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その部屋にいるのは、陛下、宰相、アルバート王子、ドミニク騎士団長、そして魔法省の長官ゲルリーだった。
「リリア・マロウ伯爵令嬢の聴取内容をご報告します」
昨日、外出禁止令を無視して部屋を抜け出し、マリアンヌに危害を与えたリリアの聴取は比較的順調に行われた。むしろリリアは言い淀むことなく、1人勝手にペラペラと話したのだ。その内容は驚くべきものである。報告書は何十枚にもなった。事務官は吐き気をもよおしながらも作成した。
ゲルリーはその分厚い報告書の紙をめくった。内容はわかっているが、それを口に出して報告することが躊躇われた。横にいたドミニクはおでこに手を当てて大きなため息をついた。彼もリリアの聴取に立ち会ったのでその内容は把握している。
「まず、」
ゲルリーは全員の顔を見回した。陛下、アルバート王子、宰相は目を光らせている。内容を知らない3人はリリアがなぜマリアンヌを襲ったか動機を知りたいに違いない。だが、それを知ってしまったら混乱することが予測できた。どうなるだろう。ゲルリーは不安を感じたが、止まることはできない。
「リリア嬢の話した内容です。それをご留意ください」
勿体ぶった言い方にアルバートはイラついた。大事なマリアンヌを傷つけたのだ。できうる限りの刑で反省を促したい。本心を言えば極刑でも構わないと思っている。しかし、法を無視することはできない。
「まず。リリア嬢とアルバート王子は相思相愛でありました」
「は?会ったこともないし、マロウ伯爵などまともに聞いたこともないぞ」
思わずアルバートは机を拳で叩いた。リリア・マロウの名前を知ったのはここ数日のことだ。避難している令嬢の1人がやたらと庭園をうろつき、長時間ベンチに座っていると報告を受けていた。アルバートはリリアを放浪令嬢、と心の中で呼んでいた。決して好意からではない。
「リリア嬢の話した内容です」
感情を剥き出しにしているアルバートを一瞥し、ゲルリーは言った。
「続きます」
報告書に目を落とし、先に進む。
「伯爵家なので王子とは結婚ができない。そのためサーキス家の養女となり、公爵家の娘として王子と結婚することとなった」
「ふざけたことを」
宰相は憎々しげにつぶやく。アルバートはなおも拳を叩きつけ、怒りを抑えられずにいた。室内は重々しい空気になっている。
この程度でこの状態なら最後まで聞いたらどうなるだろう。ドミニクは不安を感じた。王族はあまり感情を面に出さない。それが王族というものである。陛下は過去に私腹を肥やして職務を放棄していた大臣に極刑を命じたことがある。その時の表情は能面であった。どんな時でも感情をコントロールする。感情に負けてはいけないのだ。それが王族の務めである。陛下は以前そんなことをドミニクに言った。アルバートはまだ若い。だが、将来のために簡単に感情を出してはならないことを学ばないといけないだろう。
「公爵家のレオポール、フランツはリリアを大層可愛がっていたが、マリアンヌはそれが許せず、リリアをいじめていた」
陛下はため息をついた。今報告されていることは一体何なのか?全く事実ではないことばかりが並べられている。その後も続くリリアの言い分に怒りが湧いてきた。
「つまり、この女は何なのだ!」
淡々と報告を続けるゲルリーに陛下は思わず怒鳴りつけた。
「嘘を並べ立てて、それでマリアンヌを傷つけたと言うのか!即刻マロウ伯爵家は廃爵に処する!」
一瞬の静寂の後、口を開いたのはドミニクだった。陛下も人間。感情を剥き出しにしている。そのことにドミニクは驚きもしたが、マリアンヌのために王族の務めを捨てた陛下のことは理解できた。
「廃爵については異論はありません。ですが、このリリアに関しては話が続きます」
「話?」
「はい、むしろここからが重大なのです」
ゲルリーはそう言って全員を再度見回した。
「リリア・マロウ伯爵令嬢の聴取内容をご報告します」
昨日、外出禁止令を無視して部屋を抜け出し、マリアンヌに危害を与えたリリアの聴取は比較的順調に行われた。むしろリリアは言い淀むことなく、1人勝手にペラペラと話したのだ。その内容は驚くべきものである。報告書は何十枚にもなった。事務官は吐き気をもよおしながらも作成した。
ゲルリーはその分厚い報告書の紙をめくった。内容はわかっているが、それを口に出して報告することが躊躇われた。横にいたドミニクはおでこに手を当てて大きなため息をついた。彼もリリアの聴取に立ち会ったのでその内容は把握している。
「まず、」
ゲルリーは全員の顔を見回した。陛下、アルバート王子、宰相は目を光らせている。内容を知らない3人はリリアがなぜマリアンヌを襲ったか動機を知りたいに違いない。だが、それを知ってしまったら混乱することが予測できた。どうなるだろう。ゲルリーは不安を感じたが、止まることはできない。
「リリア嬢の話した内容です。それをご留意ください」
勿体ぶった言い方にアルバートはイラついた。大事なマリアンヌを傷つけたのだ。できうる限りの刑で反省を促したい。本心を言えば極刑でも構わないと思っている。しかし、法を無視することはできない。
「まず。リリア嬢とアルバート王子は相思相愛でありました」
「は?会ったこともないし、マロウ伯爵などまともに聞いたこともないぞ」
思わずアルバートは机を拳で叩いた。リリア・マロウの名前を知ったのはここ数日のことだ。避難している令嬢の1人がやたらと庭園をうろつき、長時間ベンチに座っていると報告を受けていた。アルバートはリリアを放浪令嬢、と心の中で呼んでいた。決して好意からではない。
「リリア嬢の話した内容です」
感情を剥き出しにしているアルバートを一瞥し、ゲルリーは言った。
「続きます」
報告書に目を落とし、先に進む。
「伯爵家なので王子とは結婚ができない。そのためサーキス家の養女となり、公爵家の娘として王子と結婚することとなった」
「ふざけたことを」
宰相は憎々しげにつぶやく。アルバートはなおも拳を叩きつけ、怒りを抑えられずにいた。室内は重々しい空気になっている。
この程度でこの状態なら最後まで聞いたらどうなるだろう。ドミニクは不安を感じた。王族はあまり感情を面に出さない。それが王族というものである。陛下は過去に私腹を肥やして職務を放棄していた大臣に極刑を命じたことがある。その時の表情は能面であった。どんな時でも感情をコントロールする。感情に負けてはいけないのだ。それが王族の務めである。陛下は以前そんなことをドミニクに言った。アルバートはまだ若い。だが、将来のために簡単に感情を出してはならないことを学ばないといけないだろう。
「公爵家のレオポール、フランツはリリアを大層可愛がっていたが、マリアンヌはそれが許せず、リリアをいじめていた」
陛下はため息をついた。今報告されていることは一体何なのか?全く事実ではないことばかりが並べられている。その後も続くリリアの言い分に怒りが湧いてきた。
「つまり、この女は何なのだ!」
淡々と報告を続けるゲルリーに陛下は思わず怒鳴りつけた。
「嘘を並べ立てて、それでマリアンヌを傷つけたと言うのか!即刻マロウ伯爵家は廃爵に処する!」
一瞬の静寂の後、口を開いたのはドミニクだった。陛下も人間。感情を剥き出しにしている。そのことにドミニクは驚きもしたが、マリアンヌのために王族の務めを捨てた陛下のことは理解できた。
「廃爵については異論はありません。ですが、このリリアに関しては話が続きます」
「話?」
「はい、むしろここからが重大なのです」
ゲルリーはそう言って全員を再度見回した。
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