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 ガチャーン、という大きな音がして私は目を覚ました。おそらくまたハイマス様倒れられたのだろう。

 もう何回目か分からない。ハイマス様の顔色は悪くなっていくし、明らかにおかしい。でも何を言っても「大丈夫」としか言わない。

 インディアルに来て数日。ハイマス様のお屋敷にお世話になっているが、使用人の方も体調がおかしいようだ。みんな明らかに具合が悪いのに無理している。そんななかでお世話になっているのが申し訳ない。

 レートレースでは聖女になれず、インディアルに行ってアジャール陛下の妃になれと言われた。インディアルの国王陛下である。大変な名誉だ。たとえ女癖が悪くおかしな性癖があるとまで言われている人でも一国の王様である。覚悟を決めた。

 ところがアジャール陛下は私をお気に召さなかったようだ。呼びつけたハイマス様は体調が悪く、私は次に何をしたらいいかわからない。

 私は起き上がり窓の外を見た。月が見える。その下にお城が見えた。決めた。あのお城に行く。私は寝巻きのまま部屋の外に出た。

 階下では執事や使用人たちの声が部屋の中から聞こえる。ハイマス様、ハイマス様とみんなで呼んでいる。ハイマス様はよほど具合が悪いようだ。誰も私がここにいることに気がついていない。私はそのまま家を出た。

 お城まで歩いた。大した距離に感じなかった。外は誰もいない。そのままお城の中に入った。不思議なことに門番とか傭兵とかもいなかった。よく見たらいないのではなくて、座りこんでたり、倒れていたりでちゃんと立っていないだけだった。こんなんでいいのかって思ったが、悪人も活動できないならいいんじゃないかと思った。

 私は何もわからないし感じることもできないけど、おそらくアリスとやらの結界が壊れたせいだと思う。アリスの力はわからないけど、私はその力の威力がわからない。でもそれは私の強みではないかと思う。

 適当に歩いていたら何やら話し声が聞こえた。聞こえるまま近づいたらアジャールと女の人がいた。若い女はグッタリして、アジャールは怒ったような声を出した。

「お前、やる気あんのか!」
「む、無理です・・・」

 まだ声が出せていることに驚いた。そのくらい女は具合が悪そうだったし、正直言って生きているのが不思議とさえ思った。アリスがいなくなったくらいで死にそうになるのか。ではアリスは殺人罪に問われる?そんなことを一瞬考えた。

「お前は・・・?」

 アジャールが私を見た。私は薄い寝巻きのまま来たことに少し後悔もしたけど、逆にこれが正装だとも思った。あまり披露したことがなかったけど、貴族である以上は何度も練習したとっておきのカーテシーをした。そして気持ちを落ち着け、声を整えて言った。

「アマンドと申します。以後よろしくお願い申しあげます」
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