上 下
139 / 220

139

しおりを挟む

「ミャー」
「かわいいな」
「赤いリボンがよく似合ってるわね」
「ふわふわして撫でると気持ちいいな」

 ブラッドリータンゴという魔物に扮した悪魔を家族は絶賛可愛がり中である。あいつも悪魔のくせに「ミャー」とか「ニャゴ」とか鳴いて可愛い子ぶるものだから、全員メロメロ状態になっているのだ。

 私はといえば、家族たちのそんな様子に引いてしまっている。相手は悪魔だ。確かに黒い子ネコは可愛いが、さっきまで悪魔だったことを考えたら純粋に可愛がれない。

「ん?リリン、怖くないよ。こっちに来てごらん?」
「兄上、やはりマリに魔獣は・・・」
「天使ちゃん、この子も可愛いけど、天使ちゃんの方が何倍も可愛いわよ」
「なんだ、そういうことか」

 悪魔の猫に引いてるだけなのが、みんなが自分より魔獣に夢中なのが気に入らなくて拗ねてると勘違いされた。お父様に抱き上げられてしまう。

「ごめんごめん、意外に魔獣が可愛かったから」
「マリの方が可愛いに決まってるだろう?」 
【ふふふ、諦めて俺様を愛でるのだ】

 ニャーという声と一緒に悪魔の地声も聞こえてきた。

【この声はお前だけしか聞こえていない。これからお前とは仲良くやっていくのだからな】

 私は仲良くするつもりはないのだが、家族はこの子を飼うつもりだ。

「リリン、名前をどうする?」
「マリが決めてあげないと」

 兄様たちがニコニコと笑って私を見ている。それは理想的とも言える家族団欒のひとときだ。この子が悪魔じゃなければいいのだ。つい先ほどまで苦しめられていた悪魔の正体がコイツです!と言ったらどうなるだろうか。

【さっさと俺にふさわしいカッコイイ名前をきめろ】

 ニャーニャーとかわいらしい声にみんなは聞こえているが、私には悪魔の声が同時に聞こえる。悪魔につける名前なんて思い浮かばない。しかし家族たちの期待のこもった目が私を見てくる。

「じゃあ・・・、クロ」

 嫌がらせのつもりでわざとつまらない名前を提案した。

【何?そんな名前許さんぞ】

 悪魔が抗議の声を上げるが

「うん、いいね。クロ」
「クロ、可愛い響きだ」
「天使ちゃん、命名センスもあるわね」
「クロ、クロ、クロ・・・。ふふっ、この子も気に入っているようだね」

 家族たちは意外に気に入ってしまったようだ。

【そんな名前嫌だぞ。おい、そんな名前で呼ぶな、やめろ】

 悪魔は嫌がっているようだが、名前はクロで決定してしまった。

【チクショウ】

 文句を言っているが、その声はニャーニャーという猫の鳴き声で家族たちには聞こえている。まさか悪態をついているとは知らず、可愛い可愛いと目尻を下げていた。

 しかしなんで悪魔が魔獣の姿で私のところに来たのか。面倒ごとはもうゴメンだ。とりあえずは魔獣の黒猫を撫でてやる。気持ちいい。スベスベしている。

【どうだ、俺を可愛いがれ】

 クロと命名された悪魔は私の顔を見てニャーと子猫らしく鳴いたのだった。










 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

モブだった私、今日からヒロインです!

まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。 このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。 そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。 だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン…… モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして? ※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。 ※印はR部分になります。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜

蒼井美紗
ファンタジー
誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。 スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。 そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。 「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。 スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。 また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています。

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜

ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……? ※残酷な描写あり ⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。 ムーンライトノベルズ からの転載です。

【R18】翡翠の鎖

環名
ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。 ※R18描写あり→*

【R18】らぶえっち短編集

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)  R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。 ※R18に※ ※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。 ※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。 ※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。 ※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。

処理中です...