上 下
52 / 62

52

しおりを挟む
 気がつけば、私はフフル様の背中に乗って空から下を見下ろしていました。ゲートの上空です。インディアル側は空から見ても荒れていて、魔獣たちが大量にいるのがわかりました。魔獣たちの鳴き声が気持ち悪く聞こえてきます。

「魔獣の中で戦いあって、最終的により悪しき心を持つ者が勝つであろう」
「浄化のエネルギーを送ります」

 私はなんとかレートレースを救うために何かをしようと思いました。このままではきっとレートレースにも穢れは入ってきます。

「いや、今は様子を見た方が良い」
「なぜ?」

 フフル様に止められましたが、様子を見ている余裕はないと思います。私は無視して浄化のエネルギーを送りました。しかし、そのエネルギーは弾かれて消えてしまいました。

「今はアリスのエネルギーは入っていかないだろう。思いの外、悪しき心が強い」
「どうしたらいいのですか。このままでは」

 私は不安になりました。インディアルにいた頃、私は孤独でした。聖女様が亡くなり私は限られた人としか会うことができなくなりました。ずっと儀式だけをして過ごしていました。

 レートレースではたくさんの人と触れ合い、私に良くしてくださいました。今はレートレースが私の家です。レートレースを穢すわけにはいきません。

「今は待て」

 フフル様の背中にしがみつき、私は落ち着こうとしました。下を見るとまだ穢れはゲートの中には入ってきません。

「我にもこの状況はわからぬ。アリスの結界が弱まるわけがない。よほどあの女の呪いの力が強いのだろう」

 私より強い呪いの力。それでは私は負けてしまうということになります。どうしたらいいのでしょう。私はアンディ様やエディ様のことを考え、胸が苦しくなりました。

「アリス、落ち着け」

 フフル様の言葉に私は落ち着こうと深呼吸しました。

「アリスは弱くなっている」

 わかっています。それを今実感しています。

「それは余計なことを考えているからだ。何も考えるな。ただ浄化についてだけ考えろ」

 インディアルにいた頃は祈りの間で儀式のことだけ考えていました。今は違います。食事のこと、ドレスのこと、言葉遣いやお辞儀の仕方。生活の全てが考えることでいっぱいです。

「私、どこかに籠って儀式を再開します」

 フフル様に伝えると、フフル様は静かにうなづいたように思います。

「良い場所がある。そこに連れていこう」

 フフル様が私をどこに連れていこうとしているのかわかりません。でもそこはきっと最善の場所でしょう。

    私はフフル様にしがみつきました。景色がグワン、と動いた気がしました。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平民と恋に落ちたからと婚約破棄を言い渡されました。

なつめ猫
恋愛
聖女としての天啓を受けた公爵家令嬢のクララは、生まれた日に王家に嫁ぐことが決まってしまう。 そして物心がつく5歳になると同時に、両親から引き離され王都で一人、妃教育を受ける事を強要され10年以上の歳月が経過した。 そして美しく成長したクララは16才の誕生日と同時に貴族院を卒業するラインハルト王太子殿下に嫁ぐはずであったが、平民の娘に恋をした婚約者のラインハルト王太子で殿下から一方的に婚約破棄を言い渡されてしまう。 クララは動揺しつつも、婚約者であるラインハルト王太子殿下に、国王陛下が決めた事を覆すのは貴族として間違っていると諭そうとするが、ラインハルト王太子殿下の逆鱗に触れたことで貴族院から追放されてしまうのであった。

初めてなのに中イキの仕方を教え込まれる話

Laxia
BL
恋人との初めてのセックスで、媚薬を使われて中イキを教え混まれる話です。らぶらぶです。今回は1話完結ではなく、何話か連載します! R-18の長編BLも書いてますので、そちらも見て頂けるとめちゃくちゃ嬉しいですしやる気が増し増しになります!!

貴方にとって、私は2番目だった。ただ、それだけの話。

天災
恋愛
 ただ、それだけの話。

さっさと離婚したらどうですか?

杉本凪咲
恋愛
完璧な私を疎んだ妹は、ある日私を階段から突き落とした。 しかしそれが転機となり、私に幸運が舞い込んでくる……

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

離縁しようぜ旦那様

たなぱ
BL
『お前を愛することは無い』 羞恥を忍んで迎えた初夜に、旦那様となる相手が放った言葉に現実を放棄した どこのざまぁ小説の導入台詞だよ?旦那様…おれじゃなかったら泣いてるよきっと? これは、始まる冷遇新婚生活にため息しか出ないさっさと離縁したいおれと、何故か離縁したくない旦那様の不毛な戦いである

寵妃にすべてを奪われ下賜された先は毒薔薇の貴公子でしたが、何故か愛されてしまいました!

ユウ
恋愛
エリーゼは、王妃になる予定だった。 故郷を失い後ろ盾を失くし代わりに王妃として選ばれたのは後から妃候補となった侯爵令嬢だった。 聖女の資格を持ち国に貢献した暁に正妃となりエリーゼは側妃となったが夜の渡りもなく周りから冷遇される日々を送っていた。 日陰の日々を送る中、婚約者であり唯一の理解者にも忘れされる中。 長らく魔物の侵略を受けていた東の大陸を取り戻したことでとある騎士に妃を下賜することとなったのだが、選ばれたのはエリーゼだった。 下賜される相手は冷たく人をよせつけず、猛毒を持つ薔薇の貴公子と呼ばれる男だった。 用済みになったエリーゼは殺されるのかと思ったが… 「私は貴女以外に妻を持つ気はない」 愛されることはないと思っていたのに何故か甘い言葉に甘い笑顔を向けられてしまう。 その頃、すべてを手に入れた側妃から正妃となった聖女に不幸が訪れるのだった。

中イキできないって悲観してたら触手が現れた

AIM
恋愛
ムラムラして辛い! 中イキしたい! と思ってついに大人のおもちゃを買った。なのに、何度試してもうまくいかない。恋人いない歴=年齢なのが原因? もしかして死ぬまで中イキできない? なんて悲観していたら、突然触手が現れて、夜な夜な淫らな動きで身体を弄ってくる。そして、ついに念願の中イキができて余韻に浸っていたら、見知らぬ世界に転移させられていた。「これからはずーっと気持ちいいことしてあげる♥」え、あなた誰ですか?  粘着質な触手魔人が、快楽に弱々なチョロインを遠隔開発して転移させて溺愛するお話。アホっぽいエロと重たい愛で構成されています。

処理中です...