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 お父様とレオポール兄様が帰ってきた。レオポール兄様は荷物のようにダニエル様を小脇に抱えていた。ダニエル様はぐったりとしていて、時々うわごとのように「まだやれましゅ~」と呟いていた。

「なかなか根性があったよ」

 レオポール兄様は何故だか嬉しそうである。子どものダニエル様相手にここまでやることはないだろう。レオポール兄様は大人気ないにも程がある。

「このくらいの稽古を続けないと、近衛は無理だからね」
「ダニエル様、近衛兵になるのが夢なんですね」

 レオポール兄様と側にいたフランツ兄様が呆れたように私を見た。

「マリ、ダニエルはマリを守るって言ってただろう?」
「はい・・・」
「自覚がないんだね、近衛兵は王族を守るんだよ」
「はい・・・」

 何が言いたいかわからず首を傾げた。ため息をつきながら、レオポール兄様が言う。

「リリン、リリンは王族になるんだろう?アルバート殿下と結婚するんだから」

 そう言われて、私はあっと気がついた。私は殿下と婚約が決まり、結婚するのだ。相手は王族。私を守りたいというダニエル様の夢は近衛兵になるということである。まだ発表されていないけど、つまりはそういうことだ。

 まるっきり実感がなかった。結婚なんて言われても相手は数回しか会ったことがない。それもともかく、王族。元はド庶民なのに大丈夫なのか。かなり心配になってきた。

「大丈夫?今から少しずつでも自覚していかないと」
「マリなら大丈夫と思うけどね」

 兄様たちに優しく言われて私も少し落ち着いてきた。ダニエル様はふらふらになりながらも着替えに向かっている。

「牛丼、食べられますかねぇ」

 ダニエル様の後ろ姿を見守りながら、思わず呟いた。残業が続くと牛丼が食べたくなった。だが、疲れすぎると食欲がなくなって牛丼も食べられなくなる。そうなると倒れる一歩手前って感じだった。

「何?今日はギュウドンなのか?」

 レオポール兄様の目がキラキラと輝いている。

「あの卵もつくのか?」

 半熟卵ですね、ありますよ。私は目を細めて軽くうなづいた。お兄様も牛丼の虜ですね。私は味変でキムチと一緒に食べるのも好きなのですよ。心の中で呟いた。キムチはまだ見つからないからだ。そのうち女神様が出してくれるかな。

「すぐ着替えてくる」

 嬉しそうにレオポール兄様は自室に向かって行った。ギュウドン、ギュウドン、嬉しいなっという謎の歌を歌いながらである。うーん、かっこいい人なのにだんだん惜しい人になってきたな。レオポール兄様の後ろ姿を見ながら、そんなことを思っていたのであった。




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