上 下
109 / 220

109

しおりを挟む
「兄様!」

 騎士団の群れの中に一際目立つイケメン。レオポール兄様を見つけた。

「お怪我はありませんか?」
「大丈夫、数は多かったけど大した奴らじゃなかったよ」

 レオポール兄様は笑顔だった。確かに周りの騎士の人たちも笑顔で談笑している。

「牛丼、用意しますね」

 作り置いていた牛丼はすでにお腹の中に入ったようなので、すぐに作りに向かう。

「マリ、走ったらダメだよ」
「はぁい」

 フランツ兄様の注意に呑気に答え、私は大量の牛丼をコピーする。そして半熟卵とキムチを用意。

「うわぁ、これこれ」
「はぁ~、騎士になってよかった」
「討伐もうまくいったし、ギュウドンは美味しいし」

 あちこちから安堵した声や感嘆の声が上がる。大した奴らではない、と言ってもやはり戦ってきたのだから、お疲れ様と言いたい。

「マリアンヌ嬢、相変わらず美味しいですね」

 おにぎりを頬張っているのは魔法省のゲルリーだ。

「大量に送ってくださるので大変助かります」

 モグモグしながらも次のおにぎりを手にしている。こうやって食べていくならすぐになくなるのは理解できた。

「実は陛下にもご報告することがございます」

 陛下にご報告ならおにぎりを飲み込んだ後ですべきだろうし、そもそもおにぎりを手放すべきだと思う。だがゲルリーはおにぎりを両手に持ち、おにぎりを食べながら話しだす。とてもお行儀が悪い。しかしどうしてだか不快感を感じないし、誰も注意しない。

「実はですね。うわっ」

 突然ゲルリーが大声を出した。驚いたように動きが止まる。全員が彼に注目をした。

「こ、これ。中身が違うんですか?」

 片手に持ったおにぎりを見つめながら、ゲルリーが私に向かって言った。

「はい、今日は5種類あります」

 中身はおかか、昆布、しゃけ、たらこ、梅干しである。1列ずつ並べて置いたが、特に誰にも聞かれなかった。食べるまで中身はわからないのがおにぎりの楽しいところだと思う。

「どっ、どうして・・・。どうして教えてくれなかったんですかっ!」

 ゲルリーはこの世の終わりみたいに嘆き、全部平らげてやるとがっつき出した。

「ゲルリー、おにぎりはいいから報告を続けよ」
「は、はい」

 ゲルリーはモグモグしながら、これは昆布だとつぶやいた。なぜこの横暴が許されるのかよくわからないのだが、誰もが彼の発言を静かに待っている。

「スティラート公爵と彼が集めて魅了の術を使われた元使用人たちが脱走しました」

 え?彼らは確か魔法省の管轄の牢に入っていたはず。魔法で厳重に監視されて裁判を待つ身と聞いていた。

「それは一大事ではないか!」
「あいつらが逃げたから魔物が発生したのではないか」
「今すぐ包囲網を!」

 部屋中が大騒ぎになった。が、ゲルリーは全く動じることもなくおにぎりを食べすすめている。

「何か秘策があるのか?」

 聞かれてもゲルリーは答えない。ただひたすらおにぎりを静かに食べている。この落ち着きっぷり。きっと問題ないのだろう。私はそう思ったが。

「いや、特に何も」

 え?それならやばいんじゃないの?落ち着いてていいの?

「でも魔力もないただの人間ですよ。大した問題はないでしょう」

 いや、問題ありでしょう。犯罪に関わった人たちだよね。結構な凶悪犯だよ。私の感覚がおかしいのか。この世界はこれでいいのか。ゲルリーはおにぎりをまだまだ食べるつもりのようである。大丈夫なのだろうか。色々。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

【完結】俺様フェンリルの飼い主になりました。異世界の命運は私次第!?

酒本 アズサ
ファンタジー
【タイトル変更しました】 社畜として働いてサキは、日課のお百度参りの最中に階段から転落して気がつくと、そこは異世界であった!? もふもふの可愛いちびっこフェンリルを拾ったサキは、謎の獣人達に追われることに。 襲われると思いきや、ちびっこフェンリルに跪く獣人達。 え?もしかしてこの子(ちびっこフェンリル)は偉い子なの!? 「頭が高い。頭を垂れてつくばえ!」 ちびっこフェンリルに獣人、そこにイケメン王子様まで現れてさぁ大変。 サキは異世界で運命を切り開いていけるのか!? 実は「千年生きた魔女〜」の後の世界だったり。 (´・ノω・`)コッソリ

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

【完結】伯爵令嬢が効率主義の権化だったら。 〜ドレス汚し犯(侯爵子息)の行き着いた先〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「……何でなんだ」  硬い表情でそう尋ねてくる問題の侯爵子息と、セシリアは今真っ向から対峙する。    ***    社交界デビューの日。  初対面で伯爵令嬢・セシリアのドレスに葡萄色のシミが作られた事件から、はや数ヶ月。 「別に悪気は無かったんだ。足がもつれてつい、な」  などというバレバレな言い訳をした侯爵子息にセシリアが仕返しとしっぺ返しを繰り広げ、今やそれが社交場のトレンドワードとなっていた。  そのせいでものの見事に貴族としての影響力を失いつつある侯爵家。  そんな彼らを尻目に、セシリアは平和な日々を送っていたのだが……?    やってくる侯爵子息。  待ち受けるセシリア。  彼女の後ろに控える執事・ゼルゼンに……意味もなく巻き込まれるセシリアの友人・レガシー。  それぞれの思いが交錯し、ついに何かが変化する。    『効率主義な令嬢シリーズ』侯爵子息編、ついに完結。   ◇ ◆ ◇ 最低限の『貴族の義務』は果たしたい。 でもそれ以外は「自分がやりたい事をする」生活を送りたい。 これはそんな願望を抱く令嬢が、何故か自分の周りで次々に巻き起こる『面倒』を次々へと蹴散らせていく物語・『効率主義な令嬢』シリーズの第5部作品です。 ※本作品までのあらすじを第1話に掲載していますので、本編からでもお読みいただけます。  もし「きちんと本作を最初から読みたい」と思ってくださった方が居れば、第2部から読み進める事をオススメします。  (第1部は主人公の過去話のため、必読ではありません)  以下のリンクを、それぞれ画面下部(この画面では目次の下、各話画面では「お気に入りへの登録」ボタンの下部)に貼ってあります。  ●物語第1部・第2部へのリンク  ●本シリーズをより楽しんで頂ける『各話執筆裏話』へのリンク  

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

召喚魔法で幼児が現れました僕がなりたい職業は保父さんではなく冒険者なのですが

盛平
ファンタジー
 レオンは待ちに待った十五歳の誕生日を迎えた。レオンの一族は、十五歳になると、自らを守護する精霊と契約するのだ。レオンが精霊を召喚すると、現れたのは小さな幼児だった。幼児は自分を神だと名乗った。だが見た目も能力もただの幼児だった。神を自称する幼児のアルスは、わがままで甘えん坊。レオンは気を取り直して、幼い頃からの夢だった冒険者になるため、冒険者試験を受けた。だが自分を守護するアルスはただの幼児。あえなく試験に落ちてしまった。夢をあきらめられないレオンは冒険者見習いとして、自称神と共にマイナスからのスタートをきった。

「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。

亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません! いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。 突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。 里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。 そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。 三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。 だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。 とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。 いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。 町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。 落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。 そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。 すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。 ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。 姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。 そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった…… これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。 ※ざまぁまで時間かかります。 ファンタジー部門ランキング一位 HOTランキング 一位 総合ランキング一位 ありがとうございます!

処理中です...