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    これからは男性陣は公爵家ご自慢のお風呂に入り、女性陣はエステである。お母様が熱く語るチュニックとイージーパンツのお披露目だ。私は自由時間になるのでキッチンで料理でも作っていよう。子どもの私は大人のエステタイムには混ぜてもらえないのだ。おそらくこどもには聞かせられない話をお母様たちはするに違いない。

 私はキッチンに籠ると、色々と料理を作った。思いつく限りの料理を作る。材料は大量にある。そしてレシピが頭の中に浮かぶ。

【すごい料理だ。俺様が食べてやろう】

 気がつくとクロがいた。え?いつの間に?

【俺様は悪魔だからな。どこにでも自由自在に入れるのだ】

 偉そうに言っているが、食い意地が張ってるだけではないか。

【さあ、食わせろ。これか、あれか?】

 よだれを垂らしながらクロが目をギラギラさせている。一口ずつ皿に盛ってクロの前に出してやる。

【うまい、これはいいぞ。あっ、これも乙な味だ】

 悪魔の黒猫ごときが乙な味って。苦笑いしながらなおも作る。クロも喜んでムシャムシャと食べている。

「満腹にならないの?」

 途中で心配になって聞いてみたのだが、

【満腹?なんだ、それは。新しい食べ物か?】

 などと言い出した。小首を傾げ、こちらを見上げるその仕草。まさしくかわいい子猫である。チクショー、相手が悪魔だとわかっていても心を撃ち抜かれてしまう。

 とりあえずクロは無視して作業を進める。ランチの用意である。お母様たち女性陣とお父様の男性陣と内容を少し分けるつもりだ。おそらく夕飯までは合流しないだろう。

 大体作り終えてキッチンの外に出ると、ダニエル様がいた。訓練をしたのだろうか。汗をかいている。近くにはノートル。おそらく2人で剣の訓練をしていたのだろう。

「ダニエル様は動く前に一瞬躊躇いますね」
「わかってるんです、でも・・・」
「経験を積むしかないでしょう」

 ノートルのアドバイスに大きくうなづくダニエル様。美青年と美少年。目の保養である。視界にご褒美。

「あ、マリアンヌ様」

 私に気づくとダニエル様は満面の笑みで大きく手を振ってくれた。あぁ、尊い。このかわいい天使にランチを振る舞おう。そう思ったら・・・。

【このチビ、飯を食うつもりかっ】

 なぜかチビが飛び出てきた。

「あっ、クロちゃん!」

 へ?クロちゃん?

「レオポール様の魔獣ですよね。触りたかったんです」

【何?俺様を愛でたいと?そう簡単には触らせんぞっ】

 そこからクロとダニエル様の追いかけっこが始まった。触らせそうで触らせないクロ。ダニエル様が近づくとするりとクロは逃げてしまう。

「ダニエル様、魔獣征伐はそう簡単にはいきませんよ」

 ノートル様もゲキを飛ばす。

【フハハハハ、チビよ、俺様を捕まえようなど100万年早いわ】
「クロちゃん、待ってぇ」
「そこです、先回りをなさってください。動きを読むのです」

 楽しそうだな。私も参戦しようか。

「ダニエル様、挟み撃ちにしましょう」
「はい、マリアンヌ様」
【何人でもかかってくれば良い。人間ごときに捕まる俺様ではないぞ】

 私も参戦してクロを捕まえようとあっちこっちと走り回る。しかしクロもなかなか捕まらない。一心不乱に走っていたら。

「お嬢様!」

 振り返るとセバスチャンが真っ赤な顔をして立っている。

「何をなさっているのですかっ!」

 穏やかなはずのセバスチャンが怒っている。

「走り回るなどはしたない」

 確かにマリアンヌは公爵家のお嬢様。走ることなど生まれてこのかたしたことがなかった。

「えへへ」

 照れ隠しに笑って誤魔化す。

「捕まえました!」

 その時。セバスチャンの登場でクロは一瞬動きが止まったようで、その隙にダニエル様がクロを無事に捕まえたようだ。

【くそっ。油断してしまったぞ】

 ダニエル様の手の中でジタバタしながらクロは悔しそうに呟いている。

「わぁ、すべすべして気持ちいい」
「お見事でした」

 ノートルも笑顔でクロの頭を撫でている。

【俺様を誰と心得る。お前らごときが容易く触れるわけがないぞ。気安く撫でるな。不届きものめ】

 クロが威勢よく言っているが、言葉が聞こえるのは私だけである。他の人にはゴロゴロゴロと気持ちよさげに喉を鳴らしているように聞こえているのだ。

「お嬢様、お気をつけてください。怪我をしたら大変ですから」

 セバスチャンに呆れたような目で見られてしまった。

「はい」

 素直にうなづく。でもダニエル様の楽しそうな笑顔を見たら、まあいいかと思うのだった。



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