18 / 70
18 はじめてのセド5
しおりを挟む
ものすごい勢いで二人同時に何事かまくしたて始めた。速すぎる。しばらくぼーっと聞き流すワラビの声がさらに大きくなった。
「ワラビブタ、早いない。ゆっくり、しゃべれ!」
ワラビブタはまずそうだな。首を振ると、ワラビが膝をついて、私の両肩をがしっと掴んだ。
「いいですか、ハル。私はハルが好きです」
「私、知っている」
私は頷く。ハルが私を好きなのは分かっているが、ご主人様に仕えるだけではなく、友達ないしは恋人がいたってよいと思うのだ。
「知っているのに、私を好きだという人間を連れてきたというのですか。あなたは私の伴侶なのです。あなたが分からなくとも」
ワラビは泣き出した。
「よいですか、私はハル以外いらないのです」
切々となにやら訴えられる。以外というのがいまいちよく理解できない。
「わーらーび、泣き虫だ」
仕方ないので、頭をぽんぽんと撫でてやりながら、ごめんねの気持ちを込めて男を見上げれば、残念なものを見るような目で見られていた。
そう、ワラビは残念なヤツなのだ。分かるぞ、と頷けば、男はさらにダメな子を見る目で私を見て首を振った。
あれ、もしかしてこれは私がまたなにか間違えたのだろうか。間違いだらけの人生なので、いまさら間違いが一つ二つ増えたところでどうっていうことはないのだが、意思疎通の段階での間違いとなると、対処の仕様もない。
どうしよう、困っていると男が呆れたように口を開いた。
「おい、一応言っておくが、俺はこいつのセドの後見としてついてきただけだ。サイタリ族の伴侶に手出すつもりも、男に好意も微塵もないからな。それから、俺の名前はブロード・タヒュウズ。ブラッデンサ商会の会頭だ。ブタではない」
最後の一言にワラビが私の肩でくすっと笑った。見とれるような仕草でハンカチを出すと、涙をぬぐい、顔を上げた。
「ワリュランス・ビュナウゼルです。私もワラビではありません。それで後見とは?」
「リドゥナの申請で総史庁のやつを困らせていたからな」
男が私を見た。ワラビは男が何をいったのか分からないが、嫌悪感はないみたいだ。これはお友達作戦継続でよいのではないか。
となれば私は邪魔ものだ。
「ワラビ、私、セドとるした」
とりあえず報告すると、二人から少し離れた日向ぼっこ用の樽の上に腰かけた。
後は二人で交友を深めてくれたらいい。
私が離れれば二人は話し始めた。違うと言っていたが、なかなかどうしてよいのではないか。ワラビの友達になるのではないだろうか。年のころも同じくらいだ。
「どうしてですか。きちんと身分証も作りましたが」
「そりゃ、偽名じゃダメだろう」
ワラビが困ったようにこっちを見た。呼ばれている感じでもないので、足をぷらぷらさせながら空を見上げた。いい感じの雲の塩梅の青空だ。わたあめが食べたくなってくる。
「本名、なのか?」
「いえ、そういうわけでは。ハル、名前言えますか」
「ハル・ヨッカーです」
名前をきかれたので答えれば首を振られた。
「本当の名前、最初に教えてくれた名前です」
言えないのにどうして知りたいのか。ワラビは謎だ。
「楠木小春」
「くしゅーのく」
男はワラビよりダメダメだった。残念なヤツと思ったがもちろん私は顔には出さない。良識ある大人だ。名前の一つや二つ言えなくても許すだけの心はある。ち、なんて舌打ちはしない。しないったらしない。さみしいなんても思わない。うん。
「どうにも発音が難しくて、言いやすい名前にするといって……。」
「だからってなぜハル・ヨッカー?」
今度は男がこっちをまじまじと見た。私の話題なのだろうか。セドの話かと思っていたが。もしくは連絡先交換とか。
「誰にでも間違われない、知られている名前ということで。まさか本当にそれにするとは思わずに」
呆れた風の男にワラビはなんだか気まずそうだ。
「まあいい。名前のせいで不審がられてリドゥナの受理がされていなかったから、一応俺が後見になっておいた。浮浪児に見えたからよけいに誰かに操られているのじゃないかと思われたんだろ。一応確認したし、総史庁の方には俺から届け出ておくから」
「ありがとうございます。そこまでしていただかなくても」
ワラビは丁寧に頭を下げた。いい感じだ。
「気にするな。人助けは趣味みたいなもんだしな。セドの後の手順は分かるな?もしなんかあればいつでもブラッデンサ商会に来い」
男はじゃあな、というと去っていこうとする。
私はハルの横に立つと頭を下げた。挨拶は大人の基本だ。おう、と男前な返事だった。男が背をむけたので、ワラビの服の裾を引っ張った。
「ワラビブタ仲良し?」
「違う!」
背を向けかけた男と、ワラビの声が重なった。仲良しでよいのではないかと思う。
「ワラビブタ、早いない。ゆっくり、しゃべれ!」
ワラビブタはまずそうだな。首を振ると、ワラビが膝をついて、私の両肩をがしっと掴んだ。
「いいですか、ハル。私はハルが好きです」
「私、知っている」
私は頷く。ハルが私を好きなのは分かっているが、ご主人様に仕えるだけではなく、友達ないしは恋人がいたってよいと思うのだ。
「知っているのに、私を好きだという人間を連れてきたというのですか。あなたは私の伴侶なのです。あなたが分からなくとも」
ワラビは泣き出した。
「よいですか、私はハル以外いらないのです」
切々となにやら訴えられる。以外というのがいまいちよく理解できない。
「わーらーび、泣き虫だ」
仕方ないので、頭をぽんぽんと撫でてやりながら、ごめんねの気持ちを込めて男を見上げれば、残念なものを見るような目で見られていた。
そう、ワラビは残念なヤツなのだ。分かるぞ、と頷けば、男はさらにダメな子を見る目で私を見て首を振った。
あれ、もしかしてこれは私がまたなにか間違えたのだろうか。間違いだらけの人生なので、いまさら間違いが一つ二つ増えたところでどうっていうことはないのだが、意思疎通の段階での間違いとなると、対処の仕様もない。
どうしよう、困っていると男が呆れたように口を開いた。
「おい、一応言っておくが、俺はこいつのセドの後見としてついてきただけだ。サイタリ族の伴侶に手出すつもりも、男に好意も微塵もないからな。それから、俺の名前はブロード・タヒュウズ。ブラッデンサ商会の会頭だ。ブタではない」
最後の一言にワラビが私の肩でくすっと笑った。見とれるような仕草でハンカチを出すと、涙をぬぐい、顔を上げた。
「ワリュランス・ビュナウゼルです。私もワラビではありません。それで後見とは?」
「リドゥナの申請で総史庁のやつを困らせていたからな」
男が私を見た。ワラビは男が何をいったのか分からないが、嫌悪感はないみたいだ。これはお友達作戦継続でよいのではないか。
となれば私は邪魔ものだ。
「ワラビ、私、セドとるした」
とりあえず報告すると、二人から少し離れた日向ぼっこ用の樽の上に腰かけた。
後は二人で交友を深めてくれたらいい。
私が離れれば二人は話し始めた。違うと言っていたが、なかなかどうしてよいのではないか。ワラビの友達になるのではないだろうか。年のころも同じくらいだ。
「どうしてですか。きちんと身分証も作りましたが」
「そりゃ、偽名じゃダメだろう」
ワラビが困ったようにこっちを見た。呼ばれている感じでもないので、足をぷらぷらさせながら空を見上げた。いい感じの雲の塩梅の青空だ。わたあめが食べたくなってくる。
「本名、なのか?」
「いえ、そういうわけでは。ハル、名前言えますか」
「ハル・ヨッカーです」
名前をきかれたので答えれば首を振られた。
「本当の名前、最初に教えてくれた名前です」
言えないのにどうして知りたいのか。ワラビは謎だ。
「楠木小春」
「くしゅーのく」
男はワラビよりダメダメだった。残念なヤツと思ったがもちろん私は顔には出さない。良識ある大人だ。名前の一つや二つ言えなくても許すだけの心はある。ち、なんて舌打ちはしない。しないったらしない。さみしいなんても思わない。うん。
「どうにも発音が難しくて、言いやすい名前にするといって……。」
「だからってなぜハル・ヨッカー?」
今度は男がこっちをまじまじと見た。私の話題なのだろうか。セドの話かと思っていたが。もしくは連絡先交換とか。
「誰にでも間違われない、知られている名前ということで。まさか本当にそれにするとは思わずに」
呆れた風の男にワラビはなんだか気まずそうだ。
「まあいい。名前のせいで不審がられてリドゥナの受理がされていなかったから、一応俺が後見になっておいた。浮浪児に見えたからよけいに誰かに操られているのじゃないかと思われたんだろ。一応確認したし、総史庁の方には俺から届け出ておくから」
「ありがとうございます。そこまでしていただかなくても」
ワラビは丁寧に頭を下げた。いい感じだ。
「気にするな。人助けは趣味みたいなもんだしな。セドの後の手順は分かるな?もしなんかあればいつでもブラッデンサ商会に来い」
男はじゃあな、というと去っていこうとする。
私はハルの横に立つと頭を下げた。挨拶は大人の基本だ。おう、と男前な返事だった。男が背をむけたので、ワラビの服の裾を引っ張った。
「ワラビブタ仲良し?」
「違う!」
背を向けかけた男と、ワラビの声が重なった。仲良しでよいのではないかと思う。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
騎士団長の欲望に今日も犯される
シェルビビ
恋愛
ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。
就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。
ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。
しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。
無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。
文章を付け足しています。すいません
行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される
めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」
ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!
テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。
『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。
新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。
アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。
決めたのはあなたでしょう?
みおな
恋愛
ずっと好きだった人がいた。
だけど、その人は私の気持ちに応えてくれなかった。
どれだけ求めても手に入らないなら、とやっと全てを捨てる決心がつきました。
なのに、今さら好きなのは私だと?
捨てたのはあなたでしょう。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる