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 メアリのいとこのアンはエイアール家のメイドである。メアリはクールビューティという感じの凛とした美人さんだが、アンは愛嬌のある感じの可愛らしい人であった。お裁縫が得意とのことで早速お願いをする。

 私はクローゼットの奥にあったレースやドレスの生地の端切れなどを渡す。そして、今朝ノートル様に貰ったゴムを見せると説明を開始した。

 作って欲しいものはシュシュである。髪を留めるためもあるし、袖を捲ってアームバンドのように使いたい。アンは私の説明を聞くとすぐに第1号を作ってくれた。

「こんな感じですか?」
「これよ、ありがとう」

 私はそれで袖を捲った。今着ているワンピースに色合いが合っているので、こういったデザインの洋服に見えなくもない。何より作業もしやすい。

「お嬢様、いいですわ」
「さすが。おしゃれに見えますし、簡単にイメージを変えられます」
「何より簡単ですから、たくさん作ってその日の気分に合わせてもできますね」

 メアリとアンは盛り上がって話をしている。他のメイドも色々とアイデアを出し合っている。

「これは商品化すべきですわ」

 そこに現れたのはキリリとした女性。ステファニー様が独身の時からつかれている、専属のメイドさんである。その姿を見て他のメイドさんたちは一様に頭を下げた。

「初めまして、マリアンヌ様。レイラと申します」

 レイラはエイアール家のメイド長という立場らしい。丁寧に挨拶をした後、出来上がったシュシュをじっくりと見ている。私が作ったわけではないが、採点を待つみたいな気分になってドキドキした。

「これは大変便利ですし、画期的なものです」
「お嬢様、確かに素晴らしいものですわ」
「そうですわね。商品化した方が宜しいですわね」

 商品化?そんな大層なものではないだろう。しかし私の様子を見たレイラとメアリは意気投合したかのように畳み掛けてきた。

「宰相様にご相談して、すぐに手続きしたほうが宜しいでしょう」
「そうですわ。お嬢様、全て私どもお任せください」
「こういったことは勢いが大事です。すぐに行動致しましょう」
「善は急げと言いますしね」
「そうですわ」

 早口で捲し立てられ、私は勢いに負けてうなづくしかできなかった。騒ぎを聞きつけたのか、他の部屋にいたセバスチャンとマーサもやってくる。話を聞いて2人とも大きくうなづいている。

「あと、昨日のあのお花についても社交界で流行らせるべきと思いますわ」
「あぁ、あのお花」
「あの輪っかのお花。ドアに飾るなんて素晴らしいアイデアでしたわね」
「感激致しましたわぁ」

 いつの間にかステファニー様も話に加わる。

「マリアンヌ様、天才でございますわね」
「えぇ、そうですとも」
「社交デビューされていないにも関わらず、マリアンヌ様のお噂はあちこちで聞かれますわ」

 何だかわからないまま、私は出来上がったシュシュで髪を結ぶとキッチンに戻ることにした。それに気づかず彼らはずっとマリアンヌがいかに素晴らしいか語り合っているのであった。正直、もういいよと思う。


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