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しおりを挟む数人のメイドを紹介され、私はある部屋に通された。私の部屋だというそこは花柄の壁紙に可愛らしい家具、窓辺にはピンクのカーテンが下げられレースがアクセントになっている。はっきりいえば可愛らしすぎるお部屋であった。
「お嬢様のお部屋、と皆様がお呼びになっているお部屋です」
メイド長のオリビアに言われる。
「お嬢様のお部屋?私が使わせて頂いたら申し訳ないのでは」
クルーソン家にお嬢様っていらしたかしら?でもお嬢様のお部屋を私なんかが使ったら汚れてしまうわ。と、不安になってしまう。
「いえ、お呼びしているだけです」
は?呼んでるだけ?どういうことかよくわからない。私が首を傾げていると
「旦那様も奥様もお嬢様が居られればと思っておいででした。しかし恵まれなかったので、将来お嫁様をお迎えになった暁にはと思われ、お部屋をご用意していたのです」
用意されたお部屋は成人した私が使うにはかなり可愛らしいものと思う。
「旦那様も奥様も大層お喜びでいらっしゃいます」
オリビアは顔色ひとつ変えず淡々と語る。本当にお義父様もお義母様も喜ばれているのだろうか。と、思ってしまう。
「それでは準備に入らせていただきます」
準備とは?オリビアの後ろに控えるメイドたちの目が光った気がした。
「夕飯前の準備でございます。正装とは申しませんが、お着替えをしていただきますので」
確かに私の服装ではダメなのだろう。しかし服は持っていない。
「奥様がこの日のためにご用意したドレスがございます。私どもにすべてお任せください」
いえ、結構ですと言える雰囲気ではなかった。そのまま私は服を脱がされお風呂に入れられたのである。
過去、人に体を洗ってもらうという経験はなかった。本来私も貴族の端くれ。そういう経験はあるべきだろうが、私にはない。だから恥ずかしいという気持ちもあるし、つい自分でやろうとしてしまう。
「ライラ様、お任せください」
「緊張されてますね、大丈夫でございますよ」
何度も声をかけられる。
「私ではご心配でしょう。申し訳ございません」
ついには謝られてしまう。自分たちに落ち度があると思われたのだろう。決してそんなことはないのに。悪いと思う気持ちから少し力を抜いた。私にそんな価値はないのに。そう思うと辛い。彼女たちはジョセフ様の妻になる私に支えてくれる人たちなのだ。
お風呂が終わると次は丹念にお化粧をしてもらう。化粧は好きではないし、そもそも化粧をしたことがなかった。婚約破棄されたあの夜会の日に初めてしたくらいなのだ。確か「化粧くらいしないとレナード様に恥をかかせる」と言われたのでやむなく見よう見まねで粉をはたいた。化粧品も母のお古だった。若いんだから化粧品なんて必要ないと買ってもらえなかったからだ。
「さぁ、できましたよ」
声をかけられ鏡を見た。誰だ、これと思うくらいに化けた私がそこにいる。
「ライラ様の肌はお綺麗ですわ、どのようなお手入れをされてらしたのですか」
聞かれても答えられない。お水でバシャバシャと洗う程度のことしかしていないからだ。化粧をした自分に慣れないのは仕方がない。ドレスも薄いイエローでふんわりとしたデザイン。可愛らしい妖精のような感じだが私が着ているのが申し訳ない。自分が自分でないようで恥ずかしい。
「素敵ですわぁ」
「よくお似合いです」
「ジョセフ様、驚きますよ」
そりゃ、驚くよね。私なんかがたくさんのメイドに囲まれて磨き上げられて化粧されて。とても綺麗で可憐なドレスを着させてもらって。そんな価値ないのに。私はジョセフ様の隣に立つ人間ではないのに。
そう思うとなんだか悲しくなってきた。ジョセフ様にはもっと相応しい人がいるはずなんだ。私なんかじゃなくて。こんなドレスや化粧が似合う価値のある人。
「そろそろお時間ですわ」
「参りましょう」
夕飯の時間になったようだ。私はメイドに先導されて夕飯を取る部屋に向かう。いつものように笑顔で。本当は泣きたくなるくらいに心は辛い。なぜだろう。私の顔は笑顔なのだ。この状況を喜んでいないのに。
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