上 下
203 / 220

203

しおりを挟む
「違う!」

 フランツ兄様は頭を左右に振ると、大きなため息をついた。

「何故だ?何故なんだ?」

 そして今度は部屋をうろつきだした。

「何故、マリが着るとどのドレスも色あせてしまうんだ?」

 今私はドレスの試着をさせられている。屋敷には私のためのドレスが大量に作られていたそうで、順番に着させられているのだ。鏡の中の私はお姫様のようだ。もうどのドレスでもいいんじゃないかと思うのだが、兄様もメアリもマーサも納得しない。

「あのデザイナー、偉そうに言ってましたけどポンコツですね」
「どこかの侯爵夫人が着て有名になったと売り込んできて付き合いで1着作らせましたが、お嬢様の可憐さを表現できないなんてヘボですわ」
「二度と大きな顔できないようにしよう」

 フランツ兄様、笑顔だけど冗談には聞こえない。聞こえていないふりをしよう。

「しかし、ドレスが決まらないんじゃどうすることもできない」

 フランツ兄様は腕組みをして難しい顔をしている。

「この国には優秀なドレスのデザイナーはいないのか!」

 フランツ兄様、すでに壊れかけている。どのドレスも素敵だったし十分なのだが誰も納得しないのだ。私にとってはそれが謎。みんなにはマリアンヌがどう見えているのだろうか。

「仕方がない、アクセサリーを先に考えよう」
「では、女神の晩餐は?」
「駄目ですよ、セバスチャン。それだとマリアンヌ様のお年では重たすぎます」
「そうですか、では明け方のオアシスでは」
「何言ってるんですか。そんなたそがれた宝石。お嬢様の魅力を吸い取ります」
「紅緋のロンドは?」
「母上がつけるだろう?」
「ツキクサの乙女は?」
「平凡すぎるし地味だ」
「萌樹のベール」
「あー、もう!」

    兄様は髪をぐちゃぐちゃとかきむしり出した。いつも冷静でカッコいいはずのフランツ兄様が別人のようだ。

「なりません!」

    セバスチャンがあわてて止める。

「公爵家ともあろう我が家には、ろくな宝石がないんだな」

    え?全部宝石の名前なの?ダイヤとかルビーとか言わないの?

「このままじゃ、マリが恥をかくだけだ」

    うなだれる兄様。セバスチャンは唇を噛みしめ、メアリが涙ぐんでいる。

「も、申し訳ありません!」

    マーサは土下座する勢いで頭を深く下げる。

「大奥様がお隠れになる前、再三言付かっておりました。宝石は常に用意せよと。必ず味方になるから殿方が何と言おうと確保せよと」
  「おばあ様の遺言を無視した結果がこれか」

    しんみりする室内。何だか居たたまれない。今着てる何とか侯爵夫人のオススメデザイナーのドレスだって、腰から下のラインがキレイでスタイルがよく見える。決しておかしなものではないのだ。

「ドレスは決まったぁ?」

    そこにお母様が入ってきた。お母様はエステを受けていたのだ。

「マーサ、お茶を入れてちょうだい」

    ソファーに座りながらお母様は私を見た。ドお母様ならこの姿を見て的確なことを言ってくれるだろう。きっと褒めてくれるだろうからドレス問題は解決するはず。期待を込めてお母様を見る。

「天使ちゃん、どうして寝巻き着てるの?」

    は?寝巻き?

「しかも品がないわぁ。ダメよ、そんな寝巻き。悪い夢見るわ」

    ガクッと心の中で何かが折れた気がする。そしてまた、フランツ兄様は頭をかきむしりながら部屋中をうろつき出し、セバスチャンはうなだれ、マーサは泣き出し、メアリは青白い顔で遠くを見ているのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。

亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません! いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。 突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。 里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。 そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。 三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。 だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。 とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。 いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。 町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。 落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。 そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。 すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。 ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。 姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。 そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった…… これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。 ※ざまぁまで時間かかります。 ファンタジー部門ランキング一位 HOTランキング 一位 総合ランキング一位 ありがとうございます!

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

【完結】伯爵令嬢が効率主義の権化だったら。 〜ドレス汚し犯(侯爵子息)の行き着いた先〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「……何でなんだ」  硬い表情でそう尋ねてくる問題の侯爵子息と、セシリアは今真っ向から対峙する。    ***    社交界デビューの日。  初対面で伯爵令嬢・セシリアのドレスに葡萄色のシミが作られた事件から、はや数ヶ月。 「別に悪気は無かったんだ。足がもつれてつい、な」  などというバレバレな言い訳をした侯爵子息にセシリアが仕返しとしっぺ返しを繰り広げ、今やそれが社交場のトレンドワードとなっていた。  そのせいでものの見事に貴族としての影響力を失いつつある侯爵家。  そんな彼らを尻目に、セシリアは平和な日々を送っていたのだが……?    やってくる侯爵子息。  待ち受けるセシリア。  彼女の後ろに控える執事・ゼルゼンに……意味もなく巻き込まれるセシリアの友人・レガシー。  それぞれの思いが交錯し、ついに何かが変化する。    『効率主義な令嬢シリーズ』侯爵子息編、ついに完結。   ◇ ◆ ◇ 最低限の『貴族の義務』は果たしたい。 でもそれ以外は「自分がやりたい事をする」生活を送りたい。 これはそんな願望を抱く令嬢が、何故か自分の周りで次々に巻き起こる『面倒』を次々へと蹴散らせていく物語・『効率主義な令嬢』シリーズの第5部作品です。 ※本作品までのあらすじを第1話に掲載していますので、本編からでもお読みいただけます。  もし「きちんと本作を最初から読みたい」と思ってくださった方が居れば、第2部から読み進める事をオススメします。  (第1部は主人公の過去話のため、必読ではありません)  以下のリンクを、それぞれ画面下部(この画面では目次の下、各話画面では「お気に入りへの登録」ボタンの下部)に貼ってあります。  ●物語第1部・第2部へのリンク  ●本シリーズをより楽しんで頂ける『各話執筆裏話』へのリンク  

このステータスプレート壊れてないですか?~壊れ数値の万能スキルで自由気ままな異世界生活~

夢幻の翼
ファンタジー
 典型的な社畜・ブラックバイトに翻弄される人生を送っていたラノベ好きの男が銀行強盗から女性行員を庇って撃たれた。  男は夢にまで見た異世界転生を果たしたが、ラノベのテンプレである神様からのお告げも貰えない状態に戸惑う。  それでも気を取り直して強く生きようと決めた矢先の事、国の方針により『ステータスプレート』を作成した際に数値異常となり改ざん容疑で捕縛され奴隷へ落とされる事になる。運の悪い男だったがチート能力により移送中に脱走し隣国へと逃れた。  一時は途方にくれた少年だったが神父に言われた『冒険者はステータスに関係なく出来る唯一の職業である』を胸に冒険者を目指す事にした。  持ち前の運の悪さもチート能力で回避し、自分の思う生き方を実現させる社畜転生者と自らも助けられ、少年に思いを寄せる美少女との恋愛、襲い来る盗賊の殲滅、新たな商売の開拓と現実では出来なかった夢を異世界で実現させる自由気ままな異世界生活が始まります。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...