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「ハッハッハッ、マリアンヌ嬢は愉快だな」
「本当に。こんなに笑ったのは久方ぶりですわ」

  軽くお茶をするだけのはずが思いの外盛り上がってしまった。実は私は元の世界でもお年寄りに好かれるのである。孫の嫁に、と言われたことも何度かあった。マリアンヌになってもその威力は衰えなかったようだ。

「マリアンヌ嬢が本当の孫なら良かったのに」

     ひとしきり笑っていたバーンヒル様が真面目な顔になった。

「そうですわね」

    奥様は目にハンカチを当てている。笑いすぎて涙が出ただけだろうか。

「どうだろう」

    バーンヒル様がニッコリ笑って言った。

「私のことを爺と呼んでくれないか?」

    は?じい?

「まあ、では私のことはババと」

    爺とババ?いやいや、それは。確かにお二人は祖父母の年代かもしれない。しかし簡単にそんな呼び方をすることはできない。元の世界のことを思えばお二人はまだまだお若いのだ。

    しかしお二人の圧が迫ってくる。親しく呼んでほしいという圧である。

「で、では」

    耐えきれず私は言った。

「公爵様のことをグランパ、奥様のことはグランマとお呼びします」
「え?グランマ?」
「グランパ・・・」

    お二人がキョトンとした。あっ、この世界にはない言葉だったのか。意味を聞かれたらどうしよう。嫌な汗が出てきそうだ。

「古代タジーファ語?」

    唐突にベルナルト様が顔を上げて呟いた。

「え?」

    みんなが驚いた顔で私を見ている。

「確か、偉大なる父、偉大なる母という意味ですよね」

    マズイ。お父様とお母様は驚愕した顔で私を見ているし、バーンヒル様は目をキラキラさせている。

「素晴らしい!」
「大いなる母。私が!」

    バーンヒル様は手を叩いて喜んでいるし、奥様は嬉しそうに笑っている。

「古代タジーファ語は難解と聞くが」
「図書館で偶然本を手に取って読んだだけですが、古代タジーファ語は研究者が少ないようです。グランパとグランマは冒頭に出てくるので私も覚えておりましたが」
「そんな本をマリアンヌ様もお読みになっているとは」
「ご存じなだけではなく瞬時に名付けられましたわ。本当にすばらしい」
「噂には聞いていたが、こんなにご聡明なお方とは・・・」
「どのような教育をお授けになられたのでしょうか」

 エイアール様にお父様やお母様が質問されるが、二人は曖昧にほほ笑むだけである。答えることができないので笑っているだけなのだろうが、何やら意味ありげに見えるものである。

「今は女神の加護を受けてキッチンに籠っているけど、その前はよく図書室にいたよね」

 フランツ兄様が言うと、レオポール兄様もうんうんと頷く。

「俺が構ってやれないとヘソを曲げて図書室に逃げ込んでいたからな」

  あれ?そうだっけ。

「そうそう。それで僕が迎えに行って慰めてたんだよね。マリは僕じゃないと機嫌を直さないからね」

    チラリ、とフランツ兄様が誰かを見た。視線の先はダニエル様?子どものダニエル様相手に何を言ってくれてるんだ?

  「マリアンヌ様は本当に聡明なお方ですね」

    ダニエル様は笑顔で私を見ている。別の圧を感じた。私、そこまで聡明ではないぞ。余計なことを言わずにこのままやり過ごしてほしい。古代タジーファ語なんて知らないからね。

    そんなわけで、とりあえず全員が笑顔でお茶会を終えたのだった。



 


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