婚約破棄のその後に

ゆーぞー

文字の大きさ
上 下
13 / 61

13

しおりを挟む
 後日ジョセフは王宮の一室に呼び出された。そこにはサントスだけではなく、各騎士団の団長と大臣、そして国王陛下と王妃までいた。その日は王宮で夜会があるとのことで、全員が煌びやかな服装をしている。単なる軍服のジョセフは場違いに感じた。

    ジョセフはそこで第一騎士団所属のレナード・アイザックスの同僚と紹介された。何となく複雑な気持ちではあるが、真実なので仕方がない。全員の目がジョセフに注がれる。気持ちはざわつくが、これも最後の仕事と思うことにした。


 そして宰相によって読み上げられる報告。レナードの騎士学校入学から卒業、騎士団入団までにどれだけのお金がアイザックス家から支払われたか、それを誰が受け取ったか。読み上げられていく名前を聞いて、ジョセフは吐き気がしてきた。退団の意思を固めて正解だったと思った。その後、ジョセフの功績を全て自分のものと報告していたこと、嘘であるとわかったうえで副団長に任命したことなども報告されていく。

「マイズ国からの暴漢たちも全て白状しました。リオンヌ家に雇われたそうでその証拠も押さえています」

 数人が頭を抱え、ため息を漏らしている。

「確か、レナード・アイザックスと付き合っている・・・」
「でもレナードは婚約しているはずです」

 陛下のいる前だが、室内はざわめき出した。

「お静かに!」

 宰相がよく通る声で場を鎮めた。再び室内には沈黙が訪れる。

「皆さんは、傷物令嬢をご存知ですね」

 しかし宰相の次の言葉でガタッと言う音が聞こえた。見ると王妃が目を釣り上げ真っ赤な顔をして立ち上がっていた。

「今、なんて言ったの?」

 怒気を含んだ低い声。しかし宰相は表情も変えずに再度声を出した。

「傷物令嬢、です」
「発言を取り消しなさい!なんて忌々しい言葉」

 王妃の剣幕に誰もが俯いた。王妃は日頃から穏やかな人物と評されているからだ。

「傷物令息なんて言葉はないでしょう?」
「ありませんね。あればレナードに言ってやりますが」

 王妃の剣幕にも宰相は動じることもなく、淡々と無表情に言い返す。

「私が言葉を作ったわけではありません。すでにそういう言葉があるのです」

 なおも言葉を続ける宰相に王妃の手が震えている。

「話を続けなさい」

 陛下の言葉に王妃は座り直した。目は今も宰相を睨み続けている。

「口に出したい言葉ではありませんが、致し方ないのです。お許しください」

 宰相はそう断ってから話し出した。傷物令嬢とは、婚期を逃したり婚約をしても婚姻に至らなかったりした令嬢のことを指す。他にも婚姻しても子を産めなかったり、離縁されたりした女性も傷物と称される。

「ともかく、そういった女性に新たな縁談や住まいなどを紹介する人がいます。女性が幸せになるのなら問題はないと言えるでしょう」

 そこで宰相は言葉を止め、チラリと王妃を見た。王妃は少し落ち着いた様子ではあるが、相変わらず表情は硬い。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

罠に嵌められたのは一体誰?

チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。   誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。 そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。 しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

双子の妹を選んだ婚約者様、貴方に選ばれなかった事に感謝の言葉を送ります

すもも
恋愛
学園の卒業パーティ 人々の中心にいる婚約者ユーリは私を見つけて微笑んだ。 傍らに、私とよく似た顔、背丈、スタイルをした双子の妹エリスを抱き寄せながら。 「セレナ、お前の婚約者と言う立場は今、この瞬間、終わりを迎える」 私セレナが、ユーリの婚約者として過ごした7年間が否定された瞬間だった。

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います

ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」 公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。 本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか? 義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。 不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます! この作品は小説家になろうでも掲載しています

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

え、幼馴染みを愛している? 彼女の『あの噂』のこと、ご存じないのですか?

水上
恋愛
「おれはお前ではなく、幼馴染である彼女を愛しているんだ」 子爵令嬢である私、アマンダ・フィールディングは、婚約者であるサム・ワイスマンが連れて来た人物を見て、困惑していた。 彼が愛している幼馴染というのは、ボニー・フルスカという女性である。 しかし彼女には、『とある噂』があった。 いい噂ではなく、悪い噂である。 そのことをサムに教えてあげたけれど、彼は聞く耳を持たなかった。 彼女はやめておいた方がいいと、私はきちんと警告しましたよ。 これで責任は果たしました。 だからもし、彼女に関わったせいで身を滅ぼすことになっても、どうか私を恨まないでくださいね?

【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」 その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。 「了承しました」 ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。 (わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの) そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。 (それに欲しいものは手に入れたわ) 壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。 (愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?) エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。 「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」 類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。 だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。 今後は自分の力で頑張ってもらおう。 ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。 ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。 カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*) 表紙絵は猫絵師さんより(⁠。⁠・⁠ω⁠・⁠。⁠)⁠ノ⁠♡

本日より他人として生きさせていただきます

ネコ
恋愛
伯爵令嬢のアルマは、愛のない婚約者レオナードに尽くし続けてきた。しかし、彼の隣にはいつも「運命の相手」を自称する美女の姿が。家族も周囲もレオナードの一方的なわがままを容認するばかり。ある夜会で二人の逢瀬を目撃したアルマは、今さら怒る気力も失せてしまう。「それなら私は他人として過ごしましょう」そう告げて婚約破棄に踏み切る。だが、彼女が去った瞬間からレオナードの人生には不穏なほつれが生じ始めるのだった。

二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。

当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。 しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。 最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。 それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。 婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。 だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。 これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。

処理中です...