新夢十夜

赤松帝

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第六夜

ミオクローヌス症候群

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こんな夢を見た。
私は日中の暑いさなか田舎道をとぼとぼ歩いていた。
やけに喉が渇いていたのを憶えている。
天の一番高いところに昇った太陽の日差しに照らされて、真っ黒な影法師も短く縮こまっていた。
騒々しく競い合う様に鳴くあぶら蝉どもの声が、余計に暑さを増幅している。
私はどこへゆこうとしているのか、頭が朦朧としてよく判らない。
先へ続く道の向こう側へと目をこらすと、遠くにゆらゆらした陽炎だけが立ち上って見えた。
ああもう一歩も歩きたくない。
そんな考えが頭に過った途端、眩暈がしてきて前へ倒れこんだ。


その時突然、私はビクッとして目を覚ました。


私は天空に張られた一本の綱の上に佇んでいた。
私は綱渡りの大道芸人で、まさしく今はその芸の真っ最中で、次の一歩を踏み出していた。


本日は真夏日のため、熱中症には十分ご注意下さい。

そういえば朝のニュース番組で、さわやかな笑顔の気象予報士が私に向かってこう語りかけていた。


思い出すと同時に、よろけた一歩は綱を踏み外し、私の身体は真っ逆さまに墜ち始めた。
下からこちらを不安そうに見上げていた観客が、一様に間抜けな大口を開けたのが、なんだかとても滑稽で可笑しかった。

これが死ぬ前の私の最期の記憶か・・・。


そんな考えが頭を過った瞬間、私はビクッとして目を覚ました。


私は東京スカイツリーの展望台の外で大きな窓を拭いていた。


 
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