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リリア・マロウ。伯爵家の一人娘である。祖父の代までは財産もあり、社交界でもそれなりの地位と人脈を築いていた。しかしその祖父が事故で急死し父の代になった途端、状況は一変した。

 両親は家がどのように収入を得ていたか、どのくらいの額なのか知らなかった。お金は使ったら減るということも理解できず、ただひたすら浪費した。古くからいた使用人たちが生活を改めるように進言したが、両親は聞き入れなかった。そのため、スタンピード直前のマロウ家は悲惨な状態になっていた。

 使用人は全て辞めてしまった。彼らが給料を貰って働いていたということさえ、両親は気づかなかった。家のあちこちが壊れて修繕が必要だが、どうしたらいいかわからないのでそのままになっていた。その家も魔獣たちが全て壊してくれ、一家はお城に避難した。

 早く家に戻りたい。そんな声が多く聞こえる中、リリアは快適な避難生活を過ごしていた。お城は家の何百倍も過ごしやすく、彼女は家に戻りたくないと思っていた。

 彼女はいつものように王城内にある庭に向かった。一般に解放されているその庭に彼女は毎日散策に出かけた。

『私はおしゃべりな女性は好みではないんだ。できれば自然の中で本を読むような物静かな女性が好きなのだ。どこかにそんな女性はいないのか?』
 殿下の発言にお付きの者たちが顔を見合わせる。そして1人の家来が進言する。
『そういえば、避難されている貴族の中で毎日庭を散歩したりベンチに座って読書をしているご令嬢がいらっしゃいます』
 その声に殿下は顔を上げる。
『どこの令嬢だ。すぐに連れて来い』
『はい、リリア・マロウ様です』

 彼女はそんな想像をして微笑む。殿下に気づいてもらうためにも、彼女は毎日庭を歩き回り、適当なベンチに腰をかけて本を開く。その本は祖父の遺品の中にあったもの。重厚な装丁でいかにも貴族が古くから持っている蔵書という感じの本だ。少し古ぼけたところがお気に入りのものである。家屋敷が魔獣によって破壊されていた最中、彼女はこの本を持って逃げたのだ。

 実は、本を開いてみても何の話なのかさっぱりわからなかった。比喩的表現が多すぎて難解なのだ。しかし、その難解さも彼女は気に入っていた。読んでもいないのに読んでるふりをする。庭には見回りなのか時々騎士が通りかかる。その騎士に「読書を楽しむ令嬢」を印象づける。

 殿下がそういう女性が好きなのかは不明だが、彼女は何故だかそうに違いないと思っている。いずれ殿下と出会えば恋が始まると彼女は思い込んでいた。







 
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