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「皇后様、お嬢様、陛下がお呼びです」
「あら、そうなの?」

 クリーム地獄から解放されてお茶を飲んでいたら、侍女長に呼ばれた。

「じゃあ、マリアンヌちゃん、行きましょう」
「はい」

 皇后様と2人で部屋を出た。案内されるままに向かう。お城のおそらく奥の方の部屋に案内された。大きな扉は重厚で特別な部屋であることを物語っている。騎士が2人立っているが、周囲には他に人はいない。

「ここは王族しか入れないの」

 そう言われ緊張する。私はまだ王族ではない。

「大丈夫よ」

 騎士がドアを開ける。一瞬躊躇ったが、皇后様が背中に手を添えてくれる。それで恐る恐る中に入る。中にはソファとテーブルが置いてあり、数メートル先にドアが見えた。騎士がドアを閉める。

「さ、行くわよ」

 皇后様は数メートル先のドアに向かって進む。私もついていく。何だか怖い。足が少しすくんでいた。

 ドアを開けると、中には陛下がいた。薄暗いのは灯りが蝋燭だけだからだ。窓も無い狭い空間。陛下の横に殿下とドミニク様がいると分かったが、表情がよくわからない。

「マリアンヌちゅあん」

 いつも通り陛下に呼ばれ私は少し安心した。だが、すぐに厳かな声が聞こえてきた。

「マリアンヌ・サーキス。これから王族になる儀式を執り行う」

 儀式?何それ?陛下の表情が蝋燭の灯りで少しだけ見えた。いつも笑顔で優しい人のはずが今は違う。表情も無くお面のようだ。儀式だから?

「左手を出して」

 陛下に左手を差し出す。陛下は私の手を取り鳥の羽のようなもので軽く撫でる。ゾワゾワとした感覚がして気持ちが悪い。だが何か声を出す雰囲気でもないし、手を引っ込めることもできなかった。

 次に陛下は何やら分厚い本を取り出した。真ん中あたりを開くと

「書いてある文章をゆっくりでいいから読みなさい」

 と、言う。その声はいつもの陛下の声より低く年寄りのように聞こえた。思わずゾッとするが、本の文章を見る。

 私は目を見張った。そこに書いてあるのはカタカナだった。一瞬驚いたが、すぐに考え直す。そもそも異世界で言葉が通じるのは何故か?女神様が言葉を分かるようにしてくれたのだと私は解釈していた。話す言葉だけではなく文字も読める。だからこれもカタカナに見えるだけなのだと勝手に解釈した。

「読めない?」

 陛下の声が少し落胆したように聞こえたが、気にせず読む。

「ワタシハ オウゾクノイチイントシテ ギムヲ ハタスコトヲ チカイマス」

 ハァァという声が聞こえた。おそらく殿下だろう。次に陛下は分厚い本を差し出し

「ここにサインをしなさい。マリアンヌとだけ書けばいいから」

 と、言われた。差し出されたペンは先ほどの鳥の羽のようなものだ。そのペンでサインをする。

「これで儀式は無事に終了した。もう王族の一員だ」

 陛下の声はいつもの優しい声だった。何だかわけがわからないまま、蝋燭の部屋から外に出る。ソファに座るように促された。

「あ、あの・・・これは一体?」

 王族の一員の儀式って何だと思うし、そもそも婚約の段階で王族ではないと思うのだが。

「何も説明できず申し訳ない。あれは王族の一員になれるかのテストのようなものなんだ」
「そうなの、私も驚いたわ」
「あの文を読めない者もいるからね。王族になれないものは読めないんだ」

 確かにカタカナはこの世界の人には読めないだろうけど、実際どんな字で書かれているのだろう?

「建国された当時の魔術師が書いた本らしい。王族になる資格のある者にしか読めない字で人によって全く違う字に見えるそうだ」

 へ?何それ。魔法がある世界とは知ってたけど。

「リィなら大丈夫とはわかっていたけど、実際読めた時は安心したよ」

 殿下の超がつくくらいのいい笑顔に癒された。

「でもまだ婚約で、王族の一員とは・・・」

 恐れ多い、という気持ちだが、もし万が一破談したらどうなるのだろうか。

「あぁ、もしアルと結婚できなくても僕と結婚ということもあり得るし、それも無理なら陛下の子として縁組することも可能だから」

 ドミニク様?笑顔で何をおっしゃるのでしょうか?

「そうそう」

 しかし陛下は大きくうなづいている。

「王族の一員となった以上、外れることはできないんだよ。本来なら婚姻の時にする儀式だけど、前倒ししたのはマリアンヌちゅあんを守るためだからね」
「守る?」
「うん、自分じゃ気づいていないんだろうけどね、マリアンヌちゅあんの料理の加護はすごいものだからね」
「王族の一員となれば他が手を出すこともできないからね」

 元の世界では大したことではなかったのだが、今さら何を言ってもどうしようもない。

「ありがとうございます」

 とりあえずお礼を言った。あとは王族の一員として恥ずかしくない行動をするのみである。かなり大変だろうが、いずれ来る道。頑張るしかない。と、私は決意したのだった。 






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