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44 王との出会い5
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「目を閉じぬのか」
オーさんは鼻で笑った。
どうにもこのオーさんの言葉は語尾が分かりづらい。だがそんなことを言っていられる状況ではないというのは分かっている。とりあえず、この偉そうな感じからして命令だろう。目を閉じた。苛立たし気な舌打ちが聞こえた。
「目を開けろ」
今度は非常に分かりやすかった。はい、と目を開ければ目の前に剣。言葉が分からなくても非常に分かりやすい暴力だった。古今東西こういうのは脅しか隠蔽と決まっている。もし、アスタを殺したのがオーさんの命令だったのなら……。目撃者の口封じ一択だ。だが、オーさんはすぐに私をどうこうするつもりはないらしい。顔先で剣を弄んでいるけどそれだけだ。日々、抜け道を探す弱者の生存本能をなめてもらっては困る。強者の本気というのはなんとなくわかるのだ。もちろん侮れば即座に踏みつぶされるが。
それに今は私も怒っているのだ。こんな世界で、優しくしてくれた人を殺されて、アリんこ以下の私にも怒りはあるのだ。もし、オーさんがアスタの味方なら協力するのにやぶさかではない。そんなこと言った瞬間に刺身になりそうなので言えないが。
「剣をつきつけられて命乞い一つしないとはなかなか肝は据わっているようだな」
問題はそれをどう見極めるかということだ。信じられる人間なのか。味方なのか。敵なのか。
日常会話もままならない私に、彼らの言葉から嘘を見極められるとは思わない。それでも、何もしないままで済ますことはできない。
それならば――。
考えがまとまる前にオーさんの後ろから現れたミヨナに勢いよく二の腕を掴まれた。
「あなたはアスタが死んだとき一緒にいたのですか?」
「痛い!」
体を前後に揺すられる。
「教えてください、アスタはどうして死んだのですか?」
どうして?不思議なことをきく。アスタは死んで、当然、あの兵たちから報告が上がっているはずだ。オーさんがアスタの首を晒したのだから。それなのにどうしてこんなにこの人たちは必死なのだ。ミヨナはさらに何かを言い募った。言葉は分からない。だけど、涙で濡れる彼女の中には確かにアスタへの愛を感じた。悲しいはなんて言うのか分からないけれど、それでもぶつけられる感情はアスタの死に私が感じた感情と同じだった。それなら伝えなければ。
「て……」
オーさんと目があった。黒い瞳は冷徹に光、獲物が弱り音を上げるのをまつ肉食獣そのものだった。片方が冷徹に、片方が温情を示す。尋問の常套手段じゃないか。とっさに「手紙がある」続けるはずの言葉を飲み込んだ。二人はぐるなのか。私に抱き着くミヨナの熱い体温すら冷たく感じた。
「て?」
オーさんは舌なめずりでもしそうに目を細めると、ミヨナの肩を掴んで私の前からどかした。
そうだ、ここは日本じゃない。知らないふりで逃げるのがいい。言葉が分からない外国人なのだ。だが目の前の男はそんな言い訳が通じないだろうというのも分かった。きっと迷わずあの剣で胸をどすんとやるはずだ。ぐるぐると思考が巡る。
「て?」
オーさんはもう一度いうと、鞘で私の顎をくいっとやった。こんなに命の危険を感じる顎くいもないだろう。
「一応お前のことはアスタから聞いている。正直に言うのなら命は見逃してやってもいい」
前半しかわからなかった。何?と聞きたい。とても聞きたい。だが私は空気の読める日本人だ。たぶん聞いたらあの世行きだろうというのも分かった。
「手紙がある」と言いたくなかった。て、から始まる言葉を必死で探す。て、て、て、て。
たぶん、剣を突き付けられすぎて少々頭がおかしくなっていたのだと思う。
「手伝い、です。私、アスタ」
アスタは私のセドを手伝ってくれたのです。胸を張った。縛られたままなので張ったと言えるのかは微妙だが。これなら一応事実だ。万が一調べられても問題ない。アスタが私のセドを手伝ってくれたことなら聞き込みをすれば分かる。祈るような気持ちでじっと目の前の二人を見る。何かを吟味するように考えると、オーさんはミヨナを見た。
「なるほど、お前はアスタの手伝いをしていたのか」
うん?なんか違うような。だが何が違うのかよく分からない。オーさんは続ける。
「ならば、今日からは私の手足となれ」
オーさんがミヨナを見ると、ミヨナは縄をほどいてくれた。体を起こされる。
「はい、私、手伝いです。アスタ」
なんだ?これは帰っていいということか。状況はよくわからないが解放してくれると言うのなら願ってもいない。ぺこりと一応頭を下げ、外へと向かう。どこかは分からないがさっさとこの場を離れよう。
「どこへ行く」
首根っこを掴まれた。お肉様だってこんな乱暴に掴んだりしない。
「私、帰ります」
「どうやらよくわかっていないようだな。お前がアスタを手伝っていたというのならば、アスタがいない今アスタの上官である私の指揮下にあるということだ」
「つまり?」
これを言うといろんな言葉が短くなる便利な言葉だ。
「命令をきけ」
これは分かった。私はまっすぐにオーさんを見る。どこをどうなってそういう理屈になったのか非常になぞだった。
申し訳ありませんがお断りします。
「いや、です」
一応偉い人だから丁寧に頭を下げた。とても上手に断れたと顔を上げれば、
「なに」
オーさんの目が爛々と輝いていた。なぜだ。なぜ怒っている。謎だ。おずおずと後ずさりする。
「あ、ありがとござ」
言うや否や、窓から逃げる。アスタのためにとか思っていたことは頭の中から飛んでいた。恐怖からの反射だった。待て、と聞こえたが待つはずがない。
獰猛な動物に襲い掛かられようとしているのだ。足があって逃げられる小動物として当然の行動だと主張したい。王家の森なら、こっちに分がある。とにかくあのぴりぴりした空気から離れるのだ。お肉様のとこまでいけばなんとかなるはずだ。
オーさんは鼻で笑った。
どうにもこのオーさんの言葉は語尾が分かりづらい。だがそんなことを言っていられる状況ではないというのは分かっている。とりあえず、この偉そうな感じからして命令だろう。目を閉じた。苛立たし気な舌打ちが聞こえた。
「目を開けろ」
今度は非常に分かりやすかった。はい、と目を開ければ目の前に剣。言葉が分からなくても非常に分かりやすい暴力だった。古今東西こういうのは脅しか隠蔽と決まっている。もし、アスタを殺したのがオーさんの命令だったのなら……。目撃者の口封じ一択だ。だが、オーさんはすぐに私をどうこうするつもりはないらしい。顔先で剣を弄んでいるけどそれだけだ。日々、抜け道を探す弱者の生存本能をなめてもらっては困る。強者の本気というのはなんとなくわかるのだ。もちろん侮れば即座に踏みつぶされるが。
それに今は私も怒っているのだ。こんな世界で、優しくしてくれた人を殺されて、アリんこ以下の私にも怒りはあるのだ。もし、オーさんがアスタの味方なら協力するのにやぶさかではない。そんなこと言った瞬間に刺身になりそうなので言えないが。
「剣をつきつけられて命乞い一つしないとはなかなか肝は据わっているようだな」
問題はそれをどう見極めるかということだ。信じられる人間なのか。味方なのか。敵なのか。
日常会話もままならない私に、彼らの言葉から嘘を見極められるとは思わない。それでも、何もしないままで済ますことはできない。
それならば――。
考えがまとまる前にオーさんの後ろから現れたミヨナに勢いよく二の腕を掴まれた。
「あなたはアスタが死んだとき一緒にいたのですか?」
「痛い!」
体を前後に揺すられる。
「教えてください、アスタはどうして死んだのですか?」
どうして?不思議なことをきく。アスタは死んで、当然、あの兵たちから報告が上がっているはずだ。オーさんがアスタの首を晒したのだから。それなのにどうしてこんなにこの人たちは必死なのだ。ミヨナはさらに何かを言い募った。言葉は分からない。だけど、涙で濡れる彼女の中には確かにアスタへの愛を感じた。悲しいはなんて言うのか分からないけれど、それでもぶつけられる感情はアスタの死に私が感じた感情と同じだった。それなら伝えなければ。
「て……」
オーさんと目があった。黒い瞳は冷徹に光、獲物が弱り音を上げるのをまつ肉食獣そのものだった。片方が冷徹に、片方が温情を示す。尋問の常套手段じゃないか。とっさに「手紙がある」続けるはずの言葉を飲み込んだ。二人はぐるなのか。私に抱き着くミヨナの熱い体温すら冷たく感じた。
「て?」
オーさんは舌なめずりでもしそうに目を細めると、ミヨナの肩を掴んで私の前からどかした。
そうだ、ここは日本じゃない。知らないふりで逃げるのがいい。言葉が分からない外国人なのだ。だが目の前の男はそんな言い訳が通じないだろうというのも分かった。きっと迷わずあの剣で胸をどすんとやるはずだ。ぐるぐると思考が巡る。
「て?」
オーさんはもう一度いうと、鞘で私の顎をくいっとやった。こんなに命の危険を感じる顎くいもないだろう。
「一応お前のことはアスタから聞いている。正直に言うのなら命は見逃してやってもいい」
前半しかわからなかった。何?と聞きたい。とても聞きたい。だが私は空気の読める日本人だ。たぶん聞いたらあの世行きだろうというのも分かった。
「手紙がある」と言いたくなかった。て、から始まる言葉を必死で探す。て、て、て、て。
たぶん、剣を突き付けられすぎて少々頭がおかしくなっていたのだと思う。
「手伝い、です。私、アスタ」
アスタは私のセドを手伝ってくれたのです。胸を張った。縛られたままなので張ったと言えるのかは微妙だが。これなら一応事実だ。万が一調べられても問題ない。アスタが私のセドを手伝ってくれたことなら聞き込みをすれば分かる。祈るような気持ちでじっと目の前の二人を見る。何かを吟味するように考えると、オーさんはミヨナを見た。
「なるほど、お前はアスタの手伝いをしていたのか」
うん?なんか違うような。だが何が違うのかよく分からない。オーさんは続ける。
「ならば、今日からは私の手足となれ」
オーさんがミヨナを見ると、ミヨナは縄をほどいてくれた。体を起こされる。
「はい、私、手伝いです。アスタ」
なんだ?これは帰っていいということか。状況はよくわからないが解放してくれると言うのなら願ってもいない。ぺこりと一応頭を下げ、外へと向かう。どこかは分からないがさっさとこの場を離れよう。
「どこへ行く」
首根っこを掴まれた。お肉様だってこんな乱暴に掴んだりしない。
「私、帰ります」
「どうやらよくわかっていないようだな。お前がアスタを手伝っていたというのならば、アスタがいない今アスタの上官である私の指揮下にあるということだ」
「つまり?」
これを言うといろんな言葉が短くなる便利な言葉だ。
「命令をきけ」
これは分かった。私はまっすぐにオーさんを見る。どこをどうなってそういう理屈になったのか非常になぞだった。
申し訳ありませんがお断りします。
「いや、です」
一応偉い人だから丁寧に頭を下げた。とても上手に断れたと顔を上げれば、
「なに」
オーさんの目が爛々と輝いていた。なぜだ。なぜ怒っている。謎だ。おずおずと後ずさりする。
「あ、ありがとござ」
言うや否や、窓から逃げる。アスタのためにとか思っていたことは頭の中から飛んでいた。恐怖からの反射だった。待て、と聞こえたが待つはずがない。
獰猛な動物に襲い掛かられようとしているのだ。足があって逃げられる小動物として当然の行動だと主張したい。王家の森なら、こっちに分がある。とにかくあのぴりぴりした空気から離れるのだ。お肉様のとこまでいけばなんとかなるはずだ。
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