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「戻ったか」
王宮の一室。アレンが王子の前で跪く。
「で、どうだった?」
昼間騎士の食堂に行ったのは突発的なことだった。そこにキュリロス大臣が現れた。偶然とは思えず何か意味があると考え、アレンに見張ってもらったのだ。
「特に問題はないかと思われます」
アレンはそう言うが、大臣がアレンに気づかないわけがない。うまくごまかされたのではないか。
「何故リィのことがリンゴンにバレるんだ」
リンゴン国からスタンピード終息と復興のお祝いとして書簡が届いた。そこに、公爵令嬢が女神の加護を受け喜ばしいことだと記されていた。そして自分の娘と交換留学をさせて両国の発展を願おうとも書かれていたらしい。ごく近い場所にリンゴン国に通じているスパイがいる。彼はそれが大臣ではないかと疑っていた。
リンゴン国には叔母が嫁いでいる。災害時に人材を派遣された見返りとしての婚姻だったが、それを推したのはキュリロス大臣だったらしい。当時の彼は軍人で愛国者と知られていた。各地を巡っては国を守ってきたが、逆に言えば他国と関わる機会も多かったと言える。叔母とキュリロスがどんな関係かはわからないが、キュリロスには注意しなければならないと彼は思った。
正直に言えば、キュリロスは苦手だった。軍人らしい姿勢の良さでいつも彼は大股で歩いている。彼の何かを見透かしたかのような目で見られると、心の奥底の弱さを見つけられてしまうようで居心地の悪さを感じてしまう。
「でも大臣、マリアンヌ様の料理を食べなかったんですよね」
アレンはそう言うとニンマリと笑った。
「それだけでザマアミロって思いませんか?」
それは確かにそうだった。
「よし、これからもマリアンヌ様の料理を食べさせないように、近衛全員で任務に当たりましょう」
「近衛でやることではないだろう」
呆れて彼が言うが、アレンは大袈裟に首を振る。
「いえ、念には念を入れるのです。わざと大臣の前でオヤコドンのいいにおいを漂わせるのです。きっとお腹がグーと鳴るでしょう。よだれが溢れ出てくるでしょう。さぁ、いよいよ・・・というところでお預けです。オヤコドンは目の前から去っていくのです」
アレンが室内を歩きながらそんなことを言い出した。
「大臣の目の前にオヤコドンをチラつかせてやるのです」
「そうすれば、あの堅物の大臣も降参するに違いありません」
他の近衛兵たちまで口々に言い出した。
「オヤコドンが食べられない大臣は打ちひしがれて猫背になるに違いありません」
「それこそが我らの勝利です!」
「勝利を我らの手に!」
「おー!」
何故だか近衛たちが一致団結し、拳を上げている。ますます彼は呆れてしまい、そっとバルコニーに出た。1人で考えたかったのである。
彼が守りたいものは婚約者のマリアンヌだ。彼女を留学させるわけにいかない。そのために婚約を発表し、国内での妃教育を始める。そうすればマリアンヌは毎日お城に通うことになる。自分と毎日会えるのだ。
でも・・・。彼は急に不安になる。マリアンヌはどう思っているのだろうか。もしかしたら留学したいと考えているかもしれない。本当は自分と婚約などしたくないかもしれない。
そんな不安を一瞬感じるが、腕をさすって気持ちを落ち着かせる。手首には彼女がくれたブレスレット。彼の気持ちが急激に落ち着くのを感じた。
王宮の一室。アレンが王子の前で跪く。
「で、どうだった?」
昼間騎士の食堂に行ったのは突発的なことだった。そこにキュリロス大臣が現れた。偶然とは思えず何か意味があると考え、アレンに見張ってもらったのだ。
「特に問題はないかと思われます」
アレンはそう言うが、大臣がアレンに気づかないわけがない。うまくごまかされたのではないか。
「何故リィのことがリンゴンにバレるんだ」
リンゴン国からスタンピード終息と復興のお祝いとして書簡が届いた。そこに、公爵令嬢が女神の加護を受け喜ばしいことだと記されていた。そして自分の娘と交換留学をさせて両国の発展を願おうとも書かれていたらしい。ごく近い場所にリンゴン国に通じているスパイがいる。彼はそれが大臣ではないかと疑っていた。
リンゴン国には叔母が嫁いでいる。災害時に人材を派遣された見返りとしての婚姻だったが、それを推したのはキュリロス大臣だったらしい。当時の彼は軍人で愛国者と知られていた。各地を巡っては国を守ってきたが、逆に言えば他国と関わる機会も多かったと言える。叔母とキュリロスがどんな関係かはわからないが、キュリロスには注意しなければならないと彼は思った。
正直に言えば、キュリロスは苦手だった。軍人らしい姿勢の良さでいつも彼は大股で歩いている。彼の何かを見透かしたかのような目で見られると、心の奥底の弱さを見つけられてしまうようで居心地の悪さを感じてしまう。
「でも大臣、マリアンヌ様の料理を食べなかったんですよね」
アレンはそう言うとニンマリと笑った。
「それだけでザマアミロって思いませんか?」
それは確かにそうだった。
「よし、これからもマリアンヌ様の料理を食べさせないように、近衛全員で任務に当たりましょう」
「近衛でやることではないだろう」
呆れて彼が言うが、アレンは大袈裟に首を振る。
「いえ、念には念を入れるのです。わざと大臣の前でオヤコドンのいいにおいを漂わせるのです。きっとお腹がグーと鳴るでしょう。よだれが溢れ出てくるでしょう。さぁ、いよいよ・・・というところでお預けです。オヤコドンは目の前から去っていくのです」
アレンが室内を歩きながらそんなことを言い出した。
「大臣の目の前にオヤコドンをチラつかせてやるのです」
「そうすれば、あの堅物の大臣も降参するに違いありません」
他の近衛兵たちまで口々に言い出した。
「オヤコドンが食べられない大臣は打ちひしがれて猫背になるに違いありません」
「それこそが我らの勝利です!」
「勝利を我らの手に!」
「おー!」
何故だか近衛たちが一致団結し、拳を上げている。ますます彼は呆れてしまい、そっとバルコニーに出た。1人で考えたかったのである。
彼が守りたいものは婚約者のマリアンヌだ。彼女を留学させるわけにいかない。そのために婚約を発表し、国内での妃教育を始める。そうすればマリアンヌは毎日お城に通うことになる。自分と毎日会えるのだ。
でも・・・。彼は急に不安になる。マリアンヌはどう思っているのだろうか。もしかしたら留学したいと考えているかもしれない。本当は自分と婚約などしたくないかもしれない。
そんな不安を一瞬感じるが、腕をさすって気持ちを落ち着かせる。手首には彼女がくれたブレスレット。彼の気持ちが急激に落ち着くのを感じた。
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