午前零時のタイムループ

赤松帝

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-2日目-

「リプレイ」

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幾つかの違和感をやり過ごしながら、これはやっぱりどうにもおかしい。そう本格的に意識して、疑心が確信に変わったのは、冒頭の課長の書類の件での同僚とのやりとりからだった。


「川上さん、井ノ上課長が昨日頼んでおいた書類、どうしたって君のことを探してたよ。」

「もう沢井くん悪い冗談止めてよ。昨日たっぷりお小言もらったばかりなんだから。」

「え?そうなのかい?よく解らないけど、課長はまだ君のこと探し回ってたぜ。午後一にFAXしなきゃどうとかってさ。」

「エ?あらそう。変ね?」

「無い無いって騒いでたよ。また例の自分で何処かへ置いちゃった病かも知れないけどな(笑)」

“あれ?この台詞昨日と同じだ。”

「・・・そうね。どうもありがとう。」

「どう致しまして。きっと課長にはどこかに物を隠しちまう小人でも憑いてるんだよ。」

“この台詞も一言一句変わらず、昨日彼から聞いた。”

「・・・そうかもね。」

「それじゃ。俺も休憩入るとするかな。」

「いってらっしゃい。」

どうやら沢井が悪ふざけをしている訳ではないみたいだ。沢井と別れた後、確かめるつもりで、その脚で井ノ上課長の所へと向かう事にした。


「井ノ上課長、お呼びでしょうか?」

「川上くん困るよ!大事な書類を渡す前に食事に行っちゃ。午後一にお得意さんにFAXするって言っちゃってあるんだからさ!」
課長の第一声は、やはり昨日と同じだ。

「申し訳ありません。昨夜の内に仕上げて書類ケースにしまっておいたのですけど。」

「さっき見てみたけど無かったよ。ホラね?」
課長がもう一度書類入れの一番上の棚をを開ける。

「本当ですね。もしかしたら、誤って二段目に入れてしまったのかも知れません。」

「本当かい?あっ在った!在ったよ!」
課長が上から二段目の棚を開くと、やはりくだんのルーズリーフは、一番上に鎮座していた。

「わたしの不注意でした。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」
わたしは言い訳する事なく、課長にしっかりと謝罪した。

「いやいや僕の方も下までちゃんと見ておけば良かったんだ。すまなかったね。先方には、1時間だけ待ってもらってあるから安心していいよ。」

「ハイ。以後気をつけます。大変申し訳ありませんでした。」
わたしは重ね重ね頭を下げた。課長はというと、昨日の様子とは打って変わって、口笛まで吹き始めながらFAX送信に取り掛かっていた。



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