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「ライラ、婚約は破棄させてもらおう」
言われた私ーライラ・コンフォードは呆然としていた。場所は王宮、今日は夜会が行われていて多数の貴族が参加している。そこで今、私は婚約者のレナード・アイザックス様からこんなことを言われたのだ。これを呆然とせず受け止められる人がいればお目にかかりたい。
半年前、私たちは婚約をした。お相手は第一騎士団の副団長をしているというレナード・アイザックス様。伯爵家の嫡男であり、つい最近国境警備で大変な活躍をした時の人である。
子爵家の娘が伯爵家に嫁入りできるなんて玉の輿。しかも今をときめく騎士団の副団長様。とんでもない好物件である。
なんでも騎士の訓練に忙しく今まで婚約者が決まらなかったとのこと。家格の合う御令嬢はすでに婚姻されてしまい、やむなく家格を下げた私に白羽の矢が当たったらしい。
しかし今日、レナード様のお隣には女性が立っていた。メリア・リオンヌ様。侯爵家の次女様だ。何故レナード様の横にいるの?私の頭はこの情報に追いついていない。
「愛する人と結婚するのが正しいことであろう。私は愛する女性メリアと結婚する運命なのだ」
へ?とまたもや私の頭の中がこんがらがった。私と彼は来月結婚するはずだった。だが、彼は私ではなくメリア様と結婚するという。では私は?
確かに、彼と会ったのは一度きり。婚約は親が決めるものだし、何も考えていなかった。彼から何の連絡もなかったが、そういうものだと思っていた。騎士の仕事は女が考えるほど楽ではない、忙しいのは彼が仕事のできる人間だから、婚約者に何のプレゼントも渡さないのは女の相手に慣れていないから、そういう人は浮気をしないし信頼できる。
両親や使用人たちは常にそんなことを言っていた。その言葉を信じて私はそう言うものだと思っていた。結婚なんてそんなものだと納得していたのだ。
実際はそうではなく、彼は以前からメリア様と交際をしていた。しかし家格が合わず結婚はできずにいた。誰でもいいから結婚させよう、そうだ家格の低い娘なら文句を言わないだろう。多分それが真実なのだろう。だとしたら、両親や使用人は全てわかっていた?その上で婚姻を進めようとした?私が今こんなふうに人前で婚約破棄を告げられるとは、考えもしなかった?
頭の中がぐちゃぐちゃで考えられない。そんな状態の私に冷たい言葉が降りかかる。
「あなた程度の人が彼と結婚できると本気で考えていたの?」
メリア様は敵対心丸出しの目で私を見ていた。
「馬鹿な女もいたものね」
メリア様は扇子をヒラヒラとさせて話し続けた。
「本当、身の程知らずもいたものだわ」
「恥ずかしいですわね、子爵の貧乏令嬢がレナード様と結婚できるなんて本気で思われるなんて」
「お気の毒ですわぁ。きっとレナード様が微笑んでくださると勘違いされたのよ」
周りからはそんな声が聞こえクスクスと悪意のある笑い声が聞こえてきた。
「傷物令嬢になっちまったな、お前誘ってみろよ」
「よせよ、こっちまで傷になっちまう」
「あーあ、馬鹿な女の面を見せられるのも苦痛だよな」
男性からも容赦のない言葉が聞こえる。貴族界では何が原因であれ、婚約破棄された以上女は傷物。もうまともな結婚はできない。歳の離れた男性の後妻となるか、訳ありの男性と結婚するしかない。
私が何をした?何もしていないのが原因か?今日の夜会も結婚報告を兼ねるため、渋々参加したのだ。参加は義務だったためやむを得ない。恥をかかせないように精一杯着飾り、顔を引き攣らせながら周囲に笑顔をばら撒いた。全ては婚約者のため。家のためだった。
「みっともないドレスを着てこられたものだわ。それでレナード様のお隣に立つつもりだったなんて」
「そう言うなよ。美しさではメリアに敵うわけないし、子爵家でできる最大限のおしゃれだったんだろう」
私の前でレナード様とメリア様はそう言って笑っている。いい加減にしてほしい。でも子爵である私には何も言えない。
言われた私ーライラ・コンフォードは呆然としていた。場所は王宮、今日は夜会が行われていて多数の貴族が参加している。そこで今、私は婚約者のレナード・アイザックス様からこんなことを言われたのだ。これを呆然とせず受け止められる人がいればお目にかかりたい。
半年前、私たちは婚約をした。お相手は第一騎士団の副団長をしているというレナード・アイザックス様。伯爵家の嫡男であり、つい最近国境警備で大変な活躍をした時の人である。
子爵家の娘が伯爵家に嫁入りできるなんて玉の輿。しかも今をときめく騎士団の副団長様。とんでもない好物件である。
なんでも騎士の訓練に忙しく今まで婚約者が決まらなかったとのこと。家格の合う御令嬢はすでに婚姻されてしまい、やむなく家格を下げた私に白羽の矢が当たったらしい。
しかし今日、レナード様のお隣には女性が立っていた。メリア・リオンヌ様。侯爵家の次女様だ。何故レナード様の横にいるの?私の頭はこの情報に追いついていない。
「愛する人と結婚するのが正しいことであろう。私は愛する女性メリアと結婚する運命なのだ」
へ?とまたもや私の頭の中がこんがらがった。私と彼は来月結婚するはずだった。だが、彼は私ではなくメリア様と結婚するという。では私は?
確かに、彼と会ったのは一度きり。婚約は親が決めるものだし、何も考えていなかった。彼から何の連絡もなかったが、そういうものだと思っていた。騎士の仕事は女が考えるほど楽ではない、忙しいのは彼が仕事のできる人間だから、婚約者に何のプレゼントも渡さないのは女の相手に慣れていないから、そういう人は浮気をしないし信頼できる。
両親や使用人たちは常にそんなことを言っていた。その言葉を信じて私はそう言うものだと思っていた。結婚なんてそんなものだと納得していたのだ。
実際はそうではなく、彼は以前からメリア様と交際をしていた。しかし家格が合わず結婚はできずにいた。誰でもいいから結婚させよう、そうだ家格の低い娘なら文句を言わないだろう。多分それが真実なのだろう。だとしたら、両親や使用人は全てわかっていた?その上で婚姻を進めようとした?私が今こんなふうに人前で婚約破棄を告げられるとは、考えもしなかった?
頭の中がぐちゃぐちゃで考えられない。そんな状態の私に冷たい言葉が降りかかる。
「あなた程度の人が彼と結婚できると本気で考えていたの?」
メリア様は敵対心丸出しの目で私を見ていた。
「馬鹿な女もいたものね」
メリア様は扇子をヒラヒラとさせて話し続けた。
「本当、身の程知らずもいたものだわ」
「恥ずかしいですわね、子爵の貧乏令嬢がレナード様と結婚できるなんて本気で思われるなんて」
「お気の毒ですわぁ。きっとレナード様が微笑んでくださると勘違いされたのよ」
周りからはそんな声が聞こえクスクスと悪意のある笑い声が聞こえてきた。
「傷物令嬢になっちまったな、お前誘ってみろよ」
「よせよ、こっちまで傷になっちまう」
「あーあ、馬鹿な女の面を見せられるのも苦痛だよな」
男性からも容赦のない言葉が聞こえる。貴族界では何が原因であれ、婚約破棄された以上女は傷物。もうまともな結婚はできない。歳の離れた男性の後妻となるか、訳ありの男性と結婚するしかない。
私が何をした?何もしていないのが原因か?今日の夜会も結婚報告を兼ねるため、渋々参加したのだ。参加は義務だったためやむを得ない。恥をかかせないように精一杯着飾り、顔を引き攣らせながら周囲に笑顔をばら撒いた。全ては婚約者のため。家のためだった。
「みっともないドレスを着てこられたものだわ。それでレナード様のお隣に立つつもりだったなんて」
「そう言うなよ。美しさではメリアに敵うわけないし、子爵家でできる最大限のおしゃれだったんだろう」
私の前でレナード様とメリア様はそう言って笑っている。いい加減にしてほしい。でも子爵である私には何も言えない。
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