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「ど、どういうことだ!」
「消えたぞ!」
「キュリロス殿!」

 騎士たちが慌てている声が聞こえる。私は息を潜めて外にいる彼らの声を聞いていた。

「言ったでしょう?マリアンヌ嬢は女神の加護を受けていると」

 大臣の声が聞こえる。

「裏切ったのか!」
「スパイというものは、常に裏切る危険があると知るべきですよ」
「ユティシア様がどうなっても知らないぞ!」

 その後は何を言っているのかわからないが、怒鳴り声が聞こえた。そのうちにカキーン、という金属がぶつかるような音が聞こえてくる。剣を打ち合う音だ。

「まだまだ、若い者には負けませんよ」
「貴様、年寄りのくせに!」
「相手は1人だ」
「裏切り者は殺せ」

    怒鳴り声に足音が入り乱れて聞こえる。何度も聞こえる金属がぶつかり合う音。そのうちにザシュっという違う音も聞こえた。何かが倒れる音やドタバタと動き回る音。

「ユティシア様は今頃こちらの軍がお救いしている」

   そこに聞こえてきた大臣の声。相変わらず冷静で大声ではないのにはっきりと聞こえてしまう。

「な、なんだと?」?

 カキーンという音が一瞬止んだ。

「飢える者が増えたというのは一部の貴族が買い占めていたからですよ。彼らはクーデターを起こすために食糧を独占していたのです。あなた方は気の毒にも騙されていただけです」
「う、嘘だ」
「そんなことあり得ない」

 動揺している声が聞こえてくる。

「あり得ますよ」

 それに反して大臣の声は冷静だ。おそらく剣でやり合っていたと思うが、息も切れていない様子だ。

「陛下が援助を断ったのもクーデターが起こると予測していたからです。ユティシア様方王族の皆様は幽閉されているようですが、我が国が差し向けた者が中に紛れて監視しておりますので安全ですよ」
「くそっ!」
「マリアンヌがいないなら、こいつと一緒に」
「やるしかないな」

 一瞬の沈黙の後、ズガーンという爆発音が聞こえた。

    まさか爆弾?どうしよう。その後は何の音も聞こえなくなった。

   お城はどうなったのだろうか。

    私は呆然としていた。リンゴンに行くつもりはなかったし、行きたいとも思っていない。私の料理を人を傷つける兵士を作るために利用しようとする国だ。何をするかわからない。

    でもそのせいで大臣やリンゴンの騎士たちが傷ついたかもしれない。最悪、傷ついただけじゃないかもしれないし、他のもっとたくさんの人が傷ついたかもしれない。

    私が素直に従っていれば?それでも誰かを傷つけることにはなるだろう。自分がどうすれば良かったのか分からず、途方にくれていた。

「う、うぅっ・・・」

 ずっと何も聞こえなかったのに、しばらくして小さな唸り声が聞こえた。それと同時に。

「いた、ここだ!」
「キュリロス、しっかりしろ!」

 ドミニク様の声だ。おそらくたくさんの騎士が来ているのか、足音や声が多数聞こえてきた。

    声を出そうとして戸惑った。無事でいると知らせたいが、ここにいることをバラすわけにいかないだろう。王族の一員として、このことは他人に知らせてはいけないのだ。

    突然冷静になった。どのタイミングで出ればいいかわからない。とりあえず声をかけられるまで待つしかないのか。室内にあるソファに座り、私はぼんやりしていた。外はざわついていたが、だんだん静かになっているようだ。

    もしかしたら、このままかも。ここはトイレもお風呂もある。

「リィ、いる?」

 しばらくして、殿下の声が聞こえた。よかった、助けに来てくれたんだ。

「います!」

 私が返事をすると

「よかった・・・」

 安心した声が聞こえた。

「もう大丈夫だよ」

 壁が消え、そこに立っていたのは殿下だった。その姿を見たら涙が溢れてきた。足が震えて立っていられなくて座り込んでしまう。

「頑張ったね、もう大丈夫だよ」

 殿下は何度も言って頭を撫でてくれた。殿下の温もりが伝わってきて、私はようやく安心したのだった。







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