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「はー、美味しいし楽しいし天国だなぁ」

 もう何杯目になったかわからないけど、レオポール兄様が飲み干したジョッキをテーブルの上に置いた。顔色も変わらなければ目つきや話し方も酔っているようには見えない。それはフランツ兄様もベルナルト様も同様だ。

「仕事帰りにこういうふうに飲めたらいいのに」

 ベルナルト様がポツリと呟いた。

「仕事や上司の愚痴を言ったり?」

 と言うと、ベルナルト様は微妙な表情をした。上司はうちのお父様だった。言えるわけがないけど、言わなかったということは酔ってはいないということか。

「お店を作るのはどうでしょうか」

 お酒とおつまみをセットにして出す。基本それしか出さなければ手間もかからないだろう。飲まない人用には別のおつまみを用意するとか。

 そんなことを言うと、レオポール兄様が私の方をバシンと叩いた。

「リリン、それはいいアイデアだよ」

 そう言いながら何度も叩く。兄様は軽くはたく程度の感覚なのだろうが地味に痛い。

「兄上、マリを叩くのはやめてください」

 フランツ兄様に助けられ、引き寄せられる。助かった、と思ったのだがフランツ兄様にきつく抱きしめられる。ぎゅうううううって感じだ。苦しい。

「フランツ、マリアンヌ様が・・・」

 控えめな感じだがベルナルト様が声をかけてくれたので、ようやくフランツ兄様から解放された。2人とも酔っている。そろそろ飲ますのをやめよう。

【あっ、こんなところにいた】

 そこにクロが現れた。

【ようやく見つけたぞ。おやつはどうした。お前らだけ何か食いやがって。俺様のおやつを無視するとは何様のつもりだ】

 私には声が聞こえるが、他の人にはニャーニャーと猫が鳴いているようにしか聞こえない。ニャーニャー言いながら部屋に入ってきたクロを見てレオポール兄様が立ち上がるとクロに向かって走り出した。

「クロニャン、にいにゃんを探しに来たんだね!」
【やめろ、お前に用はない。用があるのは食い物だ。食わせろ】
「クロニャン、にいにゃんもクロニャンに会いたかったよ」

 頬擦りをしながらレオポール兄様は恍惚の表情をしている。クロの言葉が兄様も分かればよかったのに。

「クロ、何故兄上だけなんだ」

 そこにフランツ兄様が近づいた。クロの後脚を引っ張った。

「クロ、僕のことだって頼っていいんだよ」
【やめろ、足を引っ張るな。俺様は食い物さえあればいいんだ、あっ、そこを触るな】
「クロもマリアンヌも1人で大きくなったつもりで。僕がどれだけ貢献してるか知らないんだろう」

 え?フランツ兄様、何言ってるの?

「クロニャンはにいにゃんのことだけ好きなんだよね。にいにゃんが大好きなんだよね」
「クロは僕のことだって好きだけど兄上が独占するから来られないんだよね」
【やめろ、足を引っ張るな。おい、頬擦りするのはやめろ、気色悪いんじゃ、お前たちは。あっ、あの唐揚げ、残っているならよこせ】

 レオポール兄様がクロを抱きしめ頬擦りし、フランツ兄様はクロの後脚を引っ張って肉球をモミモミしている。クロはニャーニャーと喚いているが、実際は罵詈雑言言い尽くしている。

 その様子をベルナルト様はニコニコと微笑みながらビールを飲んでいる。

「美味しいですよね、ビール」

 なんか、すごい光景を私は見ている。うーん、カオスだ。




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