目隠しは赤い糸

雪野 千夏

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一週間もたてば、すべての蚕が糸を吐きだしていた。三十匹で団扇を作ると、残りは子供たち同様繭を作らせることにした。
段ボールで作った縦横五センチほどの格子状のマス目に糸を吐く気配がみえた蚕たちを移していった。

「うわ、こいつ壁に繭作っている、こっちは追い出そうとしている」

章は楽しそうに写真を撮っていた。
日曜は朝から晴れていた。もうすぐ夏休みも終わる。今日は繭から糸をとる日だった。

「ゆかり」

湯を沸かしていると章が繭を一つ持ってきた。一匹にしては大きな繭だった。

「なに?これ」
「この間脱走して見つからなかったやついただろう」

風邪をひいた日にちょうど逃げ出した蚕がいた。ばたばたしていて気付かなかったらあとで二匹足りなかった。

「どこにいたの?」
「ベッドの裏側」

掃除をしていて見つけたらしい。

「汚れていない?」
「拭いておいた。こんなことってあるんだなあ」

章はそっと私の手に手を重ねた。
一つの繭の中に、二匹の蚕。大きさの違う二つの楕円が重なるようにできた繭は、ハートの形に見えた。大人になる前からもう相手を決めてしまったような、それを見るのはなんだかしんどかった。

シンクの前、換気扇の音を聞きながら、煮える鍋の中で繭は踊る。
重ねられた左手が熱いのは、きっと換気扇から入ってくる熱風のせいだ。

「仲いいよな」

章は絹糸をくるくる巻きながら笑った。
この蛹を孵すのだろうか。私は最後の一つになってしまった歪な繭を持ったまま立ち尽くす。鍋の中ではいくつもの繭が回っていた。

「うん、そうだね」

知らない命の匂いがした。
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