプレートを確認して、校内の敷地に踏み込んだ。丁度休み時間らしく、校庭には大勢の生徒が出ているが、校庭脇や校舎の前にたむろしている者が多い。
ハヤトは校舎の造りから、職員室の位置を推定してその方向にゆったりと歩いていくが、大勢の生徒の視線を集めているのに気がつかざるを得なかった。それは、勇者、戦闘の王者としての隠すことのできない覇気が発していることによるもので、ラーナラでもハヤトのことを知らない人ごみを歩いていても、自然に人々はその道を空ける。
「うん!」ハヤトは目の隅に気になるものを感じてそちらを見る。
それは、校舎のくぼみになった人眼に付きにくい位置で、学生服を着た数人が固まっているが、一人が向かいの者の首をつかんで腹に蹴り込んでいる。
「つべこべ言わず。出すものを出せ!」蹴っている者が低い声に言っているのがはっきり聞こえる。ハヤトは10mほどの距離をあっという間に駆け寄り、まだ相手の首をつかんでいる襟首を片手で掴み、片手で向かいの者の首に巻いている手を跳ね上げて、掴んでいる襟首を後ろに放り投げる。
そこには、色の白い小柄な生徒がまだ少しかがんだ姿勢で、顔を上げてハヤトを見上げており、さらに左右に取り囲んでいた5人もハヤトに顔を向けている。皆、唖然としてハヤトを凝視して、しばらく声が出ない。放り投げられた生徒は、2mほどもすっ飛び背中から落ちたが、それなりに受け身をして頭は守ったようだ。
取り囲んだ生徒は、いずれも大柄で髪はリーゼントスタイルであり、2人は眉を剃って格好をつけている。10秒ほどの後、中でも大柄な一人が、ハヤトに掴みかかろうとして叫ぶ。ハヤトは蹴られていた生徒の腕をとって横に並んでいる。
「なんだ、おめえは!喧嘩を売っているのか?」
精一杯すごんで、ハヤトに向かって叫ぶその姿が、散々魔族等の狂暴かつ強大な敵とやりあったハヤトからすれば、子犬がキャンキャン吠えているようで思わず笑いながら、掴みかかる手を払いのけながら言う。
「ああ、売っているよ。俺はハヤト、正義の味方だ。悪のチンピラを退治するぞ!」
レベルの違う力にその腕を払われた、その大柄な生徒は後ろにのけぞって倒れながら「うわあ!」と叫ぶ。
「ははは!大仰な奴だな。その程度で転ぶようならチンピラはやめた方がいいぞ」
全く緊張感なく、笑いながら言うハヤトの正面に最初に倒された生徒が起き上がって回り込み叫ぶが、彼も大柄でなかなかいい体をしている。
「この野郎、後ろから卑怯な野郎だ!」
やはり、ハヤトからすると子犬が騒いでいる程度にしか見えない。
「一人を大勢で取り囲んで、蹴りつけているようなチンピラに卑怯といわれるとはね。なかなか面白い価値観をしているな」
余裕でハヤトが言うのに対して殴りつけてくる。
そのこぶしをハヤトが掴み、力を強めながら引き寄せて言う。
「名前は?黙っているとこぶしが砕けるぞ」
そこに、先ほど腕を払われた生徒が起き上がって、やはり殴り付けてくるが、このこぶしもあっさりハヤトに捕まれる。
「痛い!放せ!放せ!」
2人とも振り払おうと暴れるが、ハヤトの腕はびくともしない。
「放してくださいだ。名前を言わないと握りつぶすぞ」
ハヤトが言うのに、「お前ら!こいつをやっつけろ」まだ仲間をたきつけているが、ハヤトは残り4人をにらんで、軽く威圧を使うと青くなって身動きがとれない。
ハヤトは更に握力を強める。
「痛い、痛い、放せ、いや放してください!」
2人は脂汗流してうめくように言う。
「名前と学年クラスは?」
「お、俺は岩田だ。2年3組だ」
「俺は2年3組の吉井だ」
厳しい顔になって、尋ねるハヤトに降参して2人とも答える。その名前を聞いた他の仲間を見ると、本当の名前と学年・クラスのようだ。
ハヤトは手を放して、彼を怯えて見ているその2人を加えた6人に向かって威圧を少し強めて加える。皆、顔色を変えて歯をがちがち鳴らしているが、彼らに言う。
「いいか、つまらんチンピラの真似はやめろ。もし、この生徒に再び手を出したら、どうなるかわかっているだろうな。君の名前は?」
「白石将司、彼らと同じ2年3組です」
色白の顔を紅潮させてはっきり答える。
「よし、携帯の番号を言ってくれ。俺の携帯からかけるので記録して何かあったら俺に連絡しろ」
このように、お互いの番号を交換した後、再度ハヤトは6人を見て言う。
「今見たように、もしお前らがちょっかいを出したら、おれに連絡が来る。しかし、お前らのチンピラの真似もお前らだけではやめられんだろう。どうせ、3年にボスがいるんだな?」
ハヤトの問いに、ずっと威圧をかけられて嘘を言う気力もない連中は必死に頷く。
「よし、明日放課後、そうだな。午後5時にもう一度ここに来る。お前らのボスでも何でも呼んで来い。相手をしてやる。俺は一人だ。わかったか?」
首をガクガクして頷く皆にそう言って、ようやく威圧を解く。
ハヤトは、「俺は、いまから教頭の田郷先生に約束があって会いに行く。お前ら白石君にちょっかいを出すんじゃないぞ。それではな!」そのように言い、6人のチンピラ学生をにらんで手を振って立ち去る。
それを見送る白石将司は複雑な心境だった。まだ、同級生に対するおびえは抜けないが、彼らが今去って行くハヤトに対して怯えているのは明らかだ。将司も、同級生の6人に向かった強烈な圧力のようなものは感じていたが、しびれるような恐怖は、自分に向かっていないことは感じ取れたため我慢ができた。
それと強烈に感じたハヤトの強さ。強いと思っていた同級生とは全く次元の違うもので、その身のこなし及び底の知れない速さとパワーは、おそらく同級生のチンピラ程度が100人いても歯が立たないことは明らかだ。
一方の自分は、ハヤトに比べれば全くの雑魚の同級生に、お金をせびり取られ続け、意を決して断ったらいいようにやられていた自分は何なのだ。
自らを振り返って、自己嫌悪を感じながら頭を振って教室に向かう。しかし、同級の不良グループが当面自分にちょっかいをかける度胸はないことは確かだと、その点は安心しながら歩く中さらに考える。
『明日ハヤトは実際に学校に来るだろうが、学校の不良グループのボスは地元の暴力団の幹部の息子であるが、木山というボスに収まっているあの不良少年では配下の不良を何人集めてもハヤトの相手にはならないだろう』
将司は、教頭の田郷先生に関しては、不良連中を出来るだけ何とかしようとしている少数の教師の一人と認識しているが、それだけに『田郷先生と知り合いであるハヤトが、このどうしょうもない中学校を何とかしてくれないかな』、と強く願わざるを得なかった。
ハヤトは、教頭室の表示を確認してノックする。
「はい、どうぞ入ってください」
中から2年間受け持ってもらった田郷先生の少し甲高い懐かしい声が聞こえる。
ハヤトはドアを開けて、大きな声で挨拶する。
「田郷先生、すっかり変わったと思いますが二宮ハヤトです。久しぶりです」
田郷先生は今年50歳、中肉中背で年なりに老けて白髪は増えているが優しい顔つきは変わらず、伸びた姿勢ときびきびした動作も変わっていない。
「お、おお、行方不明だった二宮君!」
田郷は驚いて立ちすくむが、やがて気を取り直してハヤトの腕を叩いて言う。
「随分、立派になったな。本当にスポーツマン体型と言うやつだな。まあ座ってください」
小さな応接セットのソファを勧め、自分も向かって座る。
その後、ハヤトは信じてはもらえないだろうなと思いながら、7年間の間の真実の話をして最後に締めくくった。「そういうことで、とりあえず、日本の常識のレベルを身に着けるため大検を受けようと思っています。ですから、試験がある8月まではその勉強を主にしようと思います」
田郷はやはり、ハヤトの話は信じ切れず微妙な顔をしていたがハヤトの最後の話には大いに同調する。
「おお、大検を受けるか。それはいいね。では大学を受けるのかな?」
「いえ、大学は少し時間を食いすぎるので、行かないつもりです。就職等はどうするか大検の勉強中にゆっくり考えます。ところで先生」
ハヤトは言って田郷の顔を見つつ続ける。
「どうもこの中学は、僕が中学の時の評判のままのようですね」
田郷はそれを聞いて困った顔で応じる。
「と言うことは、なにか見たのかな?」
「はい、2年生の男子生徒が暴力を振るわれていましたので、僕が止めましたが、どうも定常的にお金をせびり取られていたようですね」
ハヤトの言葉に田郷は天を仰いで言う。
「うーん、この中学はね。難しいなあ。暴力団の幹部とか言って、私たちを脅して来る父兄までいるからなあ。それで、暴力を振るわれていた生徒の名前は?お金を脅し取られるようならほおっておけない。何とかしたい」
それに対してハヤトが答える。
「生徒の名は、2年3組の白石と言っていましたね。相手は同級の者達ですが、彼らに関してはもう心配はないと思いますよ。がっちり脅しておきましたから」
その言葉に田郷は心配そうに言う。
「ええ!暴力をふるったのか?」
「暴力と言えば暴力ですか、蹴っていた生徒を放り投げて、殴りかかってきたこぶしを少し強めに握っただけです。誰もけがはしていません。言ったでしょう?私は異世界で最強だったのですよ。ここ地球はマナが非常に薄いのでそれほどの力は出ませんが、多分格闘技では私が世界最強ですね。ですから、中学生の不良程度は腕力を使うまでもなく威圧だけで十分です」
ハヤトが説明する。
「威圧?」田郷の問いに「やってみましょうか?ごく軽くですよ」
とハヤトは軽く田郷に向かって威圧をかける。瞬間田郷は「わ、わかった!止めてくれ」は小さく悲鳴のように言う。
「なるほど、これは凄いわ。中学生では耐えられないだろうな」
しみじみ言う田郷にハヤトは続ける。
「それで、どうせ2年だと3組の連中をおとなしくさせたところで、3年のボスがいるでしょうから、収まらないでしょう。それで、明日ボスを含めて不良連中を連れてくるように言っておきました。一生忘れられない位に、脅しあげてやりますよ。ところで先生、どうですか。さっき言った通り、僕はしばらく勉強するので、何でしたらこの学校で場所を借りてやってもいいですよ」
その言葉に田郷はしばし考え込みゆっくり口を開く。
「実際のところ、荒れた中学・高校に関して、われわれ教師のやれることは少ないのだよ。不良化している生徒自身の問題はあるが、将来に禍根が残るとしてもこれは自業自得の面があるが、それの何倍もの問題は普通の生徒なんだ。普通の生徒が暴力を振るわれる、金品は脅し取られる、それこそ女生徒は強姦されることさえある。
これに対して、教師は暴力を振るうことはできない。まあ大体は喧嘩慣れしている生徒に敵わないけれどね。この狭山第2中学校の状態は悪化の一途をたどっていて、毎年荒れる卒業式がどうなるか教師は戦々恐々のありさまだ。正直に言って、二宮君の申し出には引っかかる面はあるけれど非常にありがたい。
報酬はわずかしか出せないが、雑用係と言うことで当面来てもらえるかね。校長他に同意をとっておく。そうだね。ずっといる必要はないので、来る場合は朝10時から午後17時で、随時という所でどうだろう。本当の意味での不良生徒は朝早くは来ないからね」
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中学1年生の僕の頭に、異世界の大賢者と自称する霊?が住み着いてしまった。彼は魔法文明が栄える世界で最も尊敬されていた人物だという。しかし、考えを共有する形になった僕は、深く広い知識は認めるけど彼がそんな高尚な人物には思えない。とは言え、偉人と言われた人々もそんなものかもしれないけどね。
僕は彼に鍛えられて、ぽっちゃりだった体は引き締まったし、勉強も含めて能力は上がっていったし、そして魔法を使えるようになった。だけど、重要なのはそこでなくて、魔法に目覚めるための“処方”であり、異世界で使っている魔道具なんだよ。
“処方”によって、人は賢くなる。そして、魔道具によって機械はずっと効率が良くなるんだ。例えば、発電所は電子を引き出す魔道具でいわば永久機関として働く。自動車は電気を動力として回転の魔道具で動くのだ。これを、賢くなった人々が作り、使うわけだから、地球上の温暖化とエネルギーの問題も解決するよね。
そして、日本がさらに世界の仕組みがどんどん変わっていくのだけど、その中心に大賢者が取り憑いた僕がいるんだよ。僕はもう少しのんびりしたいのだけどね。
Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜
華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日
この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。
札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。
渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。
この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。
一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。
そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。
この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。
この作品はフィクションです。
実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。
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